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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
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5-2.急いでも無駄なのにね




「ご機嫌よう、デイビーズさん?」


 こちらから挨拶すると、ターナのお父さんを陥れた犯人――デイビーズはポカンと口を開けて立ち尽くしていた。いろいろとこの後の都合が良いのと、ちょっとしたサプライズのつもりで息を潜めてたわけだけど、デイビーズは豆鉄砲を食らった鳩でもこんな顔をしないでしょってくらい間抜けな顔を晒してくれた。この顔が見れただけでも苦手な暗がりでじっと待ってた甲斐があるというものね。


「……こ、これはこれはシャーリー王女。こんな夜中に私なんかの家に何用で? 深夜のパーティのお誘いでしょうか?」


 それでもすぐに気を持ち直したのはさすがで、いつぞやも見た人懐っこい笑みを貼り付けて表面上は平静そのもの。この立て直しはぜひ見習いたいものだ。


「パーティ……そうね、そうとも言えるかもしれないわ。参加者は私たちだけだけど、きっとこの上なく楽しいパーティになると思うわ」


 フフッと私も笑顔を見せて視線をデイビーズから座っているソファへ落とす。ずっと思ってたけど、座り心地は抜群。撫でてみても触り心地は半端ないし、このまま永久に撫で回してたいわ。王城の私の部屋にあるカッチカチの椅子とは比べ物にならなくて、まったく悔しい限りである。


「このソファ、ずいぶんと立派ね。座り心地が良くて気に入っちゃったわ。結構お高かったんじゃない?」

「ははっ、そんなことはありませんよ。見た目だけで、中身は安物です」

「あら、そう? おかしいわね、昼間に鑑定してもらったのだけど、目が飛び出るくらい立派なお値段だったけど?」


 鑑定うんぬんはもちろんハッタリである。隣で立ってるブランクがそれっぽい紙を見せびらかしてるけど、中身は適当。けれど高級なのは間違いないし、貧乏性の私だって質の良い悪いくらいは分かる。

 事実、ハッタリの効果はてきめんで、デイビーズの顔がひきつっていた。


「本当にびっくりするくらいのお値段だったわ。私じゃ到底買えないくらい。そして失礼だけど――単なるお役人のお給料じゃ手が出せないくらい」

「……貯金をはたいて買ったんですよ。高級なソファでリラックスするというのが憧れでしたので」


 立ち上がりながら言い訳するデイビーズの様子を横目で見れば、顔は笑みを貼り付けたままだけど額には汗がにじんでる。細められたまぶたの下で目は落ち着きがなくなって、その様子を観察しつつ私は部屋の中をゆっくり歩いて調度品に触れていく。


「これも、これも、アレもきっとそうね。この辺りにある身の回り品もみーんなお高い代物。さて、デイビーズさん? これらも貴方の貯金で買ったのかしら? だとしたら普段からずいぶんと節制されてるのね? その割にはお腹も出てるけれど」

「そ、そうなんです。この腹は、元々太りやすい体質のようで……」

「ふぅん、そう」


 まだしらばっくれるか。なら、もういいわ。まどろっこしいのも飽きてきたし。


「実は、私のお友達が父親の残した借金で苦しんでるの。名前はグラヴィスって言うんだけど……当然ご存知よね? 彼女のことを何とか助けてあげたくて、先日もデイビーズさんの職場にお邪魔させて頂いたりいろいろと調べたのだけど、その結果、面白いことが分かったの」

「……何でしょう? 拝聴しましょう」

「ありがとう。私もぜひ貴方に聞いて頂きたくてこんな夜中に殿方の家に忍び込む真似をしてみたのよ。

 実はね、どう計算してもグラヴィス氏の借金の額と横領されたっていう額がね、合わないの」

「それは……隠れた借金があったということですかな? それとも差額を何処かに隠していたとか?」

「私もそれは考えたのだけれど、前者は娘である友人が否定してるし、後者であれば彼女は今大変な苦労をしていないわ。まったくもっておかしな話よね? だからそこからずっと調べを続けてみたの。そうしたらグラヴィス氏がお酒を飲んで借金したっていう賭場が分かって、そこで面白いお話を伺うことができたのよ」


 デイビーズが喉を鳴らした。汗がとんでもなく噴き出してきてて、そのうち足元に水たまりができるんじゃないかしら。ま、容赦するつもりは毛頭無いんだけどね。


「グラヴィス氏が莫大な借金をこしらえたその日、貴方も一緒に賭場にいたらしいじゃない? 貴方が前後不覚状態のグラヴィス氏に借金を促してギャンブルさせてたって、賭場にいた人がペラペラと教えてくれたわ。

 さて――先にお話を伺った時にその事を教えてくださらなかったのはどうしてかしらね?」


 そこまで話した瞬間だった。

 デイビーズはその体に見合わない素早さで部屋を飛び出して、あっという間に私の前から消えてしまった。


「あらあら」


 すでに分かりきってたことだけど、これはもうデイビーズで犯人は決まりね。


「追わなくていいのか?」

「慌てなくても大丈夫よ」


 私が追わなくてもお願いしてた妖精たちが追いかけてる。たまに意地悪してくる妖精だけど、ま、今回は大丈夫でしょ。デイビーズを気に入ったみたいだし。

 遅ればせながら私たちも家を出て妖精たちが指し示してくる方向に走り出す。

 デイビーズの家に来る前に予め精霊は召喚してたから、軽く跳躍するだけで屋根の上に登れた。そこでブランクが視力強化の魔術を掛けてくれると、夜中なのに視界がハッキリとして遠くまでよく見えた。

 こんな魔術もブランクの世界にはあるのね、と少し驚きつつ走り出すと、そのタイミングで一台の自動車がものすごい勢いで飛び出していった。妖精たちの様子からして、たぶんあれがデイビーズね。


「そんなに急いでも無駄なのにね」


 妖精は世界に遍く存在してて、よほど意図的に排除しない限りどこに行こうと妖精が教えてくれる。ま、妖精とコミュニケーション取れる人間なんてほとんどいないわけだけど。

 妖精に導かれるままにトン、トン、とリズムよく屋根を足場に跳び続ける。デイビーズは街の外に逃げたらしく私たちも城門へとたどり着いたんだけど、そこはすでにずいぶんとにぎやかな状態になっていた。


「派手にやったみてぇだな」


 門のゲートが壊されてて、自動車にはねられたのかけが人も出てるみたい。治療に参加しようかと思ったけど、どうやら重傷者はいないみたい。なので心苦しくはあるけどこのままデイビーズを追いかけることにした。

 しかし厄介ね。人には見られたくないんだけど、ばれないように街の外まで出られるかしら。


「なら任せな」


 私がどうしようかと考え込むと、ブランクが何やら小声で詠唱を始めた。すぐに詠唱は終わったけど、特段私たちの周りに変化が起きた様子はない。


「心配すんな。しばらくの間、周りからは俺らのことを認識できなくなってる。堂々と門を通っていっても大丈夫だぜ」

「……本当でしょうね?」

「ホントホント。まあ見てなって」


 イマイチ信用しきれない私に苦笑いしながら、ブランクが門の方へと一人で進んでいく。集まっている兵士たちの間をすり抜けて門の外に出たけど、誰一人彼の事を見咎めることは無かった。どうやら本当に認識されてないらしい。門の外でドヤ顔をしてるブランクがハッキリ見えて、便利だと思ってた視力強化の魔術が憎たらしくなった。

 それはともかく、結果として信用せざるを得ないので私も恐る恐る兵士たちの前に姿を現すけど、やっぱり彼らは私にも一切反応することもなくて、難なく門の外へ出ることができた。


「な? 大丈夫だったろ?」

「はいはい、疑って悪かったわよ」


 しかしホント、なんでコイツはこんなコソコソするための魔術ばっかり覚えてるんだか。便利だから良いんだけどさ。まさか本当に人間の時はスパイだったりするのかしら。

 ブランクの人間の時の生き方が気になるところではあるんだけど、それを頭の片隅にうっちゃって再度デイビーズの車を追いかけ始めた。

 妖精たちの指示に従って地面を蹴り、木々を飛び越して一直線に。まだ車は見えないけど、妖精たちの騒ぎ方でなんとなく距離が詰まってるかどうか分かる。

 そうして十分も走り続けた頃、妖精たちの様子が変わった。





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