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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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14

 ロスヴィータとセーレンが罠にはめたのは合計四人。予想が正しければ残り二人である。後はグレッドソンを追った敵兵がうまく罠に誘導されているのを祈るばかりだ。


「兄様、びっくりしたねぇ」

「あ、ああ……見知らぬ人間に追いかけ回されるとは、とんだ災難だったな」


 突然大げさなそぶりを見せたセーレンに、動揺しつつも話を合わせる。


「途中ではぐれちゃったけど、大丈夫かなぁ」

「あの男の事だ。無事だろう」

「うん……」


 しょんぼりとした姿を見せるセーレンにピンときたロスヴィータは、彼の額に口づける。


「いるのか」


 聞けば、セーレンが目を細めて何とも言い難い表情を作る。どういう時の顔か、ロスヴィータには見当がつかない。


「うん。ロスの後ろ」

「我々で罠を動かそう」


 ロスヴィータは罠にはまる算段をし始める。罠にはまると言っても、本当にはまるわけではない。通り過ぎるだけだ。罠を作動させ、相手にぶつけようという事である。

 本当は罠を動かして、吹き飛ばされてほしいのだが、この状態だと難しい。

 だから、人間を吹き飛ばすほどの速度でしなる乗馬鞭のような竹で叩き潰そうというのである。潰すと言っても、死なせない程度に、であるが。


「罠が目視できるから、それとなく移動するぞ」

「分かった」


 思わぬ出来事に疲れ切った兄弟といった空気を作り出す為、ロスヴィータはセーレンの肩に腕を回すようにして彼を回転させる。小さく、追跡者が出していると思われる地面を踏む音がした。


 反応したい。すぐにでも背後の脅威を自ら排除してしまいたい。そんな欲求がせり上がる。ロスヴィータ自身が、強い警報をかき鳴らしているのだ。しかし、ボルガ兵の全員が罠にはまったという実績が必要だ。

 少し判断を間違えれば自分が竹に殴り飛ばされる。そうなる前にボルガ兵と接触するかもしれない。全く気の抜けない数十歩だった。


「おい、そこの二人」

「!」


 驚いた風に、ロスヴィータとセーレンがほぼ同時に振り向いた。予想より近い。背中に冷や汗を感じた。


「変な奴じゃない。道が分からなくなってしまったんだ」


 そう言って両手を上げて自分が安全だと示しているつもりらしい男が、ゆっくりと近付いてくる。ロスヴィータは思わずセーレンを隠す。


「ロス、運が向いてきたよ。すぐに罠を動かそう」


 運が向いてきた、とはどういう事だろうか。ロスヴィータは疑問に思いつつも、目の前の男に敵意の目を向けた。


「……うちの領民ではないだろう? 悪いが、そういう声かけには応じるなと言われているんだ」

「そういう教育を受けている事、普通は秘密にするもんだぜ。これだからぼんぼんは」

「なっ!」


 未熟さを笑われて憤怒するふりは、うまくできただろうか。ロスヴィータはあまり自信がなかった。


「カウントは五」


 ロスヴィータの耳にセーレンの囁きが届く。次の瞬間、セーレンが駆け出し――転倒した。セーレンがやろうとしている事は分からないが、従うだけだ。ロスヴィータはカウントを開始した。


 五

「セーレン!」

 四

「領主の息子だろ」

 三

「知るか!」

 二

「いい加減逃げるの――っと」


 ロスヴィータはセーレンの転んだ方へ向かうそぶりを見せ、横に転がった。

 ひゅんっと風を切る音が聞こえてくる。ボルガ兵も同じように避ける。


「こざかしいな」


 セーレンが近くにある別の罠を動かしたらしい。男はそれを避けつつ悪態をついた。器用なことに地面を転がって逃げ切った彼は、頭を上げて叫んだ。


「こんな子供だましみたいな罠、俺には――!?」


 次の瞬間、彼は大地に吸い込まれていった。竹に吹き飛ばされた先に設置している穴に落ちたのである。落とし穴の罠は、男の体重を感じ取ってしゅっと蓋を閉じた。

 途端に静寂が戻ってくる。


「まんまとはまったな……」

「フラグの回収、早かったね」

「優秀な人材なんだろう」


 ロスヴィータは半笑いになる。この辺りは、少し間違えると罠にかかるようになっている。ロスヴィータも必死で配置を覚えたものである。セーレンはそれをうまく使ったのだ。


「でも良かったよ。ロスが避ける方向を間違えないでくれて」

「いや、反対側に避けたら私が罠に落ちていたじゃないか」

「そりゃそうなんだけど」


 本当に計算高い。ロスヴィータはこういう人材が女性騎士団にも必要だと強く思うのだった。

 顔を見合わせていると、近づいてくる音が聞こえてくる。音の方へ視線を向ければ、ゆったりと歩いてくる男が一人。


「助かりました。なぜかこちらには一人しか来なくて」

「グレッドソン」


 どうやら付き人役は人気がなかったようだ。代わりに最年少で領主の子供と思われるセーレンが狙われたらしい。


「最後の一人、俺を無視して遠ざかっていくものだからどうしようかと」

「くだらない罠になど引っかからないって言いながら穴に落ちていったよ」

「ああ。聞こえてたよ。ユニークな人だったな」


 穴の中に捕らえた人間には聞こえないからと言って、好き放題な二人に、ロスヴィータは緊張がゆるむのを感じるのだった。


2022.5.31 誤字修正

2024.8.17 一部加筆修正

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