表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥会場から流血会場へご招待

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/87

1

 順調だったのはカッタヒルダ山(この場所)だけだった。一番最初に衝撃的な報告を受けたのはロスヴィータであった。


「――私の聞き間違い、ではないんだな」

「こちらが正式な書簡です」


 手紙の封蝋は王家の紋章で、中身が彼の言う通りの内容である可能性は高い。というのも、書簡を持ち込んだ人間はロスヴィータも良く知る王の近侍だったからだ。

 ロスヴィータは慎重に封蝋をはがす。中身には、彼が言っていた事よりも深刻な状況が書かれていた――。




「君たちには、このままガラナイツ国が侵攻してきたカリガート領へ向かってもらう」


 ケリーが沈鬱そうな趣で話しだした。本当ならば、ボルガ国の侵入者を捕らえ、捕虜として収容し終え、これからいざ交渉という流れになるはずだった。だが、ロスヴィータとケリーにもたらされた王からの書簡によって、急な変更を要したのだった。

 エンリケ隊の騎士以外は全員集まっている。ケリーの隣にエンリケが着席し、他の面々は対面という少々変わった配置だ。

 カリガート領は、宗教都市と呼ばれる特殊な地域である。農耕と牧畜が盛んで資源が豊富にある。それらの恵みを神からの祝福であるとした宗教が有名だ。

 良くも悪くもおおらかな人間で構成されたその領に、領兵はほとんどいない。辺境領であるにも関わらず、である。


「この国内で一番最初に狙われるとしたら、と思い浮かべる領の一つである事は騎士であるお前たちにとっては当然だと思う。

 ついに、狙われた。すぐに騎士団総長を含む騎士が、王都の守りを薄くしてでも徹底的に向かい討てという指示のもと向かった。事実、今は戦闘状態だそうだ」


 ロスヴィータは王からの手紙を思い出した。女性騎士団は全員出動済み。戦の経験もなく、さらには模擬戦の経験すら少ない彼女たちが、いったい戦場に行ったところでどうなるというのだ。ただの的になるだけではないか。

 ロスヴィータは奥歯を噛みしめる。

 隣に立つエルフリートには、集合がかかる前に書簡を見せておいた。ロスヴィータと同じく、一秒でも早く駆けつけたいと思っているだろう。


「おそらく、ボルガ国のカッタヒルダ侵入を知ったのだろう。宗教都市の侵略行為は忌避すべきものだから、手ぐすねを引いていた状態だったはずだ。だが、短期陥落で被害を最小に抑える事さえできればそう非難はされまい。

 それを狙ったに違いない」


 卑怯だとは思わない。今までが平和すぎたのだ。


 ――その均衡がアルフレッドのせいで崩されただけで。ロスヴィータの胸に、アルフレッドへの怒りがふつふつと沸き上がる。握りしめた拳に、エルフリートの手が添えられた。

 ちらりと視線を向けたが、彼はまっすぐとケリーを見つめたままだった。


「近隣領が慌てて抗戦し、その間に騎士団が合流できたようだが……情報の収集不足が徒となって、だいぶ状況が悪い」


 ガラナイツ国からやってきた侵略者のほとんどが魔法騎士だと書いてあった。魔法対策をしていない普通の騎士では不利だ。下手すれば、ちょっと邪魔な壁扱いされてしまう。


「現在、魔法士がカリガート領へ向かっている。しかし機動力を考慮すると我々の方が早く到着するだろう」

「副総長は参加されないので?」


 ロスヴィータの声が響いた。ケリーの実力は把握している。できれば、一緒に動きたかった。


「俺は、このままボルガとの交渉に移る。すぐに締結し、後を追いかけるつもりだ。今日から、ここの守備はエンリケが指揮を取る」

「分かりました」

「戦況などの詳細は、到着後に知らされる。それまでは、最速で移動する事だけを考える事。では、明日の早朝にはここを発ってもらう。

 今日は、作戦完了直後だ。明日からの作戦に備え、ゆっくり休め」

「分かりました」


 ほとんど説明らしい説明がされぬまま、会議は終わった。ロスヴィータはエルフリートと共に立ち上がる。


「おい、そこの二人。悪いが少し残ってくれ」


 ケリーの呼びかけに、二人は顔を見合わせた。




「お前たちにだけは、話をしておきたい事がある」


 がらんどうになった室内でケリーが口を開いた。


「ロスが捕まえたボルガ兵の一人が傭兵というか、ちょっと変わった経歴の人間でな。結論を言えばこちら側の諜報なんだが、そいつが色々な情報をもたらしてくれた」

「……まさか、それって」


 ロスヴィータには心当たりが一人。


「しっかり筋肉がついていてそこそこ顔が整っている割に、もさっとした髪型の男か? 暗めの茶髪で、印象が残りにくい色味の目……だめだ、目の色は思い出せない」

「そいつだ」


 最後に罠へ落とした男である。子供だましみたいな罠にかかるわけがないと言おうとしながら罠にかかったあの姿が頭によぎった。


「言いたい事は何となく分かるが、あれでなかなか優秀な男だ。あいつが入手した情報によると、すでにボルガにはアルフレッドはいないらしい」

「何だって?」

「交渉しようがないじゃない」


 ずっと大人しくしていたエルフリートも口を挟んできた。


「戦を仕掛けるタイミングで、思うところはないか?」

「まさか……!」

「そうだ。おそらくアルフレッドは今、ガラナイツ国にいる」


 エルフリートの眼孔に、険しい光が灯った。

2024.8.18 一部加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ