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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 4 彼女は長き悪夢から目を覚ました
54/62

5-3.命令した人間を教えろ



――lookie-loo






 シャーリーと別れたブランクは階下ではなく上階へと駆け上った。

 これからネザロと向き合わなければならないシャーリーに余計な気を遣わせたくないためにああ言ったが、ブランクの目的は先程の軍服の男にあった。もっとも、シャーリーに伝えた理由も本音ではあったのだが、それ以上に彼は先程すれ違った男が気になっていた。


(見間違えじゃなきゃあ――)


 男の手の甲に見えた包帯。それと右足を庇うような歩き方。想像したとおりであればこの機を見逃すわけにはいかない。

 一足飛びに階段を登りきり左右を確認する。が、すでに先程の軍人らしき男の姿はない。使用人たちが数人歩いているだけだ。

 右か、左か。ブランクが迷っていると左耳が微かにドアの閉まる音を捉えた。すかさずそちらへ走る。使用人の間をすり抜けて突き当りの角を道に沿って左に曲がる。

 果たしてその先は行き止まりであった。

 突き当りの右手側に部屋が一つあり、正面は壁。さっきの男は右手のドアに入っていったか、とも思ったがブランクはふと違和感を覚えた。

 このフロアはネザロの部屋と同じフロアであり、彼の部屋には何度か入っている。その時の部屋の奥行きを考えるに、廊下が短すぎるような気がした。念の為、右の部屋も覗いてみるが、半分開きっぱなしのそこはどうやら使用人の控室らしかった。当然、今の時間は誰もいない。

 ネザロのそれとは部屋の構造が違っているだろうが、この部屋の作りを見てみてもやはり廊下の長さは不自然だ。気になったブランクは姿を実体化させて壁に軽く指を這わせてみる。

 指先が触れる感じでは特におかしな点は見当たらない。壁面は滑らかで、しかし顔を壁に押し付けて塗装が施された表面を眺めてみると、ほんの僅か、不自然な凹凸を発見した。


「こりゃ当たりか?」


 おそらくは隠し扉。軽く壁を押してみるが、びくともしない。鍵がかかっているらしかった。

 なら鍵穴があるはず。魔術的な鍵であれば強行突破になってしまうが、そうでないことを願いつつブランクはタバコを取り出した。

 火を点け、床を左から右へとゆっくり這わせて煙の流れを確認する。すると彼の腰くらいの高さの位置で一箇所、微かに流れが異なっている場所があった。指先で壁を探ると僅かな隙間を感じる。どうやらここが隠れた鍵穴になっているらしい。


「久々だが、はてさて、上手くいってくれるかねぇ……」


 ひとりごちながらブランクはポケットから針金状の道具を取り出した。そしてそれを隙間に差し込んでカチャカチャと動かしていく。と、程なくカチリと音が鳴った。


「ビンゴ」


 ニヤリと笑いながら思わず指をパチンと鳴らした。どうやらピッキングの腕は錆びてなかったらしい。

 今回の鍵が魔術的な錠でなくて良かった、と改めてブランクは思った。魔術的な鍵を開ける魔術も取得しているものの、術式の体系が異なるこの世界では開けられる自信がない。魔術錠でないのは、ここに出入りする人間が必ずしも魔術に長けているとは限らないからだろうか。

 そんなことを考えながらブランクは、こちらの方に近づく気配がないことを確認して隠し扉を押し開けた。

 音もなく扉が開いていく。軋むような音もないことから結構頻繁に使われているようで、やはり軍服の男はここを入っていったのだろう。

 中に入り、後ろ手で鍵を閉めながらブランクは見上げた。窓もなく一箇所に魔術灯が灯っているだけで薄暗いが、正面には細い階段が伸びていた。音を立てないように慎重に登っていけば、突き当りには再び扉。


(この声……誰だ?)


 魔術で聴力を強化して扉に耳を押し当てると、微かな話し声が聞こえてくる。内容までは聞き取れないが、少なくとも男一人ではなく誰か相手がいるらしい。

 やがて話し声が途切れ、ブランクが姿を消すとまもなく中から先程の軍服の男が出てきた。男は中に向かって恭しい一礼をして部屋を辞し、階段を降りていく。

 扉が閉められる前にブランクが中を覗き込むと、そこは立派な一室であった。照明は明るく調度品類がいくつも設えられている。一番奥にはベッドが置かれており、男の会話の相手はどうやらベッドに横になっているようだった。

 残念ながらベッドの人物までは確認できなかったが、ブランクには概ね想像がついた。召喚されて、まだ会ったことのない王城に住まう人物など一人しかいない。

 ブランクは階段を降りて男を追いかけた。男は慎重に隠し扉を開け、廊下に出ていく。ブランクも気配を消して廊下に出ると男の背後に回り込み、そして――誰もいない控室へと強引に引きずり込んだ。


「よぅ、大声を出してくれるなよ? アンタも隠し扉の存在を言い触らされたら困んだろ?」


 ブランクは男の口を塞いで銃を首に押し当てると、低い声でそう言い放つ。銃の存在に気づいた男は目だけで同意を伝えながらも驚きを隠せなかった。

 男は人間の気配を探知することにかけては自信があった。しかしブランクの存在にはまったく気づいていなかった。いったい、いつから見られていたのか。首に押し付けられた銃よりもそちらの方が気にかかり、男の額に冷たい汗が流れる。


「俺の顔は覚えてんだろ? 昨日の夜中に派手なパーティをやったよしみで、旦那に質問があるんだ。しばらく俺とお話してくれないかい?」

「……」


 ブランクが銃を強く押し当てても、男は口を開こうとしなかった。目には焦りが見えるが、それでもできる限り冷静に隙を窺っている。ブランクは小さく口笛を吹いた。

 この手のタイプは、おそらく痛めつけたところで口を割らないだろう。秘密は抱えたまま死んでいく人種だ。軍人の、しかも諜報畑で生きる人間としては立派だが、ブランクにとって厄介、というよりも面倒な相手でしかなかった。


(だんまり、か……)


 一応肩の骨を外す寸前まで力を入れてみるが、男は歯を食いしばり、喋り出す様子は見られない。

 ならしかたない。ブランクは小さく詠唱を口にした。

 彼の手のひらから黒いモヤのようなものが現れて、それが男の頭部にまとわりついていく。男は首を必死に振ってその得体の知れないモヤから逃れようとするが、ブランクに拘束されて叶わない。

 やがてもがく男の頭部全体がそれに包まれると、全身の力がグッタリと抜けてブランクにもたれかかる。ブランクは男の体を抱えると、近くにあった椅子に座らせて顔を両手でつかみ正面を向かせた。


「俺の質問に正直に答えろ。その手と脚の傷は誰にどうやってつけられた?」

「……貴様の銃で撃たれた時に負った」

「よぉし、オーケー。いい子だ」


 だらしなく口を開け、虚ろな瞳で男が応えてブランクはうなずいた。

 魔術の効果は良好。問題なく自白させられそうである。おまけに今の質問で、この男が昨夜に自分と戦った相手であることも確認できた。であれば。


「なら次の質問だ。昨夜は何処で何をしてた?」

「……王都の北東で、フォスター・デュランの殺害を試みた。だが、貴様と裏切り姫の介入によって殺害は失敗した」

「なぜデュランを殺害しようとした」

「命令されたから」

「その命令の理由を聞いてんだ」

「……私は知らない」

「ちっ……」


 ブランクは舌打ちした。魔術の効果は十分出てるようであるから、おそらくは本当に聞かされていないのだろう。

 ならば質問を変えるか。理由と並ぶ、もう一つの重要な問いをブランクは男に投げかけた。


「知らねぇならいい。ンなら、だ。デュランの殺害を命令した人間を教えろ」

「……」


 男の口が止まる。魔術に抗っているのか、小刻みに口が揺れる。ブランクが改めて「教えろ」と強い口調で促した。


「……だ」

「あ?」

「王だ。ワグナール・ドゥ・ヴィラ・ヴァルシャール王が私にフォスター・デュランを殺害せよと命令した」

「……そうかい」


 となると、やはり先程の部屋にいたのはこの国の王様というわけか。ブランクは合点がいったとばかりに口元を撫でた。

 しかしなぜだ。ブランクは少しの間思考に沈んだ。

 シャーリーの話によれば、この国の実権はネザロが握っているはず。王は病床に臥せっていて半ば軟禁状態だという。ここしばらくは国政に携わっておらず、城に務める多くの人間が王の存在を忘れかけているような状態だ。

 そんな王が、どうして今更動きを見せる? 仮に病から回復して復権を目論んでるとしても、どうしてデュランを殺害しようとするのか。彼はすでに過去の人間で、精神面でも病んでしまっていて何かしら王に対しアクションを起こせるような立場ではない。


(……ってなると、パッと思いつくのは――)


 何か、王の重要な秘密を彼が握っているということか。しかしながら、そうなるとなぜこのタイミングで、という点が疑問になってくるが――


「まあいいさ。とりあえず聞きたかった事は聞けたしな」


 ブランクは男を立ち上がらせると、そのまま部屋の外に連れて行く。そして立たせた状態で指を鳴らして魔術を解呪し、姿を消した。

 先程まで自失していた男だが、解呪された途端にハッとして周囲を見回す。その場に立ち尽くして数秒だけ怪訝な顔をしていたが、目元を揉み解す仕草をすると隠し扉の鍵を掛ける。そして何事も無かったかのように廊下を歩き始めたのだった。






Break Up――





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