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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 4 彼女は長き悪夢から目を覚ました
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5-6.もう耐えられないわ



「とにかく」


 答えが来ないのでデュランさんを掴んだままの近衛と侯爵の腕を強引に引き剥がすと、二人揃って悲鳴を上げた。あら、失礼。少々力が入りすぎたようね。


「デュラン子爵は私の客人です。明確な証拠を持ってこない限り勝手に連行することなど許しません」

「何を勝手な……! そんなこと、認められませんな!」

「侯爵に認めてもらわなくて結構。貴方の承認など求めていません」


 喚く侯爵をよそに、引き剥がしたデュランさんとルイーズさんの二人を部屋へ押し込み扉を閉める。さっきまでは、一応はなんちゃって姫様みたいな仕草を心がけてたんだけど、そのスタイルをかなぐり捨てて今度はその扉を守るように私は仁王立ちし腕を組んで侯爵と近衛をにらみつけた。


「この……裏切り姫のくせにでしゃばりおって! 今に見ておれ!」

「あら、何を見てればいいのかしら? そのキレイな頭を眺めてればいい?」

「減らず口を……! 己の立場もわきまえぬ者が! これだから――」

「言っとくけど」喚き続ける侯爵を遮る。「立場とか身の程とかどうだっていいの。相手が誰であれ、私は私に課せられた責務を果たして国民を守るだけよ。

 知ってのとおり、すでに私の評価なんて底辺も底辺。ぶっちぎりよ。名声も資産も家族もない。失うものがないの。だから、人々を守れるならどうなったって構わないし何だってするわ。たとえば――」


 左手を掲げる。魔術で真っ赤な炎を作り出して侯爵に見せつけてやると、彼は息を飲んで一歩後ずさった。


「アンタの頭を焼け野原にしてハンバーグでも焼いてやったっていいのよ?」


 その言葉と共に炎を自在に私の周りで躍らせ、宣言通り頭を燃やし尽くしてやる仕草を見せつける。すると彼はサアッと青ざめて自分の禿頭を押さえ、そして私をにらみつけながら唸り声をあげて近衛と一緒に立ち去っていった。

 やがてドスドス踏み鳴らす侯爵が完全に見えなくなり、私は大きく息を吐いた。


『お疲れさん。惚れ惚れする立ち回りだったぜ』

「ありがと。なんとかなってよかったわ」


 内心だとめちゃくちゃ不安で心臓もバクバク言ってたけど、切り抜けられて良かったわ。昔の私ならこんな立ち回り到底無理だけど、何度も死にかけたおかげでクソ度胸だけは勝手についてきちゃったのよね。

 胸を撫で下ろしながらそっと部屋のドアを開けて様子を窺う。デュランさんとルイーズさんは椅子に座って、未だ放心状態だった。そりゃそうなるわよね。でもルイーズさんも侯爵相手によく引き止めてくれたわ。下手したら、私が戻ってきたら部屋が空っぽだった、なんて事態もあり得たもの。


「大丈夫ですか?」

「シャーリー様……その、侯爵様は……?」

「あのハゲなら追い返しました。この部屋にいる限りお二人に手は出させないので安心してください」


 ルイーズさんの背中を撫でながらそう伝えた……んだけど、するとルイーズさんは私を潤んだ瞳で見上げて、そしてポロポロと涙をこぼし始めた。そしてさらには両手で顔を覆って、声を上げて泣き始めちゃった。参ったわね、そこまで怖かったのかしら。


「落ち着いてください、ルイーズさん。泣かなくても大丈夫――」

「もうダメ、お父様……私、もう耐えられないわ」


 泣いていたルイーズさんが徐ろにデュランさんへ涙に濡れた顔を向けた。


「シャーリー様はこんなにもお優しいのに……それなのに私たちは……」

「……」

「ねぇ、お父様。もう……すべてお話しましょう? シャーリー様をもう解放して差し上げるべきだわ」


 え? 何、どういうことよ?

 急に話に出てきて戸惑う私なんてお構いなしに、ルイーズさんがデュランさんに詰め寄っていく。


「もう黙ってるなんてできない! お父様も、もうご自分の罪に正面から向き合う時が来たのよ!」

「ああ、ルイーズよ……しかし……」

「お父様もずっと気に病んでいたからこんなにもなったんじゃないの? 自分で自分を罰して……だけどそれで楽になるのはお父様だけ。シャーリー様こそ楽にして差し上げるべきよ!」

「ちょ、ちょっと待って!」頭を押さえつつ二人の言い争いに私も割って入る。「何、何なの? 私を楽にするだとか、解放するとか……話についていけてないんだけど」


 デュランさんが話の主役だったはずなのに、いつの間にか私が主役になってしまってる。罪だとか、罰だとか、まったく話が分からない。

 ルイーズさんを見るけど彼女はデュランさんの返事を待ってて、肝心のデュランさんは顔を伏せたまま。すると私の肩がポンと叩かれ、振り向けばブランクが姿を現して私を支えるように立っていた。


「つまり、だ。シャーリーの親父さんが処刑された裏にゃ、アンタを殺してでも葬りたい事実があるってことだな?」


 それは確信めいた口調だった。ブランクは見上げた私に目もくれず、じっとデュランさんを見つめてる。

 どういうことよ……人を殺してまで公にしたくない事実って何? お父さんは国民を裏切って、魔物たちの王様と繋がってたから処刑されたんじゃないの?

 喉が乾いて声が出ない。手のひらにはじっとりとした汗がにじんで気持ち悪い。

 何かが、もうすぐ始まる。私の人生がまもなく変わってしまうことを直感して心臓が早鐘を打ち、世界がぐにゃりと歪んだ気がした。

 怖い。どんな魔物と対峙した時よりも怖い。すべてから耳を塞いで逃げ出してしまいたい。そんな衝動さえ起こるけれど、後ろでブランクが私の肩をつかんでて、それはまるで、彼が「逃げるな」と告げているような気がした。


「……教えて、ください。何があったんですか……?」


 後戻りできない。そう確信したけれど私は真実を欲した。

 デュランさんは黙して語らない。それでも私は見つめ続ける。


「……シャーリー様、私から――」


 やがて何も言わないデュランさんにしびれを切らしたルイーズさんが立ち上がりかける。けれど、彼女の前に痩せこけた手が差し出された。


「お父様……」

「いや、よい。ルイーズ、お前の言うとおりだ。どれだけ逃げても、どれだけ自らを粗末にしてもそれはしょせん自己満足に過ぎないのだと気付かされた」


 そしてデュランさんは「シャーリー様」と私を呼んだ。微笑んでいるようで、それでいて泣き出しそうとも言えるどちらとも取れない表情。けれど見つめてくるその瞳には生気が宿っていた。


「すべてを……我が友シグムンドが処刑されたあの裏で何が行われていたのか、私の知る限りをお話致します……」


 そうしてデュランさんから語られた真実。それは、私の想像を遥かに超えていた。自分が信じてきたもの。それらすべてがまやかしだったと知った。

 気づけば私は膝から崩れ落ちて、鳴き声を上げることもできず涙を流し続けていたのだった。







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何卒よろしくお願いいたします。

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