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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 2 精霊らしくない精霊
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1-1.明日の朝には終わっててほしい






 私は激怒した。

 いいや、それはちょっと正確じゃあない。激怒「している」。つまり現在進行系で激怒真っ盛り。しかも超がつくほどの大激怒だ。具体的には上位の精霊を召喚してそこらじゅうを火の海にしてしまいたいくらいには怒り狂ってる。

 同時に。

 私はピンチである。しかも超がつくほどの大ピンチだ。具体的には――なんかもうピンチ過ぎて笑えてくるくらいに大ピンチである。

 辺りを改めて見渡す。周囲には中小型の魔物が見たこと無いくらいの数であふれかえっていて、さっきから倒しまくってるんだけど、どれだけ倒しても終わりが見えてくる気配が微塵もない。

 何故か。理由は簡単。異世界との孔が同時に二つもできてしまったからだ。

 異世界との孔ができるとただでさえ大量の中小型の魔物があふれ出てくるっていうのに、どんな偶然なのかすぐ近くに別の孔がつながってしまったのだ。


「ったく……どんな確率だってのよ」


 まさに奇跡的な確率だと思う。もっとも、これほどまったく全然ちっとも嬉しくない奇跡もないだろうけど。

 そんなわけでこれまでの戦場とは比べ物にならないくらい魔物が出現したってことは、当然ながら大物の魔物も現れたわけで。まあそいつらはいつもと同じ様に上位精霊を召喚して一掃してやったわけだけど、中小型まで一掃するっていうのは難しい。

 上位精霊を召喚できるのはせいぜい一、二回が限度だし、中小型も一掃しようと地面に向かって派手なのを撃てば漏れなく味方まで巻き込んでしまうからだ。

 となると控えめな魔術と剣で地道に数を減らしていくしかないんだけど……相手にしてると、数の暴力というのが本当の脅威なのだとつくづく実感する。

 とはいえ、だ。

 私はこの程度で冷静さを失うくらいにお尻の穴は小さくないし大ピンチだとも思わない。

 いかなる時にも冷静たれ。施しには施しを、ただし右頬をぶたれたら左顎を砕いてやれがモットーの私である。少々どころか相当にアレなことをされない限りは怒りはしない。たぶん。きっと。おそらく。

 であればなぜ私が大激怒してるのか。答えは簡単。今、この場には私しか人間がいないからだ。

 つまり――逃げやがったのだ。

 Q.誰が?

 A.軍が。私を見捨てて。


「がああああぁぁぁぁぁっっっっ、もうっっっ! 腹立つぁぁぁぁぁっっ!!」


 緊急的に出撃の命令が出て大急ぎでやってきた私を見て小便漏らしそうな勢いで泣いてすがってきたってのに、あのクソチビデブハゲ指揮官野郎は調子のいいことまくし立てながら二つ目の孔が生じた時点で部隊まるごと引き上げやがったのである。頭の中でチビデブ指揮官の頭の毛を全部刈り取って毛穴という毛穴を燃やし尽くしてやってもまだ私の溜飲は下がらない。

 おかげで、いつもなら多少なりとも敵は分散してるってのに、ただでさえ多い敵が今や全部まるっと私を獲物と考えてくれてるわけで。


「いくら私がいい女だからって、魔物だけってのはお断りよっ!」


 いつか戦いの中で死ぬ時が来るだろうと覚悟はしてたけど、こんな一人ぼっちの場所でってのは御免被りたい。国中から嫌われてるけど、それでも誰かにくらい看取ってほしい。


「ま、泣き言行ったって変わんないわけだ――しっ!!」


 大ピンチではあってもまだ終わったわけじゃない。ならば限界が来るまであがき続けるのみだ。

 つらつらと経緯を思い出しながらも、次々と襲いかかってくる影の魔物を斬り殺していく。常に背後の注意を払いながら、時に簡単な魔術で牽制しつつ剣を振るう。それでもボヤキはやっぱり止まらない。


「ああ、もう! 上位精霊を召喚できればこんな奴ら楽に倒せるってぇのにぃっ……!」


 それも首に巻かれたチョーカーのせいでままならない。こいつさえなかったらもっとポンポン上位精霊を召喚できるし、魔術だって魔力の残りなんて気にせず好きなだけ使えるうえに、体力的な強化もさらにできるから魔物がどんだけいようがものの数じゃないはずなのに。罪の証とはいえ、足かせをはめられた状態で負けることも許されないっていうのが歯がゆくてたまんない。


「異形化は使えないし……!」


 正直、異形化さえ使えればなんとかなるとは思う。けど残念ながらアレは一回使うとしばらく使えない。

 どういう理屈かなんてわからないけど、少なくとも一、二週間は使おうと思っても異形化してくれなくて、単なる自傷行為でひたすらに私が痛い思いをするだけなので、真性のマゾでもリョナ属性でもない私は全力で二度と御免こうむる所存だ。

 つまりは、ジリ貧。味方の援護なんて最早軍自体が逃げやがりくさったおかげで期待値ゼロ。なんとかダメージを最小限に押さえながら一体ずつ地味に倒していくしか、私には選択肢が残されてなかった。


「……明日の朝には終わっててほしいわね」


 時刻はまだ、陽がようやく傾きだした頃。先の長さに気が遠くなりそうだった。

 けど、どうやら私の未来はそれよりもずっと手前で途切れる運命らしい。

 集中を欠いて余計な事を考えてしまったのがいけなかったのか、ひょっとしたらもうすでに体力的な限界に来てたのかもしれない。

 戦闘中にもかかわらず意識が一瞬明後日の方向に向かってしまった。私の数ある悪癖の一つだが、それが今回も出てしまった。


「しまっ……!」


 頭の中で時間が突然途絶えて、我に返った時にはすぐ目の前で巨大な熊みたいな魔物が爪を振り下ろしていた。

 

 

 

 

 

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