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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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20/87

10

 バルティルデたちが雑談をしながらも結構なスピードで移動していると、ふいに視界が開けた。背の高い草むらを越えたのである。

 草むらが一瞬途切れた原因は、どうやら地形にあるようだ。古い昔に土砂崩れのような事が起きたらしく、がれ場になっている。


「ここを横断する。滑るなよ」

「ああ」


 ジェイコブの言葉かけに、全員が頷いた。唐突に急勾配が現れるとは、この山はずいぶんと変わった姿をしているものだ。

 バルティルデは斜め上方向へ進むジェイコブの後を歩きながら、滑る足下に苦笑する。


 エルフリートに話したらあっさりと否定されそうだが、山に拒まれている気さえしていた。少しでも気を許せば滑ってしまう。あまりの歩きにくさに、そして、ざり、ざり……と時折石のこすれる音を聞き続けるにつれ、バルティルデの眼光はどんどん厳しくなっていった。


 もう少しでがれ場が終わる。低木が見え始めた。がれ場の先が合流地点で、もうじき仲間が現れる手はずになっている。

 もちろん仲間とは、先行隊として罠を張ってくれた騎士たちの事である。確か、この場所の罠は難易度が高いとかでレオンハルトが指揮をしているのだったか。


 顔見知りがいるのは心強い。一緒に行動している騎士たちを信用していないわけではないが、精神的余力の問題である。彼らには申し訳ないが、バルティルデは背中を安心して預けられる人間だと思っていない。

 ここ数年、ともに訓練をした仲ではあるが、それだけだ。気持ちとしては同僚以下である。彼らの戦闘時の癖も知らない。人間性はたぶん悪くはないのだろう。ブライスの部下だから、実力だってあるはずだ。

 少なくともバルティルデが彼らの身のこなし方を見ている限りでは、結構使える男たちだという認識もある。


 戦闘になる予定はないのだから、指示通りに徹底した動きのできる人間でさえすれば良い。とは思うのだが、最悪の事を考えて用心するのが傭兵の性。

 バルティルデはどうしても戦闘に発展した時の事を想定してしまうのだった。


 バルティルデが前方を睨みつけながら歩いていると、低木が不自然に揺れている。目を凝らせば、一カ所だけが不自然に揺れている。

 気がついたのはバルティルデだけではないようで、全員の足が止まった。


「ようこそ、我が拠点へ」


 レオンハルトが茶目っ気の小さな笑みを浮かべてひょっこりと姿を現した。その顔は泥だらけで、バルティルデは彼の意外な姿に目を見開いた。

 レオンハルトに手招きされて我に返ったバルティルデ隊は、そそくさと彼のいるもとへ移動する。


「その顔……」

「待機中は皆にもやってもらうよ。ブライス隊の皆はやった事あるよね?」


 そう聞いていたんだけど、と続ける彼を見ながら合点がいく。バルティルデもやった事がある。身を隠す際、顔だけがぼうっと浮き出て見えてしまう事があるから、そうなるのを防ぐ為に顔を暗い色にするのだ。

 顔料を持ち歩いていない場合、簡単に落とせる泥を使う。レオンハルトのそれは、泥を代用した結果なのだろう。


「私もやった事があるよ」

「本当にバティは経験豊富だなぁ。頼もしいよ」


 話が早いのは助かるとレオンハルトが笑う。こんな男だっただろうか。バルティルデは訝しんだ。

 ――が、レオンハルトの事をバルティルデ以上に知る人間はここにいない。


「バティ、俺がエルフリートの親友だって事、忘れてる?」

「……ああ、そういう事か」

「そういう事」


 バルティルデの視線の意味に気がついた彼が含みを持たせて笑う。

 バルティルデが臨時の部下であり同僚である彼らに上下関係の撤回を強制したように、レオンハルトもまた、本来の貴族然としたおとなしそうな雰囲気を封じているのだ。

 そういう切り替えができるのは、さすがエルフリートの大きな嘘に加担しているだけある。


「不自然かな?」

「いや、自然すぎて向こうを知る人間には不自然に感じるだけ」

「はは、それはいいや」


 素朴な笑みに、軽い言い回し。普段と違って魅力的に見えるはずの絶妙な髪色も汚らしく感じるし、別人のようだ。本来の彼を知っているバルティルデにすら、どこにでもいそうな木こりに見えた。


「まあ、良い。それより待機場所へ連れて行ってくれ」

「任せてよ」


 歩きにくい山の中だというのに、彼は整備された道を移動するかのような足取りで先をいく。その姿は山猫を彷彿とさせるのだった。

 低木の土地を進んでいくと、低木の他にまばらに高木が混ざった中途半端な場所に辿り着く。そこには突貫で作ったと思われる蓑のようなものをかぶって身を隠す騎士がいた。


「彼らと交代してくれ」

「じゃあ、イエールとアイラス」


 呼ばれた二人が蓑を受け取り羽織る。塩コンビとよく呼ばれている二人は、腹這いになって稜線の見張りについた。


「後は罠の近い森の中へ。一定間隔で見張りをつけているから、彼らと交代していく」


 待機したら、あとはひたすら待つだけだ。バルティルデはブライス隊の騎士とアントニオ隊の騎士が入れ替わっていく指示をするジェイコブと補足説明をしてくれるレオンハルトを交互に見ながら、どんどん森の中腹へ向かって移動していった。

2024.8.14 一部加筆修正

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