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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
36/62

5-1.貴方、何か知ってたりしない?




「……犯人が分かった?」


 さわやかな朝の目覚めの一杯を楽しんでたところでもたらされた一報。まだ半分おねむだった頭が一気に覚醒した。

 ブランクがギャンブル場に関して調べ始めてまだ一週間くらいしか経ってない……わよね? 最初に聞かされるのはせいぜい関係してそうなギャンブル場が絞り込めた、くらいだろうと思ってたのに、まさか一足飛びに犯人の情報とは予想外すぎる。


「……冗談が上手なこと」

「残念ながら俺ぁ冗談が下手くそな自覚があってな」


 うん、知ってる。ブランクは冗談好きだけど上手かどうかは別問題。何より、冗談を言って良い場面かどうかはキチンとわきまえる空気の読める人間、もとい精霊なのは間違いない。

 とはいえまだ信じきれないんだけど。ブランクの話を半信半疑ながら続きを促すと、どこでどう作ったのか似顔絵を差し出してきた。


「コイツだ」

「この人……」


 似顔絵に描かれてたのは、予想通りターナのお父さんと同じ職場の人だった。

 ちょっと意外といえば意外かもだけど、別段驚きはない。表に見せてくれる顔がその人の本質とは限らないことは、まだ若輩の私だって身に染みてよく知っている。


「そっか、この人がターナのお父さんを……何か証拠はある?」

「そいつは難しい話だぜ。なにせ一年近く前の話だ。ターナの親父さんをハメたって証言は取れたけど、それだけだしな。だが追い詰めることはそう難しくはねぇさ。あれだけの大金だ。溜め込んだままなのか、それとも派手に使ってんのかはしらねぇが、金の流れを丁寧に追ってきゃいずれ言い逃れできなくなるだろうさ」


 なら後は聴き込みとかして情報を集めたら、直接問い詰めてみるか。強引な方法ではあるけど、犯人なのはほぼ確実なんだしそれがきっと手っ取り早い。万が一、問い詰めて何も出てこなかったとしても今更私の悪評が地に落ちる心配はする必要ないし。失うものがないってのはこういう時に気が楽ね。

 それはそれとして。


「ところで、気になることがあるんだけど?」

「なんだ?」

「どうやって証言を手に入れたの? 賭場の話だし、あんまり話したがらない人が多いと思うのだけど」

「別に。たいしたことはしてねぇよ。ギャンブル場の近くで似顔絵見せて『コイツとコイツを知ってるかー?』って聞きまくってたら、たまたま親切な御人が『知ってるぜー』って教えてくれた。それだけのことさ」

「そう……

 話は少し変わるんだけど、ここ数日、西街近辺が騒がしいらしいの」

「へえ」

「聞いた話によると、ヴェロッキオ・ファミリーの一人が行方不明らしいのよね。ブランク……貴方、何か知ってたりしない?」


 尋ね終わってからブランクの目を見つめる。質問した私の方が緊張して喉を鳴らしたりしながらブランクの反応を待った。

 果たして、ブランクは頭を掻きながら首を傾げた。


「いや? 初耳な話だな」


 キョトンとした様子は私の目から見てすごく自然で、本当に初めて聞いた話みたい。緊張が抜けて私は大きく息を吸い込んだ。


「おいおい、まさか俺がやったって思ってたのかよ? いくらターナの件にヴェロッキオ・ファミリーが絡んでるからって、そりゃないぜご主人サマよぉ?」

「ごめんなさい、そういうわけじゃないわ。ただ、夜中にいろいろ街を調べてた貴方だから何か知ってるんじゃないかって思っただけよ」

「王都って一言で言っても広ぇからな。まぁ、マフィアみたいな奴らは消える時は突然消えるもんだ。居なくなったっていうそいつもヤバ気なヤマでヘマこいて、ファミリーに居られなくなったんだろ」


 確かにそうかもしれないわね。あの世界は厳しそうだし、身の危険を感じて逃げ出しただけかもしれない。

 もう一度ため息をついて気持ちを切り替える。せっかくブランクが犯人を探してきてくれたわけだし、今はそちらに集中しましょうか。

 そろそろ朝ごはんも運ばれてくる頃だし、食べながらこれからの計画をブランクと話すことにしようかしら。そう思ってすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すと、新しい一杯をブランクの分含めてカップに注いだのだった。





――lookie-loo





「ふう……」


 夜の街をほろ酔いで歩きながら彼は大きく息を吐いた。

 懐から時計を取り出して確認すると、時刻は十一時を過ぎようかという頃。残業を九時頃までしてたから、二時間近く飲んでいたことになるか。軽く一杯、くらいのつもりだったがまた結構な量を飲んでしまったらしい。


「ま、今週も一生懸命働きましたよってことで」


 まったく、勤勉なフリも楽じゃない。誰もいない夜道で彼は一人うそぶいた。そうして考えるのは、いつまで今の仕事を続けるか、だ。

 頑張って勉強して官僚という身分は手に入れたものの、そこに未練はない。いろいろと便利な肩書ではある。が、果たしてそれにしがみつく価値があるかと問われると彼は迷わず首を横に振った。

 世間一般に比べて給料は良いかもしれないが、ハッキリ言って割に合わない。朝から晩まで働いたって給料は変わらないし、そのくせちょっとしたミスでも目一杯怒られる。常に時間に追われてるし、金勘定というのはただでさえ気を遣うから精神的にも疲れる。


「おまけに――」


 出世できるかどうかなんて貴族に気に入られて推薦されるかどうかだ。幸い、自分の覚えは悪くはなさそうだが貴族のご機嫌取りを未来永劫続けていくなんて面倒くさいこと極まりない。ご機嫌取りが上手い自覚はあるが好きかはまったく別の話だ。


「そもそも、もう俺には出世なんて関係ないしな」


 彼が官僚となり、それなりに懸命に働いていたのは金が欲しかったから。物心ついた頃から貧しく、その日に食うものさえ困る生活で、それなのに両親は口論が絶えず父は酒浸り、母は彼に八つ当たりをする。

 いつしか彼は考えるようになった。金さえあれば、と。

 そして、そんな世界しか知らなかった幼い彼から見れば、国を動かす官僚というのはさぞ贅沢な生活をしているように思えた。初めて王都にやってきた時にチラリと見えた、キッチリとした身なりで颯爽と城へ出入りする姿は憧れだった。今思えば、王族と混同していたのかもしれない。

 なんとしても金持ちになる。その願望を胸に官僚になって、しかし現実に打ちのめされた。小金持ちにはなれるかもしれないが大金持ちは到底無理だと悟った。出世にも興味を失った。

 だがそれが功を奏したのかもしれない。良い計画を思いつき、官僚という身分ながら今や彼は憧れだった大金持ちになった。大好きな札束に囲まれて、その匂いに包まれながら眠りにつくという彼にとっての理想郷が実現した。


「……いつまでこうやって真面目に働いてくかなぁ」


 金銭的にはもう働く必要はない。贅沢を繰り返せばあっという間に資金は底をつくだろうし実際に別邸を購入し、豪華な調度品もいくつか買い揃えてみたがそれだけだ。手に入れた金はだいぶ減ったもののこれ以上むやみに散財するつもりもない。結局自分は金を手にしているそれだけで満足なのだと気づいたのだった。

 それでも退職せずに未だに働き続けているのは、苦労してなった官僚という身分がやっぱり惜しいのかもしれない。それを捨てるということは、これまでの努力も捨てるということだから。


「……変な酔い方したなぁ」


 飲んでる時は楽しかったはずなのに、夜道を一人で歩いているとくだらないことばかり考えてしまう。

 こういう時はさっさと寝てしまうに限る。明日は休みだから、気が済むまで札束を数えていくのもいいかもしれないな。

 住んでいるアパートにたどり着き、鍵を回してドアを開ける。スッと抵抗なくドアが開き、微かな月明かりを頼りに部屋の魔術灯を点けようと壁のスイッチを弄った。

 その時、突然部屋が明るくなった。


「ご機嫌よう――デイビーズさん?」


 響く、鈴が鳴るような声。

 幾分かの愉快さの混じった言葉で彼を出迎えてくれたのは、ソファに座って微笑むシャーリーであった。





BreakUp――






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何卒よろしくお願いいたします。

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