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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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12

 ダニエルの案内で――といっても、そんなに広くない箱のような空間だが――隣の監視所へ向かう空中通路に向かった。空中通路もまた、監視所と同じくカモフラージュされている。

 移動していると、深緑の葉でできた雲の上を歩いているかのような気持ちにさせられた。


「罠の仕掛けているポイントは隣の監視所のすぐ近くだ」

「そっかぁ。上へ移動する瞬間を見られたらごまかしようがないもんね」

「まあ、そういうこった」


 エルフリートは頷いた。

 ダニエルが案内を始める前に敬語はなしだと言ってくれたから、エルフリートはありがたく敬語をやめた。ダニエルの視線がやたら優しいのが気になって聞くと、どうやら小さな娘がいるらしい。

 いつ「近寄らないで」と言われてしまうのか、不安でたまらないお年頃なだという。

 そう言われる日を戦々恐々と待ち続けるより、嫌われない努力をした方が良いよって教えてあげた。


 エルフリートがダニエルと親しく話すのが気にくわないのか、ブライスの責めるような視線を感じる。変な焼き餅を焼くブライスには悪いが、貴重な情報交換の時間を邪魔しないでほしい。

 そう思ったエルフリートがこっそりとブライスを睨むと、彼はばつが悪そうに、しかしちょっとだけ嬉しそうに笑った。

 うーん……男だとばれているはずなんだけど、なぁ。


 ダニエルからここの監視所をどうやって作り上げたのか、管理方法の大変さなどを聞きつつ、実際に罠を仕掛けた具合はどうだったのかなどを聞き出した。時間の有効活用だ。

 縄と木だけで作られた吊り橋に似た足下は不安定で、隣の監視所に向かうだけなのに、意外と時間がかかったからだった。

 この監視所を繋ぐ橋を通称“渡り廊下”と呼んでいるそうだ。


 緊急時にはこれを切り離し、ばれた監視所を孤立させて他の監視所を守るんだって。

 長距離に渡る橋の切り離し方は、縄に組み込まれた魔法具に特定の印を書き加えるだけだと言うから面白い。

 落ち着いたらマロリーにでも調べてもらおうと思う。

 そうこうしている内に、目的の監視所へ辿り着く。ダニエルが現れると、入れ替わるように監視所から一人が出て行った。


 エルフリートたちがやってきた方の渡り廊下へ向かっていったから、ダニエルの代わりに向こうの監視所で待機するのだろう。

 会釈だけしかできなかったが、その彼も含めてぐっと年齢層が上がった気がする。


 あ、別に彼がおじいちゃんだったとかそういう意味じゃないけど。待機していた三人が全員引退騎士みたいな雰囲気がするだけで。うん。

 しかし、エルフリートがそう感じたのは当たっていたようだ。


「エンリケ様、よくこちらまで……おお、ケリーまで」

「お久しぶりです、二人とも。隠居したと思ったら、こんな所にいるのですから、驚きました」


 鷹揚と頷くエンリケはともかく、ケリーが丁寧な言葉遣いをしている。どうやらこの監視所に残っている二人の男性は知り合いらしい。それも、ケリーよりも目上の。


「ブライス、フリーデ。こちらのお二人は先々代の騎士団総長と副総長だ」

「あっ、えっ!? このような所で一体何を!」

「おい、質問の前に挨拶をしろ、フリーデ」


 想定外の人物に、慌てて騒ぐエルフリートに、落ち着いた様子のブライスが突っ込む。どうやらブライスは目の前にいる豪華な相手の事を知っていたらしい。何か年の功を見せられた気がする。

 エルフリートだって、先代の騎士団総長と副総長くらいならば分かる。だが、先々代はノーチェックだった。


「可愛らしいお嬢さん。ケリーの言う通り、我々はヘンドリックとガードナーと申す、先々代の二強だ」

「わざわざありがとうございます。私はエルフリーデ・ボールドウィンと申します。このような場所で偉大な方とお会いできます事、この上ない幸運に思います」


 カーテシーにするか迷ったが、それは一瞬だけだった。騎士らしく、騎士の礼を取る。

 エルフリートの礼にヘンドリックとガードナーはうん、とにこやかな笑みを浮かべたまま頷く。


「かの有名なカルケレニクスの姫、女性騎士団副団長のエルフリーデ嬢か。お父上はご息災か?」

「ええ。元気にしておりますわ」


 エルフリートは笑む。全く話を聞いた事はないが、どうやら父親と知り合いのようだ。


「能力が高いのに活かせる機会がなくてもったいないと、彼が君くらいの年頃の時に王都に残ってくれと懇願したものだ。だが、涼やかな笑顔で『だからこそ、いつ何が起きるとしれぬ地を守るんです』と言われてしまった。

 それで、引退後に我らはこの地に住む事を決めたってわけだ」

「まぁ……」


 カルケレニクスよりも侵攻しやすく、また遠い地である事から選んだのだと続けられ、エルフリートは目を丸くした。

 少年時代の父は、どうやらすごい事を決断させてしまったようだ。


「はは、しかし彼の娘さんと共闘できるとは思わなんだ。これ以上嬉しい事はない」

「私も父の違う一面を知る事ができてとても嬉しいです!」

「そうかそうか」

「何か不都合があればじいちゃんたちがどうにかしてやるからな」

「まかせておけ。俺たちは立派な現地民だから堂々と立ち回れるぞ」

「ちょっと、それは最終手段にしてくださいよ先々代がた!」


 エルフリートの頭をぽんぽんと優しく撫でながら豪快に笑う二人に、遂に、今まで黙って様子を見ていたケリーが声を荒げるのだった。

2024.8.14 一部加筆修正

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