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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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 エルフリートは作戦リーダーのケリー、情報伝達の要であるエンリケ、そしておなじみのブライスと共に、森の中を移動していた。つい先ほど、罠の準備が難航している場所を手伝ってきたばかりである。

 最後に指示をした罠で、元々完成がギリギリになる見込みだった。

 ロスヴィータの隊が逃げ込んだ先の罠でもあり、加減の難しいものであった為、エルフリートはそれこそ失敗はできないと気合いを入れて手伝った。


 今はエンリケの所属している隊が担当しているルートに向かっている。もうじき現れそうだという情報を入手したのだ。通常時、指揮官は報告を待つだけだが、今回は特殊な状況の為に常に移動している状態だ。

 少しでも早く動けるように、補助魔法をかけて移動している。

 本来、登山に補助魔法は向いていない。障害物が多すぎるせいだ。それに、魔法の痕跡が残るから隠密行動にも向いていない。


 今こうして無理を通しているのは、全員が魔法が使える騎士であり、補助魔法によって素早くなる自分の動きを制御できる実力があり、自分たちの移動範囲が相手の索敵と関係ない、という条件が揃っているからであった。

 元々の運動神経を活かし、素早く移動をする事一時間。数時間かかるはずの距離を強行突破していた。


「見えてきた」


 背の高い木が多いこの場所は迷いやすい。エンリケの小さな呟きを聞いたエルフリートが上の方を見ても、樹上に作られた監視所がどこにあるのか分からなかった。


「よく分かるね」

「ああ、設置場所を知っているから分かるだけさ」


 エンリケは事も無げに言うが、彼の“知っている”はエルフリートからすれば信じられないくらい特別な能力だった。

 目をつぶったって、危なげなくカッタヒルダ山を歩けてしまいそうなくらいに細かく知っているのだ。自分の生まれ育った屋敷ですら難しいというのに、それをやってのける彼は本当にすばらしいと思う。


 そうしてエンリケに案内された先に、監視所はあった。とても見つけにくいように加工されたツリーハウスである。

 わあ、元々作ってあったっていうだけあって手がこってるぅ……。


「すごぉい」


 子供の頃、故郷で作ったツリーハウスが児戯であったというのを実感させられる。思わず感嘆の声を漏らせば、彼は嬉しそうに笑った。


「平和ぼけせずに、俺たちはちゃんと見張りをさせ続けている。同じような監視所は国境に沿っていくつも存在しているんだよ」

「同じ辺境領の人間として尊敬しちゃうなぁ」


 カルケレニクス領は、領自体が天然の要塞状態にある。攻め込めば簡単に切り離されてしまうであろうと想像に難くない地理でもある。狩猟をメインにしており、自領が裕福になるようなレベルの特産物もない。

 そうなれば、魅力のない領を手に入れる為だけに侵略する国はいない。もちろん、だからといって全く警戒していないわけではない。ただ、クノッソ領に比べるとお粗末だと思わざるを得なかった。


「どうかな。個々の戦力が未熟だから、それを補う為という側面もあるし」


 常に体を鍛えるような生活をしているカルケレニクスとは違うのだとエンリケに言われ、エルフリートは思い返す。確かに、こっちの騎士は体格がちょっと……。

 ひょろっとした体格のエルフリートが言える事ではないかもしれないが。


 エルフリートはブライスのように盛り上がった筋肉とは縁遠いらしい。鍛えてもムキムキにならないのは、個人的には大歓迎だ。

 男性的な体型になってしまったら、女装ができなくなる。


 エルフリートはこのまま、中性的な体格でいたかった。ふっくらとした頬もこのままでいてほしい。ドレープたっぷりの可愛らしいドレスを着て、王子様のように輝く凛々しいロスヴィータと踊り続けたいのだ。


 それにあんまりごつくなると、ロスヴィータにお姫様だっこをしてもらえなくなってしまう。今はまだ身長差もほとんどなく、時々エルフリートの事をお姫様だっこしてくれる。

 しかし、いくらかっこいいとは言え、彼女は女性である。横抱きするにも限度はあるだろう。

 脱線した思考のまま、上から降ってきた縄を使って登っていく。


「ようこそ、お嬢様」


 おどけた風に手をさしのべてくれたのは、初めて見る顔だった。癖毛なのかぼさっとして見える髪型に無精ひげ。ひげの方はおそらくここでずっと待機していたからだと思いたい。

 エルフリートは彼に引っ張られながら笑みを作る。


「はじめまして。エルフリーデ・ボールドウィンと申します」

「縄の使い方がこなれているから野生児かと思ったぜ。俺はダニエルだ」


 言葉遣いは少し乱れているものの、目元の雰囲気が誰かに似ているような。涼しげなのにあったかいっていうか……。


「ああ、俺はそこにいるエンリケの叔父だ。甥っ子共々よろしくな」

「どうりで目元が! よろしくお願いします」

「おう、良いって事よ」


 髪質は違うから、そこはダニエルではない方の血筋を受け継いだのか。思わず二人の事を見比べた。駄目だと分かっていてもつい、まとまりの良さそうなエンリケの髪を見つめてしまうのだった。

2024.8.14 一部加筆修正

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