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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 4 彼女は長き悪夢から目を覚ました
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3-1.最前線で馬車馬みてぇに働く最底辺の仕事じゃねぇの?




 デュランさんを送り届けてからしばらくは何事もなく平穏な日々だったんだけど悲しいかな、しょせんそれは数日だけで終わりを告げてくれた。


「魔物たちはどっち!?」


 懸命に脚を前に動かしながら妖精たちに叫ぶと、彼女らも慌てふためいた様子で私が向かうべき方向を身振り手振りで教えてくれる。

 急げ、急げ。焦りを抑えようとするけど気は急くばかり。両手のひらには、運動によるものとは違う汗がじっとりとにじんでた。

 魔物と戦うのは日常茶飯事で前回の戦いからさほど間が空いてないけれど、たまにはそういうことだってある。にもかかわらず私がこれまでになく慌てているのには理由があって。


「なんだってこんな急に孔ができんのよっ……!」


 いつもであれば半日から数日、前もって専門の精霊師が孔の出現を予知してくれる。だから程度の差はあれど軍の準備もできて、そのおかげで魔物たちの進行を食い止めることができていた。

 けれど今日に限っては、孔の存在に気づいたのは既に孔が誕生してしまってからという手遅れ状態。精霊師たちも、それこそ妖精たちも事前に気づくことができなかったようなのだ。

 おかげで軍の出動なんてもっての外で近隣の街の避難さえままならない状態。なのですぐに動ける私だけが単騎で先に魔物たちの群れへと向かっているというわけである。


「予知担当の精霊師は――……」


 普段ほとんど顔を合わせない、孔の出現を前もって教えてくれる同僚を非難する言葉が出てきそうになって、私は無理矢理に口をつぐんだ。

 誰だって上手くいかないことはあるし、そもそも孔に関しては未知の部分が多いのだ。妖精も感知できなかったみたいだし、今回は今までとは何かが違ったのかもしれない。それに本来、私たち精霊師はこういう不足の事態に対応するために存在するんだし。


「最前線で馬車馬みてぇに働くのが精霊師っていう最底辺の仕事じゃねぇの?」

「違うわよ!」


 ニヤニヤしてるブランクにツッコんでみるけど、説得力皆無よね。

 私みたいに毎度最前線で死にそうになりながら戦ってる方がおかしいわけで、他の国じゃ貴重な精霊師を磨り潰すような真似はしないわ。


「それはいいとして――そろそろみてぇだぜ?」


 ブランクのその言葉を受けて、近くにあった小高い丘の頂きから遠くを眺める。

 そして私は息を飲んだ。


「なんてこと……!」


 遠くからでも見える、巨大な影。周辺の木々や岩石と比べて分かるそれは間違いなく大型種で、いつもなら精々一体。極稀に二体現れたりするけど、出現しないことの方が多い存在だ。

 だっていうのに私の目に飛び込んできたのは、三体の巨大なうごめく影だ。光さえ吸い込んでいきそうなくらいの真っ黒な体が、のっそりとした動きで街の方へと近づいていってた。


「孔が三つも……」


 その大型種の背後で見え隠れするのは直径数メートルはありそうな大きな孔だ。未だそこからは大量の中小型の魔物があふれ出してて、その体で地上をどんどんと黒く埋め尽くしていってる。


「さぁて。結構ヤバい状況な気がするが……どうする、シャーリー?」


 前代未聞、未曾有の事態なわけだけど、私の横に姿を現したブランクはいつもどおりだ。飄々として、口調からはどこか楽しんでるような節さえある。そのせいか、呆気に取られて途方に暮れかけてた私も「なんとかなるんじゃない?」なんて思えてきた。


「どうするも何も決まってるじゃない――敵は一体残さず殲滅する。それだけよ」


 軍はまだ当分到着する見込みはない。逆に言えば、被害を気にせず私も好き放題戦えるということでもある。


「イフリル、力を借りるわよ」


 胸元のロケットを握りしめて祈る。現れた足元の魔法陣から文字みたいな幾何学模様が浮かび上がって私の周囲を取り巻いていく。

 やがて感じる、重力とは違う衝撃。みなぎる力の存在を感じて見上げれば、いつもどおりの炎の大精霊が誇らしげにたたずんでいた。


「オーケーオーケー、ご主人サマのご意向は了解した。ンなら――俺も派手にいかせてもらおうか」


 サングラスを掛け直したブランクが口元を愉快そうに歪めるのが見えた。握ってた両手の銃を消して、それから未だに聞き慣れない詠唱を始めたんだけど、それがいつになく長かった。

 ブランクの周囲が歪む。禍々しいとも思える色の光を発して、そして彼の正面に巨大な砲身が現れた。

 ブランクの体より大きくて、銃というより大砲に近い。銃火器には疎い私だけど、それでもそのシルエットが機能美あふれる洗練された物だとなんとなく感じ取った。


「こっちはいつだって準備完了だぜ?」


 全身で巨大な銃を支えながらブランクがニィと笑った。

 まったく以て頼もしいこと。さて、それじゃ――ブランクの言うとおり派手なパーティにしましょうか。

 敵大型種とはまだ距離があるんだけど、さすがにイフリルの存在感は半端ないようで敵サマもお気づきになられたご様子。黒い影で構成された巨体をこちらに向けて、三体が銘々に雄叫びを上げた。


「■■■■――ッ!!」


 警戒か怒りか、はたまた恐怖か。私に魔物の感情なんて推し量ることなんてできないけど、できたところで慮ってやる義理もない。魔物は殺す。ただそれだけだ。


「――燃え尽きなさい」


 腕を前に伸ばして、魔物たちに宣告した。

 伸ばしたイフリルの腕から巨大な炎が伸びていく。赤を通り越して白に近いその炎が、通り道のすべてを焼き尽くしながら大型種の体を黒から白へと染め上げ、飲み込んでいく。

 同時に。

 隣で凄まじい音が耳をつんざいた。ブランクが引き金の指に力を込めると、イフリルの一撃に負けないくらい巨大な光の柱が魔物に向かって伸びていって、バリバリという落雷みたいな擦過音を辺りに響かせていく。

 敵に着弾。その瞬間にすべてが閃光に包まれた。

 猛烈な爆風が押し寄せる。私たちがいる場所の木々までなぎ倒さんばかりの勢いで吹き抜けていって、そして着弾地点からは大きなキノコ状の雲が二つ、天まで届かんばかりのサイズで並んでいた。


「――あれ?」

「おっと、大丈夫かい?」


 立派な雲を見上げてるとふらりと立ちくらみがして倒れそうになり、私の背をブランクが支えてくれた。

 これまでブランクが何をしようとも感じなかったけど、今回ばかりは私の中にある魔力をごっそりと持っていかれた感覚がある。今の立ちくらみもたぶん、急に魔力が失われた反動だと思う。ブランクの活動の源は私の魔力なわけだし、イフリル級のを私の含めて二発も放てば、そりゃ魔力切れにもなるわよね。もっとも、チョーカーのせいで普段使わない部分の魔力が使われたのか、立ちくらみは一瞬だけでまだまだ動けそう。

 さて、結構な一撃なはずだけど、どうかしら。イフリルに手を振って別れて、煙が晴れてくるのを待った。


「……よし!」


 思わずガッツポーズが出た。

 どうやら上手く巻き込めたようで、うじゃうじゃといた中小型は相当に数を減らすことができてた。大型種も三体のうち二体は狙い通り跡形もなく消え去っていて、残る一体も存在こそしてるけど、体の左半分近く削り取られてなんともバランスが悪そうにうごめいていた。


「再生してるみてぇだけど?」

「大丈夫よ」


 三体目の大型種の肉体が元の形に戻っていく。けれどこれまでの経験上、あそこまで大規模に再生させてしまえば見かけは元通りでもダメージは甚大で、首なり心臓にあたる部分なりを潰せば倒せるはず。大きさこそ脅威だけど近接戦だけで十分なはずだ。

 手や脚を軽く動かしてみる。うん、大丈夫。感覚はいつもと変わらないし、魔力の残量も、イフリル級をもう一回っていうのは難しいけど動くのに支障はなさそう。


「ブランクはどう? まだいける?」

「魔力タンク様が大丈夫なら当然」

「誰が魔力タンクよ。でもそれだけ言えるなら上等。なら――行くわよ、ブランク」


 腰の剣を引き抜くと、ブランクもまた両手に銃を握りしめる。

 視界の先では、まだまだとんでもない数の魔物たちがいるけれど、まずは大物から片付けてしまいましょうか。

 いつもどおり精霊を召喚して肉体を強化し、そして私たちは敵へと再び全力で向かっていった。






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