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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 2 精霊らしくない精霊
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1-3.いったい何者なのよ




「――よう、嬢ちゃん。助けに来てやったぜ?」

「……」

「あれ? ひょっとして俺、スベった?」


 私としては別に無視したわけじゃなくって、単に頭が事態に追いついてないだけだったんだけど。でもまあ、キザでカッコつけなセリフな割には顔も平凡。もし私が元気だったら、そんな二枚目なセリフを吐くには百回死んでこいと尻を蹴り上げてやったと思う。

 ただ、その、今の私は我ながら弱気だったというのもあるんだろうけど――そんな芝居じみたセリフでさえひどく安心できてしまったのは否めない。


「はあ……」

「いやマジでため息やめて。カッコつけて出てきちまっただけに余計傷つくから」

「別に貴方にため息ついたわけじゃないわよ」


 追い詰められてたからって、誰かに頼るなんて選択肢を選んでしまった自分に情けなくなっただけなんだけど。

 まあそれはともかく。


「貴方――誰よ?」

「自分で召喚しといてそりゃなくないか? ……つってもどうせ俺みたいなのを意図したわけじゃねぇだろうけどな」


 私が召喚した? ひょっとしてさっきの光は精霊術が発動したから? いや、でも私に精霊を召喚するだけの魔力は残ってなかったし、そもそも人間を召喚なんて聞いたことがない。

 さっきから混乱しっぱなしで全ッ然頭が回ってなかったけど、そんな状況を咎めるみたいに口を押さえられてた魔物が暴れ始めた。


「■■、■■■■ッ――!」

「おっと、のんびりおしゃべりしてられるような状況じゃなかったんだっけな」


 彼の手を振り払うと、魔物はまた大きな口を開けて躍りかかってきた。けれど今度の目標は私じゃなくて邪魔をしてくれた男の人らしく、怒り狂った様子で喰らいつこうとしてくる。

 しかし男の人は、次々と繰り出される魔物の攻撃をひょいひょいと軽いステップで全部避けていってた。一撃一撃は結構ギリギリ避けてるように見えるけど、無駄な動きがない。たぶん、全部見切ってるんだと思う。


「いったい何者なのよ……?」


 疑問を口にしつつ呑気に感心してたんだけど、後ろから聞こえてきた唸り声でハッと状況を思い出した。

 あの狼型の魔物のおかげで他の奴らはおとなしくしてたけど、そいつがターゲットを男の人に定めたんなら、残りの魔物たちがじっとしてるはずがない。


「どんだけ頭ン中花畑になってるってのよ、私は……!」


 戦場だってのにのんびりと座ってた脚を叩くと、立ち上がって血まみれの剣を構える。多少傷は塞がったし相手は有象無象ばかり。それでも今の私じゃ倒しきれるか。


「……やるっきゃないでしょうが、自分」


 どこの誰だか知んないけど、あの男の人ならたぶん大丈夫。だから今の内に少しでも数を減らしとかないと――


「ちょいと失礼するな、嬢ちゃん」

「きゃあっ!」


 ――なんて自分に気合を入れてたってのに突然体を掴まれて、気づけば魔物たちの頭上を舞っていた。見上げれば楽しげに口を歪めた男の人の顔が間近にあった。

 私を抱えたまま男の人は魔物の手薄なところに着地すると、またジャンプして群れを飛び越していく。そうして魔物たちの包囲網から完全に抜け出すと何処かへと走り出した。後ろからは雄叫びとともにボスである魔物が雑魚を蹴散らしながら追いかけてくるけど、私を抱えてるにもかかわらず男の人の方が速くて距離がドンドン開いていく。


「ちょっと、逃げるのっ!?」

「嬢ちゃんの怪我を考えりゃそっちの方が賢明だと俺ぁ思うがね! とはいえ、召喚主はアンタだ。俺はどっちだっていいぜ!」


 それはそうだろう。正直だいぶ血も失って脚にも力が入らないのが正直なところだ。だからってここから逃げて出直すなんて選択肢はさすがに選べない。


「……ここで逃げたら、近くの町が犠牲になるかもしれないわ。せめて少しだけでも数は減らさなきゃ」

「町の連中は助かるかもしんねぇけどその代わりに嬢ちゃん、アンタの方が死ぬかもしんねぇよ? てか、俺が来なきゃアンタはさっき死んでたぜ」

「分かってるわ」


 でも、それでも私は戦わなきゃならない。

 サングラス越しの奥にある目を見つめてハッキリとそう伝えたら、彼は呆れたみたいに、でもどこか嬉しそうにため息をついた。


「そう言われちまったら俺はアンタの意思に従うまでさ。

 で、だ。嬢ちゃん」

「シャーリーよ」

「あ?」

「名前。シャーリー・アージュ・リシャール。シャーリーで構わないわ。『嬢ちゃん』なんてむず痒い呼ばれ方されるのは堪んないわ」

「おっと、そうだな。覚悟を決めた戦う淑女(レディ)を嬢ちゃん呼ばわりするのはリスペクトが足りねぇってもんだ。

 オーケー、シャーリー。俺のことはブランクって呼んでくれ」

「ブランク? 聞き慣れない響きの名前ね」

「そりゃそうだろうな。ま、詳しい自己紹介は落ち着いた頃にするとして」ブランクは魔物たちへ振り返った。「正直なところアンタはどんだけ戦えるんだ?」

「万全ならさっき貴方とじゃれてたあの魔物くらいなら余裕よ」

「ひゅう、そいつはご立派。それで、今の状態なら?」

「足元の雑魚たちだけで手一杯ってところ。それでも怪我さえ治れば、たぶん死ぬことはないと思う」


 カッコつけてもしょうがないから素直に伝えると、彼は私の頭を軽くペシッと叩いて「なら上等」って言ってくれた。


「こんだけ離れときゃとりあえず大丈夫だろ」


 すっかり人気のない街道で立ち止まる。距離はあるけど後ろからは大量の魔物たちが追いかけてきてるのが見えるし、何より私を召し上がろうとしてくれたあの魔物が先頭で怒り狂って迫ってきてる。

 速度を考えればさほど猶予はないはずなんだけど、男の人――ブランクは落ち着いた様子で何かを唱え始めた。魔術の詠唱っぽい感じではあるけど聞いたこともない言語で、それをほんの一、二秒唱えると指先を私の肩の傷口に押し当てた。


「いったぁっ!? ……ってあれ? 痛みが弱まった? しかも血も止まってる……?」

「うまくいったみてぇだな。悪ぃけど俺は治癒系ってのが苦手でね。この世界でもちゃんと使えるか分かんなかったが、どうやら普通に使えるってことだな」


 治癒系が苦手だなんて冗談でしょ? 上位の治癒術士でもこんな一瞬で傷を塞ぐなんて芸当できないってのに。やっぱりコイツは得体が知れない。


「貴方……本当に何者?」

「さぁてね。なんて説明すりゃいいのやら。ま、さっき言ったとおり落ち着いた場所で詳しく説明してやんよ。今は――あのでかいワンコをぶっ飛ばしてやらなきゃなぁ?」


 楽しげに口を歪ませてブランクは振り返った。大きな魔物はもうすぐ目と鼻の先まで迫ってきていて、だけど彼は丸腰で剣さえ手にしてない。精霊術あるいは魔術で攻撃するのだろうか。

 ハッキリ言って、見てるだけというのはハラハラして心臓が壊れそうなくらいだ。固唾を飲んで、いざとなれば私が身代わりに――なんてことを考えてたら魔物の雄叫びに混ざって彼の声がかすかに聞こえてきた。

 ほぼ一瞬で終わった詠唱。そして次の瞬間には――彼の両腕には巨大な何かが現れてた。

 細長い筒状の物で、まるで小銃を巨大化したみたいなもの。けれど銃というには口径が巨大すぎるし、大砲というには形が複雑過ぎる。どちらかといえば、異形化した時の私の腕に近いかもしれない。

 ただどちらの砲身も筒の部分が半円になってるんだけど、どうやって撃つのか。


「――下がってな」


 後ろにいる私にそう告げると、ブランクは両腕の銃を重ねた。すると半円がキレイにつながって一本の巨大な銃が生まれた。

 そして。


「――死にさらせ」


 ゾッとするような低い声と共に、引き金にかかった彼の指が動いた。





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