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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
妖精と大熊、本領を発揮する
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2

 気持ちを切り替えて地図を見るエルフリートに、ケリーが声をかける。


「フリーデ、お前ならどこに仕掛ける」

「私は野生動物相手の実績しかありませんが、それでよければ」

「かまわない」

「なら、こことか……ここ、こういう場所にくくり罠を設置します。野生動物は足を引きちぎってでも逃げようとしますが、まず普通の人間ならほぼ無傷で捕虜を作れますね。

 今回は相手が人間なので、トラバサミとくくり罠の同時使いがおすすめです」


 地図上を示しながらエルフリートは説明する。


「ただ、人間の場合は個別の捕縛が肝となると思います。近くに複数設置したところで、お互いに罠を解除しあって逃げ出されてしまいますから」

「両方使う理由は?」


 エルフリートはにっこりと笑う。


「目立つトラバサミの解除に集中してもがいている間に、くくり罠が肉に食い込みます。そうなれば簡単には解除できなくなります。

 罠って、道具や知恵さえあれば割と解除できちゃうんですよねぇ。

 一網打尽って意味では、落とし穴でも良いんですけど、やっぱり人数がいれば逃げる手段なんていくらでも作れます」


 ここは具体的に伝えた方が良いだろうか。

 エルフリートは詳しく話し始めた。


「落とし穴の場合、串刺しにしちゃえば逃げられないですけど今回の趣旨が変わってしまいます。でも、何も仕掛けないただの穴だと、二桁の人間がいれば人間を足場にして一人が穴から抜け出せます。

 そうなれば、後は縄かそれに準ずるものがあれば全員脱出できますね。それ対策で出られないほどの穴を作ったら、落下で死ぬ可能性があるので、また趣旨からはずれます」

「……後で、効率の良い罠の解除方法をまとめておいてくれ」

「分かりました」


 ケリーが何とも言えない顔をしている。

 呆れているというか、困惑しているというか。別にそんな顔をさせるような発言はしてないと思うけどなぁ。


「ブライス、向こうに山の知識のある人間がいたとして、どのぐらいの規模の部隊にすると思う?」

「俺なら、目の行き届く少数にするな……多くても一部隊は二十人未満。合流場所を決めておいて、複数経路で移動します」

「……まあ、そうなるよな」


 隊列を組んで進軍は無理だもんね。エルフリートもそれには同意する。少人数を一網打尽にしたいけど、限度はあるし。可能だけど、そうなったらもう一般人が作る“普通の罠”じゃない。

 人間が通る予定の場所を想定し、罠を繋げていかないと一網打尽にできない。大木の位置が分かればもう少し具体的に組み立てられるんだけど。

 エルフリートが考え込んでいると、ケリーがその思考を断ち切った。


「フリーデ、ブライスと協力して戦略的な罠の設置案をまとめるように。必要ならば、追加の資料をクノッソ領へ請求しなさい。とりあえず席に戻って良い。ありがとう」


 エルフリートはブライスと視線を交わした。彼はエルフリートを安心させるように軽く頷いてみせる。俺と組めば大丈夫だ。そう言われているみたいで頼もしい。


「では、複数に分かれた部隊をそれぞれ罠に捕らえたと仮定し、それらを効率よく回収していくかについてだが……」


 捕虜のほとんどは罠のせいでケガを負っている可能性が高い。それも踏まえての打ち合わせが続いた。




 会議が終わると、エルフリートはブライスを呼び出した。もちろん打ち合わせをする為である。エルフリートの部屋にブライスとアイザック、ロスヴィータとバルティルデが揃っている。

 本当はエルフリートの事情を知らないアイザックがいない方が良かったのだが、そうは言っていられない。


 エルフリートは全員分の紅茶と茶請けを用意し、淑女らしく配った。壁に貼りつけた地図が見えるようにソファの配置を変えたから、長方形のテーブルに対してソファが斜めになってしまい、変な感じがする。


「私は野生動物の歩きそうな所は予測できるけど、人間が隠密で侵入していく姿の方はまだよく分からないの。

 相手側の動きを想定できる人はブライスかな?」

「俺とアイザックはもちろん、バティも分かるだろ」


 ブライスがロスヴィータ以外の名を出す。実践なしでは優れた軍帥になれない。エルフリートと同じで勉強中なのだ。


「それぞれの思いついたプランを出せば、どれかは当たっていると思う」

「あたしは実働部隊なんだけどな」


 アイザックの提案にバルティルデが不満そうな声を漏らすが、そんな彼女をエルフリートは笑う。ああ言ってはいるが、彼女の判断力は本物だ。だからきっと傭兵時代もその若さで生き抜いてきたのだろう。

 そんな人間が、ただ“指示を受けた通りに何も考えずに戦ってきた”はずがない。


「まあ、バティが本当に無能かどうかはプランを出させれば分かるさ」

「変なプレッシャーはやめてほしいね」


 ブライスが挑戦的な視線をバルティルデに寄越す。彼女はそれを受けて立つどころか、軽く流してしまう。そんな余裕のある態度を見たエルフリートとロスヴィータは同じタイミングで笑い声を漏らすのだった。

2022.5.22 誤字修正

2024.8.5 一部加筆修正

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