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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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23/87

13

 ロスヴィータはいたって冷静に追っ手から逃げていた。すでにセーレンとグレッドソンの姿は見えなくなっている。

 三人がバラバラになれば、追っ手も別れるはずだ。現に、ロスヴィータを追っているのは一人である。

 そして三人いたという事は、後方支援で少なくとも三人いるはずだ。きっと、それも均等に分かれてロスヴィータたちの追っ手を追いかけている事だろう。


 二人ずつ敵がついてきているだろうという仮定をもとに、ロスヴィータは罠を仕掛けている場所の近くまでやってきていた。まずは、すぐ側まで迫ってきている一人を秘密裏に確保したい。

 距離の開いて追跡しているであろう敵が、一人目が罠にかかる瞬間を見てしまうと警戒するに決まっている。だから、こっそりと処理しなければいけないのだ。あまり音が立たず、大人しい罠……――ってここにはないぞ!?


 ロスヴィータはようやく焦りを感じた。まずい。ロスヴィータは竹林に入ってしまっていた。近くにあるのは、竹を使った派手な罠である。絶対にひっかかりたくないと思わせるものだ。竹がしなる性質を使い、人間投石器――石は投げないから投人器か?――を作ったのである。

 さすがにその罠に一人目を引っかけたら、二人目は警戒してしまう。罠で人間が吹き飛ぶ姿は、誤魔化しようがないのだから。


 二人目の追跡者の場所が分かれば、多少はチャンスがあるかもしれない。そう思えども、ロスヴィータの視界には、二人目の姿が入ってこない。

 息を乱したふりをして、後ろを見る。やはり分からない。仕方ない。一人目は、罠に引っかかった人間を留め置く場所に落とそう。ロスヴィータは最終手段を取る事に決めた。

 罠にひっかった敵が飛ばされる先には、彼らが大けがをしないように穴が掘られている。その穴には網が仕掛けられており、人などの重さが加わると自動的にふたが閉まるような仕組みになっている。その穴を使うのだ。


 対になる仕掛けをすぐに解除しないと、間違えて罠にかかった人間が大けがをしてしまう。少々リスクのある手段だが、背に腹は代えられない。こんな風に考慮してもらえる彼らは幸運だ。侵入者にここまで優しい国はないだろうから。

 本来ならば、即切り捨てられてしまっても誰も文句は言えない。ロスヴィータは少しずつ穴のある方へ足を向けた。

 相手に気取られないよう、慎重に、バテ始めた青年を装おう。セーレンやグレッドソンが向かった場所にある罠のゴール地点を避け、目的の地点に辿り着いた。そこで、盛大に転んでみせる。まあ、転ぶふりだが。


 転ぶ姿が追っ手には見えたはずだ。ロスヴィータは転がるようにしてふたを引っ張って姿を隠す。追っ手は転んだはずのロスヴィータを探してうろうろとしている内に、目立たないようにカモフラージュされている穴に吸い込まれていった。重さに反応してロスヴィータを隠していたふたがその穴を塞ぐ。

 何とかうまくいった。ほっと息を吐くのも束の間、ロスヴィータはもう一人の追跡者を罠にはめるべく、再び走り出すのだった。




 もう一人が現れない。ロスヴィータは不思議に思う。いい加減現れていいはずである。ロスヴィータが何かがおかしいと思い始めた頃、風を切り裂く音が聞こえた。

 咄嗟に頭を抱えて身を低くする。頭上を何かが飛んでいく気配を感じた。その影を見送る先には先客がおり、ぶつかって穴に落ちた。セーレンかグレッドソンのどちらかが、一石二鳥をやってのけたようだ。

 結構なスピードで飛んでいった敵兵を間近で見る事になったロスヴィータは、絶対にこの罠にかかるわけにはいかないという決意を新たにした。


 とりあえず、三人は確保した。仕掛けが発動した方へ向かって移動する。それにしても本当に恐ろしい罠だ。魔法を使わずに、あれだけの距離を飛ばしてしまうのだ。どんな巨体だってひとたまりもないだろう。先ほど動いたのは、打ち上げタイプではなかった。

 仕掛けられた罠を踏ませる位置によって使い分ける事ができるが、それを使いこなしてみせた優秀な騎士は一体どちらだろうか。

 そんな事を考えながら移動していると、今度は突然間の前に影が落ちる。


「あ」


 ここは罠の穴のすぐ側ではないか。ロスヴィータがそう思った時には、墜落する人間の姿が目の前にいた。今度は打ち上げタイプだ。しゅっとふたが閉じていくのを唖然と見守ったロスヴィータは、きょろきょろと周囲を見回した。

 完全に油断していた。驚きのあまり、ばくばくと暴れている心臓を押さえるように手を当てる。力強い脈が手に伝わってきた。ああ、びっくりした。


「ロス、大丈夫!?」

「セーレン」


 慌てた様子で駆け寄ってくる姿を見て、一石二鳥をやり遂げ、かつ、追跡者を打ち上げたのが彼であると確信する。非常に頭の回転が速いのだろう。

 やはり、彼は諜報に向いていそうだ。への字型に眉尻を提げ、しょんぼりとした姿を見せる彼が先程の策を成し遂げたとは、誰も思わないだろう。


「ごめんね、良い感じにロスが通りかかるとかいうのは予想外だったんだ。しかもその後こっちに向かってくるのも予想外だったし。

 でもぶつからなくて本当に良かったよ」

「私の運動神経の賜だな」


 本心からほっとした様子の彼におどけてみせると、ようやくセーレンはくしゃりと笑い返してくれた。

2024.8.17 一部加筆修正

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