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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 2 精霊らしくない精霊
5/62

1-2.嬢ちゃん、助けに来てやったぜ?


 回避は間に合わない。そう判断し、防御よりも攻撃に舵を切った。

 紙を切るみたいにスッと剣が目の前の敵の体を真っ二つにしていく。同時に敵の爪も私の体を左肩から胸元にかけてザックリ斬り裂いてくれた。


「くぅっ!」


 苦痛に悲鳴を上げながら敵を蹴り飛ばすと、上半身がズルっと落ちていく。こちらの攻撃が先だったのと防具のおかげで多少傷は浅くなったけど、それでもトンデモなく痛い。見下ろせば、押さえた右手があふれ出た血で真っ赤に染まってた。


「……やっばいかな?」


 精霊の力は偉大も偉大、超がつくほど偉大なんだけど自分の限界がちょくちょく分からなくなるのが困りものね。もっとも、普通は限界がわからなくなるまで戦い続けることもないんだけど。

 ボヤキながら、折れそうな膝を無理矢理に伸ばして剣をまた構える。顔を上げると数の暴力の権化たちが舌なめずりをして、虚で構成された瞳を私に向けていた。本能に任せて一気に襲いかかってくるでもなく、ゆっくり距離を詰めてくる。確実な獲物には誰が喰らいつくか、みたいな連中なりのルールがあるのかしら。


「……予想的中、かしら?」


 ヌッと現れたのは一際大きな狼型の魔物だった。大型種まではいかないけど中型としてもかなり大きい方。少なくとも私を頭から一口でまるかじりできるくらいには大きなお口をしていらっしゃる。どうやらこいつが今のボスらしく、私を召し上がってくれやがるようだ。


「一つ言っとくけど……私ってばかなり毒が強いからお腹には気をつけなさい」


 とか強がってほざいてみたら敵の口がニヤリと笑って、気がつけば尻尾で弾き飛ばされてた。弱者は吠えるなという戒めかもしれない。

 今の攻撃にも反応できないということはいよいよ私も年貢の納め時らしい。上半身だけ起こせば、いよいよ私をかじり取ろうと魔物が低く唸った。それを見て私の体が震えた。

 死なんて怖くないと思ってた。父さんが群衆の目の前で処刑されたあの日、あの時感じた恐怖に比べればどんな怪我も耐えられるし、いずれこうやって魔物に殺される運命だろうからと覚悟を決めたつもりだった。

 でも――やっぱり怖い。怖いものは怖い。死にたくない。枯れたはずの涙がこぼれて頬を濡らした。でも泣いたところで魔物が見逃してくれるはずもないし、むしろ余計にそんな私を見て楽しむようにほくそ笑んだ。

 大きな口が開いて、血なまぐさい吐息が私の顔にかかる。その恐怖に耐えきれなくて、私は思わず胸元のロケットを掴んでいた。


(父さん……!)

「■■■■っっっっ――――!」

(誰でもいい、誰か……誰かっ……!!)


 誰も来てくれるはずはない。そんなの分かってる。いつだって戦場では私は一人だったから。

 雄叫びを上げて魔物が私に喰らいつこうとした。そのおぞましさに負けて目を閉じる。いるはずもない神様にだって祈った。


「誰か――助けてよっ!」


 すぐ隣にいる恐怖。それに耐えきれなくてついに私は泣き叫んでしまって。

 そしたら――突然まばゆい光が固く閉じたまぶたを突き破った。そしてすぐに光が途絶える。

 何が起こったのか。光は一瞬で終わったし、周りには変わらず魔物たちがいるのは目は閉じてても分かる。状況は何一つ好転してないはず。

 けど。私の体が噛み砕かれる感触も痛みも一向にやってくる気配はなくって。加えて言うなら他の魔物たちも喰い荒らしに来る様子もない。

 いったい、どうして。まぶたを恐る恐る開けた。


「……っ!?」


 まず私の目に入ったのは、黒くて頑丈そうなブーツだ。つまりは誰かが私の目の前で立っているというわけで、けれどこの場には私以外の人間なんていなかったし誰かが助けにくるわけがない。自分で「助けて!」なんて叫んどいてなんだけど。

 でも実際に誰かが立っている。それは確かだ。矛盾する現実と思考に頭と心がかき乱されながら私は顔を上げていく。

 黒いブーツに続いて黒のスラックス。その上は白いワイシャツにまた真っ黒のロングコート。どこぞの官僚みたいな服装で、どう考えたって戦場じゃ浮く格好だ。

 混乱がますます深まりながら視線をさらに上に向ければ、そこでようやく顔が分かった。

 性別は男性。髪は服装と同じく黒くて、目元はサングラスをかけてるせいでよくわからないけど、年齢はたぶん二十代後半くらい。戦士にしては細身っていうのは改めて見なくても分かる。

 だっていうのに。


「うそ……」


 目の前の男の人は片手で魔物の動きを抑えてた。私にかじりつこうとしてた大きな顎を下から支える形で受け止めてて、なのにあくびまでしてずいぶんと余裕シャクシャクだ。

 現実の光景がうまく頭で処理できなくて、たぶん私はずいぶんと間抜け面をさらしてたに違いない。男の人はサングラスの隙間から私の顔を眺めると、サングラスを外しニッと笑って私にこう告げたのだ。


「――よう、嬢ちゃん。助けに来てやったぜ?」





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