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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
34/62

4-4.聞きてぇことがあるんで


――lookie-loo





「ふわぁ~あ……」


 地下から階段を上って外に出ると、男は大きなアクビをした。派手な色使いの服装をした彼は凝り固まった体をストレッチで解すと、ポケットから取り出したタバコをくわえて階下を眺めた。

 階段下にあるドアは固く閉じられていて音は殆ど漏れてこない。ここから見る限り暗くジメッとしたなんとも陰気な空間だ。しかし一度ドアを開ければ阿鼻叫喚、悲喜こもごもの人間模様が繰り広げられている。

 扉の向こうはヴェロッキオ・ファミリーが運営するギャンブル場だ。表向き別の組織がやっていることになっているが、ここでの儲けはすべてファミリーに流れる仕組みになっている。


「さあ、今晩もせいぜい俺らに金を恵んでくれよな」


 男は扉の向こうを見つめながらニィ、とほくそ笑んだ。

 ここに来るやつはたいていがどうしようもない人間である。絶対に負ける勝負に挑み続けて、最終的には身ぐるみを剥がされるのを分かっててやってくるのだから。

 もちろんたまに勝つ奴はいて、そいつには敬意を表してそのまま勝たせてやる。しかしほとんどの奴らからは適当に勝たせて楽しませた後で、有り金全部を巻き上げている。だが連中、そこで諦めればいいのにかなりの確率で後日にまた負けるためにやってきてくれるのだからファミリーとしては笑いが止まらないだろう。

 そしてここでは、上客やその知人ならば手持ちが無くてもその場で金を貸すサービスもやっている。雰囲気と酒に酔って大盤振る舞いしてくれるし、そのまま借金による金利で金づるができる。これもファミリーにとっては大きな資金源だ。


「こんだけ稼いでんだから、もうちっと俺らにも儲けを分けてくれりゃあいいんだがなぁ……」


 しかしながら、たとえ儲けが出たところで、男のような組織の一部門を任される中堅どころであっても落ちてくる額は微々たるものだ。稼ぎが良ければ多少は給金に色を付けてはくれるのだが、それだって少々派手に遊べばすぐになくなる程度。もっとも、さらに上に行けば今では考えられないくらい金をもらえるらしく、その事をモチベーションにして彼は成り上がりを夢見ていた。


「そういやぁ――」


 以前にやってきた派手に散財した客のことを、タバコを吸いながら男はふと思い出した。

 上客が同僚らしい男を連れてやってきたのだが、そいつはベロベロに酔った状態でその上客に言われるがままに賭けをしてた。

 次々と積み上がっていく負債を眺めながら、男も「ずいぶんあくどい事をするもんだ」と思ったが何も言わなかった。しょせんここは金を巻き上げる場であって、客がどんな事をしようと金になるなら喜んで協力するのが道理というもの。

 結局、一晩で相当な額の証書を発行してトマーゾのところに回してやった。しばらくはなんとか返済してたようだが最終的には病気で死んでしまったと聞いている。未だに娘の方から細々と返済が進んでいるようだし、この件でだいぶ利益が出たはずで、ウチにもまたボーナスでも出してくれるだろう。むしろそうであってほしい。

 そう願いながら男は吸い終えたタバコを地面に放り捨てて脚で踏み潰した。グシャグシャに潰れたタバコの姿を見下ろし、鼻を鳴らしながらギャンブル場へ戻ろうと踵を返して――

 その瞬間、男の体が物陰に引きずり込まれた。

 暗がりから突然伸びてきた腕で男の口が塞がれる。まったくの無警戒だったため、抵抗することもできなかった。

 混乱し、自分に何が起きたかうまく理解できない。

 だが。


「――よう、旦那」


 自分の頭に当てられた銃口の感触だけはしっかりと理解できた。

 暴れてはいけない。本能的にそう判断した男はもがくのを止め、静かに息を飲む。その様子を認めた銃の持ち主は小さく笑い声を漏らした。


「そうそう。借りてきたネコみたいに大人しくしてりゃ、旦那の頭はちゃんとキレイな形を保ってられる。そうでなきゃ一瞬でキレイな赤い花を咲かせる。オーケー?」


 銃を男の頭に突きつけたままブランクは、子供に言い聞かせるように告げた。男も十分理解したと無言で何度も首を縦に振る。必死なその様子にブランクは苦笑を浮かべると、少しだけ男を拘束する力を緩めた。


「んじゃ物分りの良い旦那に聞きてぇことがあるんで正直に答えてくれ。

 まず――こいつに見覚えは?」


 ブランクは一枚の紙を男の目の前に差し出した。

 そこに書かれていたのは、ターナの父親の似顔絵だ。先日、ターナにも確認してもらってかなり本人にも近い出来であることは間違いない。

 男は最初こそ首を捻ったが、すぐについさっきまで考えていた客のことだと思い至った。

 だが客のことを外に漏らすのはご法度だ。表沙汰にできない事など山ほどあるし、客の情報を漏らせばそれこそ信用を失ってこの店が取り潰されることになりかねない。そうなれば男も身の破滅だ。

 男は冷や汗を流しながらも口を噤んだ。しかしブランクは男の正面に静かに回り込み、銃を見せながらその眉間に銃口を押し当てる。そして眉間に銃口をめり込ませるように徐々に力を込め、口元を歪ませた。


「わ、分かった! 分かったから落ち着いてくれ! 思い出す、思い出すからっ!

 ええっと、そ、そう! 見覚えはある! 一度だけウチの店にやってきた! ベロベロに酔っ払って、おまけに大金を賭けまくってたからよく覚えてる!」


 男は観念した。その客は死んだと聞いている。ならば多少情報を漏らしたとしても何の支障もないはずだ、と男は祈るような気持ちで叫んだ。


「素直な人間は大好きだぜ? 手間がかからなくっていい。

 んじゃ――こいつらはどうだ?」


 終わりじゃないのか。男は絶望的な気持ちになりながら、ブランクが差し出した何枚もの似顔絵を眺めていく。

 最初の一枚は本当に知らない男だった。だから正直に首を横に振る。次の男も、次の男も見たことない男だった。首を横に振る度に銃口が押し付けられて気が気ではない。それでも信じてはもらえたようで、ブランクは何も言っては来なかった。

 しかし四枚目の似顔絵を見せられた時、男は固まった。

 コイツの情報はさすがに漏らせない。男はそう思ってゴクリと喉を鳴らす。

 似顔絵のコイツは店の上客だ。他の客もよく紹介してくれてるうえにファミリーの連中と顔見知りで、その中には幹部だっている。


「い……いや、知らねぇなぁ」


 愛想笑いを浮かべながらこれまで同様に男は否定した。こうやって尋ねてくると言うことは、目の前の黒ずくめは十分な情報を持っていないはず。きっとごまかしきれる。頭と胸の奥を駆け回る恐怖感を抑え込み、平静を装って男はブランクの反応を待った。


「――そうか。分かったよ」


 ブランクはそう言って銃口を下ろした。それを見て男は胸を撫で下ろし――次の瞬間、脚が銃弾に撃ち抜かれた。





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