表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 4 彼女は長き悪夢から目を覚ました
51/62

4-2.詳しい話を聞かせてもらおうじゃない




「さぁて、と――」


 デュランさんたちの位置を意識しつつ、黒尽くめの仮面たちと対峙する。

 数は……五人。手前側に四人に、一歩引いた位置に一人。出で立ちは全員同じだけど、たぶん後ろのヤツがリーダーってとこかしら。


「同じ仮面に同じ服装ってこたぁ……おたくら、何かの組織に属してるってことだな?」

「……」

「なるほど、ね。なら詳しい話を聞かせてもらおうじゃないの。貴方たちが何者なのか、どうしてデュランさんたちを襲ったのか、そして――貴方たちに命令を出したクソ野郎が誰なのかを」


 デュランさんがコイツらの組織に対して直接何かやらかしたって線も無いわけじゃないけど、どっかの誰かに依頼されたって考える方が自然よね。見るからに暗殺とかそれ系を生業にしてるっぽいし。

 剣を構える。コイツらがどれだけできる(・・・)のか。どんな動きにも即応できるよう、腰を落として連中の一挙手一投足に注意を払う。

 果たして、敵も各々構えて――こちらに向かって動き出した。


「素直に喋るって気はないってことねっ!」


 左右に散開して私たちを取り囲んでいく。対して私たちは背中合わせになり、どこからの攻撃にも対応できるようにする。


「ブランク! デュランさんたちの安全を最優先! 分かってるわね!?」

「あいよっ! ちなみに敵は?」

「殺しちゃダメよ! 情報を聞き出さなくっちゃ、また狙われるだけだもの」

「めんどくせぇ話だが、しゃーねぇか!」


 方針を確認し合ったところで、敵の方が先に動いた。

 一定の距離を保って互いに隙を窺っていたけれど、敵五人がタイミングを合わせて一斉に迫ってくる。

 そのうちの一人が懐から隠してたナイフを投擲した。いくつものナイフが次々に飛んできて僅かな月明かりに刀身がキラリと反射する。特別速いわけでもないけど、下手に避けてデュランさんたちに当たっても大事だから確実に剣で叩き落としていく。

 その隙を狙ってか、別の黒ずくめが地を這うようにして接近してきた。走りながらも物音は立てない。周囲の暗闇に溶け込み、距離を詰めたと同時にナイフを私めがけて繰り出して――というのはフェイントだったようで、一瞬で体勢を変えて私に足払いをしかけてきた。


「甘いっ!」


 中々に素早い攻撃。だけどこの程度、日頃からブランクと戦ってることを考えればたいした話じゃない。

 避けてもいいのだけど、敢えて前に踏み出す。相手の足の付け根とぶつかったことで足払いの威力は大幅減。精霊の力も借りて強化された私の姿勢はびくともしなくて、相手の動揺が伝わってきた。


「何処の誰だか知んないけど――」


 私を舐めてもらっては困る。

 内心でそううそぶきながら足元の敵めがけて拳を振り下ろす。素手の一撃ではあるけれど、拳は相手の仮面を確実に捉えた良い感触があった。黒尽くめの顔面が地面に叩きつけられ、そしてそれを見た私の脚が反射的に敵を思い切り蹴り飛ばす。

 まともに入った本気の蹴り。しかも、精霊憑依済み。そんなもの喰らわせればどうなるか。

 相手の体が凄まじい勢いで吹っ飛んでいく。偶然あった民家にぶち当たって壁を木っ端微塵に粉砕し、瓦礫を作り上げてその奥へと敵が消えていった。しまった、やり過ぎた。


「おい、シャーリー。お前、殺すのは無しって言わなかったか?」

「……うっさいわね、殺してないわよ」


 たぶん。


「しっかし、参ったわね」


 魔物と戦ってる時と同じ感覚でいたけど、確かに人間相手に本気で攻撃すると元々の耐久力が違うんだからやり過ぎになるわよね。

 細かい手加減は得意じゃないんだけど、どうしたものか。いつもとは違った方向で悩み始めたわけだけど、そんな私の悩みをよそに敵の動きが変わった。

 攻撃の手を止め、残った四人が密集する。何をするつもりかしら、と身構えてると突然連中の足元から煙幕が立ち上り始めた。


「逃げる気っ!?」

「逃がすかよっ!!」


 黒幕を明らかにする前に逃がすわけにはいかない。すぐに私も追いかけ、ブランクも銃を放ちながら走り出す。けれど。


「ちっ……!」


 煙幕の中からナイフと魔術が次々飛んでくる。それ自体はたいしたことないんだけど、その全ての狙いがデュランさんたちなもんだから守らざるを得ない。

 さらにそこに、一つの球状の物が弧を描いて飛んできた。そしてその物体の上で仄かに揺らめいていたのは精霊の姿。ってことは――


「精霊武器ッ!?」


 私がそう叫ぶとほぼ同時に凄まじい爆風が辺りを襲った。

 熱を帯びた突風が吹き荒れ、地面や建物の壁を熱していく。瓦礫は吹き飛ばされ弾丸となって周囲を破壊し、視界はあっという間に爆煙に包まれた。


「大丈夫か?」

「ええ。問題ないわ」


 煙に包まれた中でブランクの問いかけに応じる。私やブランクにとってはこの程度どうってことないけれど、普通の人間であれば容易に死に至らしめる威力だ。

 庇ったつもりだけどデュランさんたちは大丈夫だったかしら。そう思って後ろを振り返ると、どうやらちゃんと守りきれたようで、多少の砂埃こそ被ってるものの二人に怪我はなさそうで一安心した。


「そりゃ良かった、って言いてぇとこだが――」


 魔術の風で煙を吹き飛ばすと、辺りは惨憺たる有様だった。せっかく消火したデュランさんの家は、精霊武器が爆発したすぐ近くだったせいで半分くらい吹き飛ばされてしまってた。近隣の他の家もガラスが割れたり屋根が壊れたりしてて、何事かと付近の住民たちもどんどん集まってきてた。こんな夜更けに大騒ぎしてごめんなさいね。

 しっかし連中、街中でなんて物を使うのよ。信じらんないわ。


「確実にデュランを殺しにきたってとこだろうな」

「でしょうね」


 周囲の被害も顧みずあんな武器を使うなんて。よっぽどデュランさんに生きててもらっては困るみたいね。


「連中にも逃げられちまったしなぁ。一応、一人は確実に弾が当たったはずなんだがな」

「なら血の跡とかで追いかけたりできる?」

「どうだかな。殺しちまわないよう、威力低めの弾だったしよ」


 そ。なら仕方ないか。敵とはいえ、殺してしまうよりはマシと考えましょう。

 最初に私が蹴り飛ばしたヤツのところも確認してみたけど、姿はなかった。連中、キチンと連れて返ったみたい。そのまま放置してくれれば助かったんだけど。


「妖精たちに追っかけてもらうってのはできねぇの?」

「……難しいわね」


 匂いなのか何なのか分かんないけど、あの手の煙幕って妖精たち嫌うのよね。現にさっきまでここら辺にいた妖精たちもいつの間にかいなくなってるし。逃しちゃったのはシャクだけど、今は――


「まずはデュランさんたちの安全を確保しましょ。いつまた襲われるとも限らないし」

「そりゃ賛成だ。つってもどこに連れてくんだ? まさかシャーリーの実家か?」

「まさか」


 あんな、雨風さえ凌げないセキュリティガバガバな家に置いておけるわけがないでしょ。あ、自分で言ってて悲しくなってきた。


「ひとまずは、そうね……王城の私の部屋にでも匿っておきましょうか」

「……それって大丈夫なんか?」

「名目くらいは立つでしょ」


 仮にも子爵で元宰相補佐官殿なんだし、王城に連れてく事自体は問題にならないはず。咎められたら、襲われたから古くからの知り合いである私が保護しただのなんだの言って強引に押し通る。どうせ私の評価なんてゴミクズ以下なんだし。なんだか最近この手で無理やり黙らせるプランが多い気がするけど気にしない。


「そうは言っても、さすがにずっと部屋に住まわせるわけにゃいかんだろ」


 それも承知してるわ。確か……デュランさんには娘さんが居たはず。デュランさんは女中さんと暮らしてるし、娘さんは私より年上だったはずなのでたぶん、何処かに嫁いだんだと思う。彼女を探し出して相談しましょう。

 明日は朝から娘さんの居場所捜索ね。そう方針を決め、デュランさんたちをブランクに抱えてもらって私たちは一旦王城へと帰っていったのだった。




読んでみて少しでも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、画面下部の☆評価、画面上部の「ブックマークに追加」などで応援頂けると励みになります。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ