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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
泥被りの騎士たち

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11/87

1

朝早くウィレを出て、約半日馬を走らせる。街道を移動しているとその途中でマロリーの隊と合流した。


「調子はどう?」


 男装しているマロリーは、明らかに貴族のお坊ちゃまみたいな感じに仕上がっている。ロスヴィータは別れる時にはそんな事を思いもしなかった。それだけ余裕がなかったのだろう。


「私の方は良いよ。君も、なかなかよさそうだね」

「ちょっと、今更笑うのは失礼だと思うわ」

「すまない。悪気はないんだ。ただ、ほっとしたというか」

「……なら、許してあげる」


 苦笑混じりに正直に言えば、マロリーはすまし顔で許してくれた。その声色には安堵が含まれていた。きっと、彼女も緊張していたのだろう。バルティルデ以外、戦争は初めてだ。

 戦闘をしに行くわけではないから厳密には戦争ではないのかもしれないが、緊張せずにはいられないに違いない。

 マロリーにロスヴィータの隣を譲ったグレッドソンが、彼女の副官として合流したカイネウスと話をしている。


「そっちの隊長はどうだった?」

「堂々としすぎて緊張したぜ。そっちは?」

「理想の隊長だったぞ。ブライス隊長とは大違いだ。あっ、いや、ブライス隊長が駄目とかじゃなくてだなっ」


 緊張感のかけらもない会話だ。ロスヴィータはほとんど聞こえない背後の会話に小さく笑みを漏らした。

 全員の合流場所は町ではなく、山の麓にある緊急避難小屋である。緊急避難小屋は、大きな山ならばいくつか建てられているものだ。それはカッタヒルダ山も例に漏れず、数ヶ所存在していた。

 訓練時に遭難した時には使用しなかった建物である。一番近い避難小屋に向かうには、川を渡る必要があったからであった。位置的に、怪我をしている人間が簡単に辿り着ける場所ではなかったのだ。

 昔の事を懐かしみながら、小屋に入った。すでにバルティルデやアイザックたちの隊が到着していた。街道を移動する隊が遅い到着になるであろう事は分かっていたが、出遅れたような気持ちになる。


「フリーデたちは?」

「ああ、山の確認をしに一度出かけてるよ。日が沈む前には戻ってくるだろうさ」


 普段通りに見えるバルティルデも、いつもよりは視線が鋭いように感じられる。ここはもう、前線なのだ。ロスヴィータは自分が役に立っているかどうかといった、自分本位の事を考えるのはやめ、自分ができる事をこなす事だけを考えるべきだ。そうロスヴィータは自分を戒めた。


「何か私にできる事はあるか?」

「待機。それだけだねえ……まあ、これも戦いの内だよ。余裕がある内は、体力と気力を温存しておく。それが一番さ」


 戦慣れしているだけあって、バルティルデの言葉は実に的確だった。




 暗くなり始めたから、と夕食の支度をしていると、エルフリートたちが帰ってきた。エルフリート、ケリー、ブライスの他に魔獣と思わしき大きな鳥を肩に乗せたエンリケというメンバーである。

 なぜか鳥も含めた全員が泥だらけだ。


「あ、ロスとマリン。お疲れさま」


 ひらりと軽く手を振ってくる彼は、疲弊している様子もなく、普段通りに見える。ロスヴィータも笑みを作った。不自然に見えないだろうかと少しばかり緊張する。


「状況を確認しに行ったと聞いたよ」

「うん。そうなの。あ、一つ朗報もあるよ」


 幸先良いかもしれないね、と彼が笑う。


「一番険しいルートを選んだ傭兵の小隊、もう確保できたよ。明日にはこっちに向かって下山するって」


 早速、罠の成果が出たという事で、安堵の声が上がる。


「ご褒美に肉をやりたいんだが、干し肉くれ」


 そう言うエンリケに向かって誰かが袋を投げた。キャッチすると、鳥が催促するかのように翼を羽ばたかせた。なかなか利口らしい。


「おう、ありがとうな。そら、食え」


 エンリケの許可が下りると、鳥はエンリケの手を傷つけないように干し肉をつつく。


「お前のおかげだよ。テッサ。これからも頼むな」


 きゅるきゅると見かけに似合わぬ可愛らしい鳴き声を出しながら、器用に干し肉を食べている。思わず手を伸ばしそうになった。


「ロス、明日は罠を仕掛けるのが間に合っていないところの手伝いとか、今日捕まえた捕虜の受け入れとか、罠への誘導人員の交代要員としてみんな活動する予定だから。今日はゆっくり休んでね」


 エルフリートの話を聞いていると、自分がいかに役立たずで、指示待ちしかできない人間なのかを突きつけられている気分になった。つい少し前、そういう風に考えるのはやめようと自分を戒めたばかりである。

 ロスヴィータは自分のいたらなさを恥じ、それを気取られないように微笑んだ。




 避難小屋はそんなに大きくない。三十人を越えれば狭めのパーソナルスペースを保つように座るだけで精一杯である。当然、全員が小屋の中で眠れるわけはなく、女性優先で男性は全員外で眠る事となった。申し訳ないとは思ったものの、今晩だけである。

 明日からは、おそらく捕虜を軟禁する場所として使われる事になるだろうし、そもそもロスヴィータたちがこの小屋で夜を過ごすとは限らない。気にするだけ無駄、という事だ


「ロス、起きてる?」

「ああ……」


 ぽそっと隣で横になっているエルフリートに声をかけられた。彼の方へ体を向けると、一対の宝石がこちらを見つめていた。

2024.8.11 一部加筆修正

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