3-2.これでも喰らいなさいっ!
「――しっ!」
鋭く息を吐きながら剣を突き出す。襲いかかってきた中型の魔物を串刺しにし、横から迫ってきた別個体を魔術で吹き飛ばしていく。
本能に従い、引き抜いた剣をそのまま横に薙ぐ。背後からの魔物を両断し、ずれた魔物の体の隙間から、同じく戦い続けているブランクの姿が覗いた。
「オラオラオラァッ! どうしたどうしたぁ! テメェらの餌はこっちだぜ!?」
絶え間なく銃声が鳴り響いて次々と魔術の銃弾に貫かれた魔物が倒れていく。その屍を乗り越えて大量の魔物がブランクに迫っていくけど、相変わらず彼は飄々とした振る舞いを崩さないし、実際にどれだけ魔物に囲まれようとも危なげなく攻撃をかわし続けていた。
「ほらよっ! コイツでも喰らっときな!」
時に武器を変え、時には大きく跳躍して地上の敵を吹き飛ばす。それでいて私からはさほど離れないんだからその立ち振舞にはまったく恐れ入る。
さぁてさて。剣を振るう腕を止めずに目線だけで近くの影を見上げた。
残った最後の大型種。見上げなければ全貌が見えないほどの巨大さにうんざりしてくる。でもすでにだいぶ弱ってるはず。初っ端の一撃で敵の関心が中小型種含めてみんな私たちに向いたおかげで中々近づけずにいたけど、後少しだ。なら――
「一気に突破するわよ!」
「オーケー! 了解!!」
ブランクと背中合わせになった瞬間にそう宣言し、私は剣を腰に構えた。そして魔術を一発放ち、爆発とともに小型の魔物が吹っ飛んでいくのを確認して走り出す。
「はあぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
できた空白を埋めるように集ってくる魔物をひたすらに斬り殺す。走る脚を止めずに斬り、斬り、斬る。後ろから届くおびただしい銃弾の援護を受けて私は奥へ奥へと迫っていって。
そして。
「ふっ!!」
大きく、跳躍。精霊の力を借りて重力を無視した私の体は、うごめく中小型の魔物たちを飛び越えて一気に大型種へ迫った。
黒い巨大な影の空虚な両目が私を捉える。鈍重な見かけによらず影でできた腕がすぐさま私に伸びてくるけど、空中に魔術で作った足場を蹴って――ブランクのアイデアだ――回避する。
直ぐ側をゾッと背筋が凍るような勢いで影が通り過ぎていく。けれども当たらなければどうってことはない。下唇をペロと舐めながら大型種の背後へ回り込んだ。
無防備な背中。狙うは――首元。再び作った足場を蹴り、剣に魔力を注ぎ込む。
灼熱の炎でできた刀身が伸びる。熱が周囲の空気を焼いて、敵の真っ黒な背中を白く照らし出し――その背中が突如として泡立った。
背中から突然新しい腕が飛び出して私に迫る。初撃は回避。けれど背中のあちこちから生まれた腕が私を飲み込まんと四方から襲いかかってきた。
「っ……、この!」
空中に静止し、剣で薙ぎ払っていく。けれど影の腕はどれだけ斬り払おうとも敵にはロクな痛痒も与えられてないようで、薙ぎ払う毎にどんどんと数が増えていく。くそっ、これじゃキリがないじゃない……!
と思ってたら。
「■■■■■――ッッ!!」
突然何かが爆発して大型種が悲鳴を上げた。飛んできた方向を見れば、ブランクが大砲を肩に担いで私に向かって親指を立ててた。
「ナイス、ブランクっ!!」
援護としちゃ素晴らしく最っ高のタイミング。さっすが、頼りになるわ。
影の動きが止まって、その隙を突いて一気に上空へ。大型種の頭上で、剣を上段へ構えた。
魔力を一気に注ぎ込む。刀身の炎がまた一際大きく、長くなる。術者である私でさえ熱を感じるくらいの灼熱を携え、大型種めがけて一気に降下していった。
「これでも――喰らいなさいっっっっ!!」
全力で剣を振り下ろし、白閃が大型種の首にめり込んでいく。そして剣を最後まで振り抜き、着地した。
振り返る。遥か頭上で私を見下ろしていた大型種の首が傾いていき、切断面が不気味に糸を引いた。そして頭だけがこぼれ落ちていって、地面にぶつかる直前で風に溶けるみたいに消えていった。
それと同じように大型種の全身もまた消え始め、数秒と経たずしてあれだけの巨体が跡形もなくこの世界から消え去った。
「これで――」
後は何とかなるはず。大きく息を吐きながら額ににじんだ汗を拭った。
大型種が三体もいてどうなることかと思ったけど残りは中小型種だけだし、体は重いけどよほどのことが無い限りは乗り切れるだろう。
「よしっ!」
気合を入れ直して、再び魔物たちの群れへと舞い戻っていく。向かってきた魔物を蹴散らしながら孔の方を見てみれば三つのうち二つはもう殆ど閉じてるみたい。残りの一個も最初よりも小さくなってきてる気もするし、この調子なら軍本隊がやってくる前にだいたいカタもついて――
「――え?」
なんて呑気なことを考えてたその時、何かが孔から飛び出していくのが見えた。
円弧を描いて飛んでいくそれが何であるか、初めは分からなかった。いや、シルエットからなんとなく分かってたんだろうけれど、信じられなかったんだと思う。でもそのシルエットが私のすぐ近くに滑るようにして落下したことで、正体を否が応でも理解せざるを得なかった。
「ひ、と……?」
この間のブランクの報告を思い出す。半信半疑だったけど、まさか本当に人がいたなんて。
「う……げほっ、ごほっ……!」
孔から現れたのは女性。生きてはいるみたいだけどひどく咳き込んでて、口からは血も流れてる。立ち上がりこそしたものの、それもやっとという感じで今にも倒れてしまいそうだった。少なくともこの魔物たちの群れの中で生き延びれる感じじゃない。
「このっ……! どきなさいってのぉっ!!」
幸いなのが、魔物たちの関心が概ね私とブランクに向いてるってこと。けどこのままじゃいつ魔物たちに襲いかかられるか分かったものじゃない。
早く助けなきゃ。焦りながらも集まってくる魔物を斬り伏せて女性の元に私は走った。
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