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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
妖精と大熊、本領を発揮する
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 戦争回避の為に泥を被ると立候補した大隊長たちは、騎士団副総長のケリーに呼び出されていた。もちろん各騎士団団長は全員揃っている。


「呼び出したのは他でもない。今後の計画について、だ」


 エルフリートはロスヴィータと共に席に着いている。今回はケリーの許可を得てバルティルデにも同席してもらっていた。彼女は戦場を渡り歩いていた経歴がある。

 本人は「いや、あたしはただ依頼通りに戦ってただけだよ?」と言っていたが、指示を受ける側だからこそ分かる事もあるかもしれないと思って、連れてきていたのだった。


「卑怯な手を使う。考え直した者がいるなら、退席を許そう」


 立ち上がる者はいなかった。まぁ、そうだよね。だって、この場にいるのは切実な問題がある、何としても自分の住む領地を荒らされたくない騎士と今回の任務に適正があると自覚している騎士だけだもん。

 人数が少ないからか、今日は副総長の後ろに騎士団団長、副総長の正面に弧を描くようにして大隊長が着席している。女性騎士団長と副団長だけど、エルフリートとロスヴィータは実行部隊になるから大隊長側だ。向こう岸にいるブライスがエルフリートの視線に気がつき、手を振ってきている。

 エルフリートは小さく笑みを返した。罠を張る時、ブライスとエルフリートの力は大いに役立つはずだ。彼もそれを十分に理解しているのだろう。


「――全員参加、だね。よろしい。では話を続けよう」


 ケリーの言葉に視線を戻す。彼の表情は、いつになく人の悪い笑みを浮かべている。こんな悪役顔だったっけ?


「まずは、簡潔に概要を伝えよう。そこにいるマディソン団長の発言を聞いた者ならば、想像はつくだろうけどね」


 あえて役職を出すあたり、まじめな話のつもりなんだろうけど、顔が悪役すぎる。


「大量の罠で捕虜を得て、戦争をなかった事にする」


 簡潔にまとめたせいだけどすごく適当に聞こえ、小さく口が開いてしまう。だが、ぽかんと口を開いた緊張感のない人間はエルフリートだけだった。


「確実にボルガ兵を捕える。多少の流血は致し方ないが、混戦はしない。騎士団の関与を感じさせるような行為は全て禁じる。

 ――そこの、見た目だけじゃなくて中身までふんわりしてる女」

「えっ!?」


 突然自分だとしか思えない言い回しをされたエルフリートは、反射的にぱっと立ち上がった。ロスヴィータの視線がちょっと痛い。


「あと、反対側にいる大熊もだ」

「俺ですか」

「二人ともこっちに来なさい。見てもらいたいものがある」


 緊張感の無さを怒られるのかと身構えていたエルフリートは、ブライスとのセットならばお叱りではないだろうとこっそりと肩の力を抜いた。

 ケリーのもとへ向かえば、呼び出しの理由はすぐに分かった。よくできた地図が広げられていた。エルフリートの故郷、カルケレニクス領にもある有事の際にしか使わない地図である。普通の地図と違う事を挙げるとしたら、まずはその緻密さである。


 正確さも段違いだが、緻密さはその比ではない。その地図は、高低差まで違わずに描かれるのだ。

 高低差が読み取れる地図を作るのは容易ではない。専用の魔法具を使うか、非常に面倒だが自力で描かなくてはならない。自力で作る場合、特殊な器具を使って高さを比較しながら作る。

 素人には作れない。もちろんエルフリートには無理だ。だからカルケレニクス領では魔法具を使っている。


 精密な地図は、辺境と王都では難易度の種類が違う。辺境では地形が戦況を変える。都会では、地形が建物になる。

 地の利とは言ったものだ。全てを破壊するような大規模な魔法では関係ないが、普通の戦いでは地形や構造物の配置などをどれくらい正確に把握しているか、それを活かす戦法が取れるかで勝敗が分かれる。

 その為、国外に流通してしまうとまずい。だから普通の地図とは別に作られるのだ。


 今回の舞台は山だ。市街戦は詳しくないが、山の事ならば、確かにエルフリートほどの適材はいないだろう。

 山の地図は、難しい。見たところで、それを正確に脳内でシミュレーションできる人間はなかなかいないのだ。というのも、坂の具合や足元の悪さなどまでは想像できないからだ。

 これは訓練で身につくものだ。そう簡単にはできない。エルフリートだって、父親の指導で必死に覚えたのだから。


「お前たちならば分かると思うが、これはカッタヒルダ山の地図だ。以前の訓練の時には普通の地図を使わせたから、こちらの地図は初めて見るだろう」


 じっと見つめると、ロスヴィータが滑落した辺りも詳細が描かれている。この地図を見ると、いかにエルフリートが遠回りをして歩いていたかが分かる。

 この地図さえあれば、もう少しましな移動ができていただろう。


「エンリケがこちらに来る直前に魔法具で記録してくれた最新の地図だ。これを元に戦略を練る」


 カッタヒルダ山を所有するクノッソ領次期当主が直々に持ち込んだものだと言われ、エルフリートはエンリケが元々戦争になると予測して行動していたのだと実感する。

 ちらりとブライスを盗み見れば、彼はいつになく真剣な眼差しで地図を睨んでいる。

 戦争になるのは、時間の問題なのだ。少しでも早く、そうなる事を防がなければ。エルフリートはその地図をしっかりと目に焼きつけるのだった。

2022.3.7 脱字修正

2022.5.24 誤字修正

2024.8.5 一部加筆修正

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