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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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19/87

9

バルティルデは背の高い植物をグローブをはめた手でかき分けながら、道なに道を移動していた。これが一番時間がかからないルートなのだ。音が出るのが少々気になるが、相手と接近する頃にはこの植物もなくなると聞いている。

 エンリケからの説明だから、不安はない。とはいえ、かなりギリギリのルートを行かされているのは事実である。


「バティ、先頭を代わろうか?」

「頼もうかな」


 バルティルデは、騎士たちに愛称呼びの徹底を指示した。どんな時でも一般人ではない事を悟らせない為だ。

 バルティルデが回収する予定の侵入者は、傭兵と騎士で構成されていると予測されている。


 バルティルデが警戒しているのは傭兵の方であった。考えなしの新米か狡猾な金目当ての古参か、どちらなのかは分からない。だが、古参が参加しているとしたら、少しの違和感も覚えさせてはいけない。

 彼らの経験は馬鹿にできないのだ。という事で、まずは上下関係らしさをぬぐい去るところから始める事にしたのだった。


「バティは」

「何?」


 草をかき分ける音と人間の息遣い、時々野鳥の鳴き声が聞こえてくるだけの静かな移動中。

 先頭を代わってくれた騎士、ジェイコブが唐突に口を開いた。


「窮屈ではないか?」

「どういう意味?」

「前の方が自由だったんじゃないかと思ってな」


 前の方……バルティルデは転職の事を言われているのだと気が付いた。


「今も割と自由だと思うけど」

「ま、まあ、確かにあんたたちはかなり自由に見えるが」


 苦笑の篭もったジェイコブの言葉に、バルティルデは自分たち女性騎士団の状況を思い返した。男装の麗人がトップで女装の次期辺境泊―と言っても非公式に、だが――がその補佐、元傭兵のバルティルデ、見た目と裏腹に戦闘狂の貴族淑女。

 初期メンバーだけでも、じゅうぶんに癖が強い。


 活動自体は男性騎士と変わらない。訓練、演習、見回り、トラブル対策。時々トップ二人が誘拐されたりするから、その対処。ロスヴィータが誘拐された時は、屋敷が丸ごと倒壊してしまった。

 これだから魔法が使える人間は恐ろしい。

 結果はともかく、トップが誘拐されるのはおかしい。一瞬遠い目をしてしまったのは仕方がない――はずだ。


 訓練や演習の中、事故や自然災害などもあった。この山で遭難したり、演習で勝とうと無茶をしたロスヴィータを助ける為にエルフリートも高い建物から飛び降りたり、雪崩にあったり。

 御前試合の決勝戦では、エルフリートが会場の人間を守る為に反則技を使うという信じられない事態もあった。

 自由すぎる。自由がないように見えるはずの騎士だが、自由すぎる。


「傭兵はさ、ほとんど毎回命の取り合いなんだ。子供ができた私は、この子を親のいない子供にしたくないなと思ってしまったんだよ」


 バルティルデの親も傭兵だった。そして、彼らは幼い頃に死んでしまった。両親がいなくても、寂しくはなかった。傭兵はそういう人間が集まっている為、欠けてしまった役割を自然と誰かが補うように生活をしていたからだ。

 だが、バルティルデは知っている。それが普通ではない事を。そして、そんな不幸は本当は起きなくても良いのだという事を。


 生まれてくる子供を自分と同じようにしたくない。そう、バルティルデは思ってしまった。もちろんそれだけではない。

 欲が出てしまったのだ。成長する子供の姿を見守っていきたいと。その可能性を少しでも高くしたい、と。


「残念ながら、あたしには腕っ節しか取り柄がなくてね。引退するのは簡単だけど、稼ぎがないのは困るだろう?

 そんな時に、女性騎士団創設の話を耳にしたのさ」

「タイミングが良かったんだな」

「そうそう。これしかないって思ったね。それに、入団試験を受けた限り、かなり真剣なんだというのも分かったし。……まあ、こんな破天荒な団体になるとは思わなかったけど」


 バルティルデは癖の強すぎる同僚を思い、笑う。


「いや、女性騎士団がふざけているとは思ってないぜ。ただ、ちょっと色々と型破りすぎて、自由って言っただけだからな?」

「分かってるよ。まあ、そのおかげであたしも楽しく仕事ができてるわけだし。それに、大多数の男性同僚は元の職場よりお上品だから助かるよ」


 バルティルデガ何気なく言った言葉に、ジェイコブは小さな唸り声を返した。

 傭兵は、いつ死ぬともしれぬ生活をしているせいか、倫理観が怪しい部分がある。人妻だろうが子持ちだろうが、割と適当に、そして容易く関係を持つ人間が多いのだ。バルティルデやその夫であるグストースの倫理観はまともだったが、その周囲は違う。


 なんかムラムラしてきたから、つきあってくれ。そんな誘いを受けた事も片手じゃ足りないくらいだった。今は、そういう面倒な対処をせずに済んでいる。

 本当に楽だ。


「傭兵の時は、どうにもゆるい人間が多くてさぁー……」


 微妙な話題を提供してしまったようだと気づき、修正するべく言葉を重ねる。


「女性騎士団が特別すぎるんだ。どう考えても敵に回したくないだろ。俺ら中堅からすれば十近くも年下なのに、全員格が違う。

 特に女性騎士団長。継承順位が最下位に近いって言ったって、王位継承権を持つってだけでもう恐ろしいんだ。そんな彼女が選りすぐった人間を、適当に扱えるわけがない。

 ……そもそも半分以上の騎士が、彼女たちの実力に届かないしな」


 どうやら品格が備わっているから、という理由以外のものがあるらしい。

 バルティルデは軽く首を傾げながら彼の言葉を否定する。


「そうかい? 強いのは否定しないが、案外雑な扱いをされてると思うけどね」

「雑って言ったって、たかがしれてるだろ」

「まあねぇ」


 女性騎士団は同年代では負けなしだから、返り討ちにされるのがオチだと誰もが知っている。

 勝てる見込みがなければ、手を出そうと思えもしないか。彼らがお上品なのには切ない事情もあったのだ。バルティルデは思わず、からからと笑ってしまうのだった。

2024.8.14 一部加筆修正

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