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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 4 彼女は長き悪夢から目を覚ました
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6-3.何か反論はありますか?




 すべての詳細をデュランさんとルイーズさんが教えてくれた。

 お父さんはちゃんとすべてを王に報告していたのだ。孔を敢えて塞がなかったことも、そして孔の向こう側にもまた、私たち同様に生活している人たちがいることも。

 あふれ出す魔物の群れと苛烈な戦闘を繰り広げつつもお父さんたちは大規模な孔にたどり着き、そして異世界の孔に住む彼らと出会った。そこで聞かされたのは、生じる異世界の孔とは彼らが生きるためのやむを得ない行為の結果だったということだ。

 いつの頃からか魔物が生まれ始め、やがて地上――この場合は異世界だ――を埋め尽くすほどに莫大な数が生まれるようになった。

 長く続く苦悩と苦難。その果てに彼らが生み出した苦肉の策が、別の世界へと魔物を放出し、彼らの世界の崩壊を防ぐというものだった。

 お父さんたちはその話を聞いて愕然としたという。それはそうだ。まさか自分たちを長年苦しめてきた先も同じように苦しんでいたと聞かされたら振り上げた拳の下ろし先も無いし、お父さんの性格上見捨てることもできなかったはずだ。

 そのため急遽取りまとめられたのが、異世界との協定だった。異世界側は孔を開ける場所を決め、規模もまた一定以上には大きくしない。代わりに私たちの世界側は彼らに食料や武器といった物資に加え、名のある戦士を定期的に派遣するという内容。


「――当然、このことはヴェルシュ王国のみならず各国の合意を経て実行された」


 一方で、この事実は各国で極秘とされ、首脳部や議会など一部のみが知るのみとされた。当然、私たちのような一国民が知る由もない。

 もっとも、お父さんは秘密とすることに断固として反対したらしかった。けれど、世の中にいたずらに混乱を招くということと、他国も同じように極秘とすることで合意しているという論理で押し切られてしまったとデュランさんが語ってくれた。


(だからお父さんは――)


 時折物思いにふけっていたんだと思う。

 魔物を倒し、孔を塞いで帰ってくることを期待されて送り出されたのに、規模は縮小されたとはいえ孔は今後も生じ続け、しかも真実を国民には知らされない。なのに世間はしきりにお父さんを英雄と持ち上げてくる。ただでさえお父さんは自分が祭り上げられるのが嫌いだったし、私たちを騙しているような心地でひどく落ち着かなかったんじゃないかってのは容易に想像できる。


「そして、そうした父の状況が面白くなかったのが貴方たちだ」


 王も貴族たちも、そして平民でありながら特権的な地位にある議会の人たちも。

 お父さんの名声が高くなればなるほど自分たちの立場が危うくなる。そもそもの国民感情として王や貴族、議員に対する不満は高まっていたし、だからいつお父さんが新たな王として担ぎ上げられるか、その場合に自分たちの処遇がどうなるか。ただでさえ猜疑心の強い彼らだ。気の休まらない日々だったに違いないとはデュランさんの弁だ。


「いつか、父を排除しなければ。そんな恐ろしい思考の背中を押したのが――」


 世界的な情勢だった。

 最初の半年くらいは異世界側との協定は守られて援助していたが、やがてどの国でもそのことに批判的な勢力が台頭してきた。

 今まで自分たちの命を脅かしていた連中のためよりも、自国の人間たちに国富を使うべきだという主張は至極当然で、私でも簡単に想像できる。

 他にも宗教的に孔そのものを神聖視している勢力や、孔を完全に塞ぐ、あるいは孔の向こうの人たちを滅ぼしてしまえなんて極端な主張をする勢力も生まれた。彼ら批判勢力の勢いが増し、また異世界と交流することで得られる利権問題も絡んで、それまでの政権の主要人物やお父さんと一緒に孔へ向かった英雄たちが殺害される事件まで起き始めた。


「そして私たちの世界は一方的に孔の向こうへの援助を打ち切った」


 だからあの時、孔から現れた女の人は私を見て「裏切り者」と罵ったってわけね。そりゃあ彼らからしてみればそうでしょう。到底許せるはずがない。

 当然お父さんは支援打ち切りに猛烈に反発した。王に詰め寄り、知り合いの貴族に働きかけ、けれども決定が覆ることはない。

 仕方なくお父さんは自分で何とかしようと、知り合いを巻き込んで独自の支援ルートを構築し始めた。

 それに焦ったのが王であり貴族たちだ。

 もし真実が明るみになれば批判の矛先は自分たちに向く。そうでなくてもお父さんは人気が高くて脅威だし、支援を通じて彼らが密かに得ていた利益も当然あった。お父さんの行動は彼らにとって邪魔でしかなかった。

 いずれ、お父さんが新たな王になり自分たちは排除されるのでは。その思いは最早抗いきれるものではなくなっていた。

 だから王と貴族たちは協力してお父さんを排除した。猜疑心に飲み込まれ、自らの保身のために。

 さらに大々的に発表し、公開で処刑することでそれまでの自分たちへの不満も含め、すべての矛先をお父さんに向かわせた。政略としては見事というしかない。

 だからといって。


(そんな理由でなんて……)


 話を聞かされた時のことを思い出すだけで胸が怒りと悔しさで張り裂けそうになる。お父さんは決して玉座を欲するなんて野心は持っていなかった。貴族や議会との対立なんてするつもりもなかったのに、ただただ権力と名声がもたらす妄想に冒されて連中はお父さんを始末したんだ。

 おまけにコイツらは、魔物を排除するための力を欲して私を取り込んだ。罪を犯した男の幼子に手を差し伸べる、優しく寛容な王様の仮面を被って。そのうえチョーカーを通じて私の思考を操作し、歯向かうことがないようにした。


「――以上が、私が知る事実です。何か反論はありますか?」


 問う。王からの反論はない。貴族たちからも、他の議員たちも無言。それが答えだった。

 すべてを話し終えた私は、ゆっくりと階段を登ってワグナールの元へ向かう。


「奴を近づけるな……!」

「シャーリー……」

「ナタリア、下がってて」


 階段を登りきると王の前に近衛兵たちが立ちはだかる。そして各々の武器を手に私に切りかかってきて――


「邪魔しないで」


 そいつら全員を魔術でふっ飛ばして王族席から弾き出す。悪いけど、今はすっこんどいてくれるかしら?

 私の抱く怒りが精霊を刺激して、自然と炎が周りに立ち込める。その熱にあおられたわけじゃないでしょうけど、ヨロヨロと立ち上がった王の額から汗が流れ落ちていた。せっかく体調が回復したってのに可哀想に。これならずっと寝込んでた方がマシだったわね。ま、自業自得で同情の余地なんかこれっぽっちもないんだけど。


「……チョーカーだっ! チョーカーでこの不届き者の意識を奪え!」


 ワグナールが叫ぶと、議場の最後列にいた老貴族が慌てて何かを取り出すのが見えた。彼がそれを握りしめて魔力を通すと、チョーカーが私の首を締め付け始める。

 けれど。


「うっとうしい」


 チョーカーに指を掛け、本当にホンの少し力を入れただけでチョーカーは拍子抜けするくらいあっさりと引きちぎれた。解呪コード無しで本当に簡単に外れるのね。

 外した途端にとてつもない解放感が私を満たしていく。心がまさに自由になった感じ。解呪コードを使ってたらこの心境はたぶん味わえなかった。ブランクにはつくづく感謝だわ。

 もはや単なるゴミと化したそれを放り投げる。そしてチョーカーの向こう側にいる老貴族めがけて魔術をぶっ放すと、けたたましい音を立てて彼の机が砕け散った。


「じっとしてなさい、クソが」


 吐き捨て、ワグナールに向き直ると彼は唇を噛み締めて震えていた。



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