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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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4

 騒がしさも落ち着いたところで、捕虜が来る前にと打ち合わせが始まった。


「今回も女性が固まると不自然だから、ばらけさせる。組み合わせは移動の時と同じにするよ。数日の移動で親睦も深められただろうし」


 ケリーの言葉に、それぞれ隊の仲間と目配せする。確かに、移動中に交流した相手の方が安心感がある。


「で、それぞれが向かうのはここだ。先発隊が待機しているから合流してくれ」


 ブライスが隊の名前を呼びながら地図を示していく。ロスヴィータは山の中腹付近、川の近くを移動するルートの担当だ。バルティルデはその能力を買われてか、一番遠い場所だった。マロリーは、まだ指定されていない。


「私、ブライス、フリーデ、エンリケの四名は、情報収集をしながら適時移動、必要な隊の補助を行う。また、捕虜はこの山小屋に集めていく事」

「この山小屋には、私服のクノッソ領兵が配備される。万が一、撤退を余儀なくされた場合は、ここではなく……こちらの山小屋へ向かう事」


 ケリーが示したのは、ロスヴィータたちが避難を断念した小屋だった。


「そこの山小屋は今、アントニオの隊が交代で管理している。拠点が奪われないように守護しに行くのはマロリー隊になる。

 優れた結界が張れると聞いたからな。不落の拠点として安全な場所を確保してくれ」

「マリンがその拠点の守護にあたったら、アントニオの隊は全てルート攻略組の補助に回ってもらう。それについては連絡済みだ」


 マロリーが配置されていなかったのには、理由があったようだ。

 彼女の能力を考えれば、それが適切であると分かる。マロリーはそんなに腕っ節が強いわけではない。

 その代わり、知恵がある。結界を長期間保つ為に必要な忍耐強さもある。”エルフリーデ”の正体を知った後、マロリーはエルフリートにちょっかいを出すようになった。そうしている内にエルフリートの結界スキルが上がった事を知った彼女は、彼のまねをする事にしたのである。


 魔法の才能が全くないロスヴィータには分からなかったが、かなり熱心に結界張りを行っていたようだ。好きな部分にだけ展開させるものから全身を包むもの、更にはある程度の範囲を長時間維持するといった上級者向けの訓練までするようになっていた。

 発動までの時間を短くする練習なども行い、今では”エルフリーデ以上に結界を器用に使いこなしているのでは”とさえ言われるようになっていた。

 全て彼女の努力の賜である。それを周囲も知っているからこそ、拠点防衛には彼女が適任であるとの判断が下ったのだった。


 ロスヴィータは、人から認められるようなこれといった特技がない。今はただ、言われた通りの事をこなすだけで精一杯だ。剣技ではバルティルデと同等だが、それは一対一の決闘スタイルである。混戦時においては、まだまだ彼女に敵わない。

 総合的に考えるとエルフリートは飛び抜けた能力を持っているし、そうなるとロスヴィータは女性騎士団のトップにいる事だけがとりえになってしまっている気さえしてくる。

 実力が伴っていない。そうロスヴィータは隊の配置を見て、改めてそう感じるのだった。


「ロス」

「はい」

「君の担当は足下が危ない。罠は仕掛け終わっていると報告が来ているから、あとは誘導するだけだが……その誘導が一番やっかいなルートなんだ。しっかり頼むよ」


 ケリーがロスヴィータの肩を叩く。彼女は応える代わりにしっかりと頷いた。健脚や身のこなしが優れているから、このルートの担当にされたのだ。別に、ロスヴィータが何もできないと判断されたわけじゃない。むしろロスヴィータだからこそ、できる任務なのだ。

 どうにも最近卑屈になりがちだ。戦争という空気が自分を蝕んでいるようだ。ロスヴィータは小さく自嘲の笑みを浮かべたが、きゅっと唇を引き締め顔を上げた。


「それぞれのルートで初回の小隊を確保したら、交代要員を向かわせる。交代要員がいる事は小屋に幽閉するまで気取らせないように。常に別動の影がいる可能性を考えろ」


 確かに、監視や観測者を控えて部隊を送り込む事はままある。私服の騎士たちは互いに頷き合った。




「ロス、その体格の秘訣って何だ?」


 この隊の最年少、セーレンが話しかけてきた。彼はロスヴィータほどではないが、派手な金糸に淡い碧眼の少年である。最年少と言っても、ロスヴィータとは一つしか違わないのだが、彼はかなりの童顔であった。

 騎士団の制服を着ていないと十五にも満たない子供に見える。今回はそれを逆手にとって、より子供っぽく見える格好をしている。ロスヴィータと手を繋げば、即席兄弟のできあがりだ。


 ロスヴィータとセーレンは万が一見つかっても良いように、あえて雑談をしている。急に人気がなくなった山は、それはそれで不吉なサインとして相手に映るからであった。

 こちらは何も気づいていない。そう思わせなければならないのである。

2024.8.11 一部加筆修正

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