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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
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4-5.この手の人間に同情の余地はない



「ぎゃあああ――ふごっっ!!」


 激痛に男は崩れ落ちて地面を転がりながら叫び声を上げる。しかし固いブーツで頭を踏みつけられ、その衝撃とカチャリと届く拳銃の音で再び黙らざるを得なかった。


「さっきも言ったろ? 俺は素直な人間は大好きだって。

 さて、旦那にワン・モア・チャンスだ。コイツを――知ってるな?」

「し、知ってる!」男は最早ためらわなかった。「よく知ってる! よく知ってるよ! ウチの上客だ!」

「オーケーオーケー、上出来だ。なら最初に見せた似顔絵の男との繋がりは?」

「ある! そいつが最初の奴を連れてきたんだ! 酒をしこたま飲ませて金を賭けさせてたよ!」

「いいねぇ。最初っから素直に喋ってくれりゃ痛ぇ思いしなくてすんだのにな」

「も、もういいだろ!? 早く手当させてくれっ……!」

「ああ、心配しなくてもいいぜ。治療の必要はねぇからな」

「え?」


 押さえつけていたブーツが外れて男が顔を上げた瞬間、眉間を銃弾が貫いた。

 男の体から力が抜けて大の字になり、それきり動くこともしゃべることもなくなった。その姿をブランクは冷たく見下ろし、ポケットからタバコを取り出すと火を点けて大きく吸い込んだ。


「あーあ、本当にやっちゃいましたよ」


 ブランクの背後から緊張感のない声が届く。チラリと振り返れば、金色の髪をオールバックにして、ブランクと同じように黒を基調とした目立たない服装の男がしゃがみこみ、死んだ男の頬をツンツンと指先で突いていた。


「良いんですか? この人、あのヴェロッキオ・ファミリーの中堅幹部ですよ? 居なくなったって分かったら大騒ぎ間違いなしなんですが」

「別に構やしねぇさ」


 中堅どころなら代わりはいくらでもいるし、犯人探しが行われたところで痛くも痒くもない。殺してしまったことに一切の呵責をブランクは感じていなかった。

 この手の組織の人間に同情する余地はない。その事は生前に嫌というほど身に染みて理解している。ポケットの中にあるスマートフォンをブランクは強く握りしめた。


「んじゃ処理は任せたぜ?」

「僕の仕事は貴方の後始末じゃなくて、お姫様の監視なんですけど。おまけに現金まで無心してくるし……活動費だって無限じゃないんですから」


 金髪の男――トビーとブランクに名乗った彼は、不服そうに口を尖らせた。ブランクは「分かってるって」と苦笑しつつタバコを一本放り投げた。トビーはタバコをしげしげと眺めてため息を突きつつ火を点ける。


「報酬は渡してるだろ?」

「貴方の言う報酬って、このままお姫様の監視を続けていいよってだけでしょ?」

「不満なら仕事放棄してシュバルト王国に戻るかい? 俺としちゃあ生きて帰っても死体で帰ってもらってもどっちでも良いんだけどよ」


 それを言われてはトビーもそれ以上反論できず、苦笑するしかなかった。

 そもそも他国のスパイなど、見つかった時点で終わってしまったようなものだ。それも、よりによって監視対象の側近に。もっとも、精霊を側近と言って良いのかは不明なのだが。

 とはいえ、悪い話ばかりではない。


「ま、そう不貞腐れるなって。情報はこれからも随時流してやるからさ」


 ブランクに見つかった時に彼が提案してきたのは交渉だった。内容は、プライバシーが尊重されるシーンを除いてのシャーリーの監視継続許可、そしてトビーにだけ特別に王城内の状況やシャーリーの身の回りで起きる事象の情報提供が示され、代わりにトビーには色々と協力をしてもらうというものだった。

 交渉とはいえ拒否したところで良くて生きて国から排除、悪ければその場で殺されて排除される圧倒的不利な立場。したがってトビーとしては受け入れざるを得なかったのだが、他国とブランクが接触している様子はなく、むしろ逆にいろいろと情報がもたらされて自分の方が優遇されているようでもあった。


「期待してますよ。おかげさまで本国でも自分の評価が上がってるらしいんで。頼りにさせてもらいます」


 もちろんブランクの機嫌を損ねたら一瞬で慈悲もなく消されるだろう事は理解している。けれどもこれまでの短い付き合いでトビーが理解したのは、彼は少々の事では機嫌を損ねないということだ。向こうが気安い感じで接してくるように、トビーもまた旧知の仲のように接する方が好感を持たれやすいと見抜き、今では特に気にすること無く不平を口にするようになっていた。


「へいへい。ならトビーもせいぜい働いてくれよ?」

「仕方ないですね。これからもブランクさんの後始末に精を出すとしますよ」


 肩を竦めながらも楽しそうにトビーが答えるのを聞くと、ブランクは小さく喉を鳴らして笑った。それから踵を返すと、手を振りながら溶けるように暗闇の中へ消えていったのだった。





BreakUp――







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