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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
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4-1.私が一緒に楽しい時間を過ごしたかったの



 ターナの父親が働いてた職場でいろいろと話を聞いてから数日後。

 いつもどおりブランクとの朝の日課を終えた私は、汗を流してからドレス――ではなく、外出用の動きやすい服へと着替えた。


「今日はどこに行くんだ?」

「ターナのところよ」


 前に話をした時に今日は仕事が休みだと言ってた。彼女も自分の父親が職場ではどういう人間だったのか知りたがってたし、状況報告も兼ねて家に行ってみるつもり。


「手土産も買うの忘れないようにしなきゃ」


 彼女には気を遣わせちゃうからなるべく負担は少なくしてあげたい。お金を貯めてるからあんまり高いお菓子は買えないんだけどね。

 ブランクに事前リサーチさせてた、街で人気だっていうケーキ屋さんで三つ茶菓子を買ってからターナの家に向かう。普通の女の子の趣味が分からないからちょっと不安だけど……喜んでくれるかしら。


「えーっと、確かこの辺……あった、あった」


 彼女を助けた旧市街の中を通り抜けてしばらく歩き、建物に挟まれた細い路地を見つけて奥に入っていくとターナの家があった。力が余ってドアを壊しちゃわないように気をつけながらノックをすると、少し驚いた顔のターナが出迎えてくれた。


「こんにちは。家に居てくれてよかった」

「シャーリー……今日はどういったご用件で?」

「状況の報告と、一緒にお茶でもどうかしらって思って」言いながら手荷物のお菓子を掲げてみせた。「どう? お邪魔しても大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ」


 私の手土産を見て嬉しそうな、申し訳無さそうな表情をしながらもターナは中へ案内してくれた。ちなみにブランクにはそこらへんをブラブラしてもらってる。女の子同士の会話に混ざるのはさすがにキツいでしょうしね。


「すみません、気を遣って頂いて。お茶を準備しますので座って待っててください。あ、そっちの椅子は――」

「分かってる。補修されてる方の椅子に座るって」


 勝手は分かってるとばかりにターナにウインクしてみせると、彼女も微笑んでくれた。さて、ターナが準備してくれてる間に私はお菓子の準備をしましょうか。

 欠けの目立つテーブルに買ってきたお菓子を並べていると、そこに置かれた分厚い本が目に留まった。


「これは……ターナの本かしら?」


 そういえば、前に助けた時も図書館に行く途中だったって言ってたし、元々は読書家なのかも。そんな事を思いつつ手にとって表紙を見れば、どうやら法律系の本らしかった。勝手ながらパラパラとめくってみるとぎっしりと小難しい文章が並んでて、これ以上眺めていると頭痛が止まらなくなりそうだったので無言で閉じる。


「すみません、本を出しっぱなしにしてました」


 ティーカップを二つ持ったターナが戻ってくる。カップを置いた彼女に本を手渡しながら「これも図書館で借りてきたの?」と尋ねると、少しだけ寂しそうに首を横に振った。


「いえ、父に昔買ってもらいました。家にあった物はだいたい売ってしまいましたが、これだけは手放せなくて」

「へぇ……何か思い出の品?」

「そういうわけではないのですが……実は私、法律家の道に進みたくて」


 詳しく話を聞いていくと、どうやら彼女は元々リューベリック王国に留学する予定だったらしい。そこで先進的な法律について学んで、行く行くは弁護士、あるいは官僚になるつもりだったが、借金が発覚したことで諦めざるを得なかったとのことだった。


「本当は弁護士になる夢も諦めるつもりだったんですけど、諦めきれなくて……未練たらしいですよね?」

「ううん、そんな事ないわ」


 テーブルに置いていた、ということは私が来る直前まで読んでいたんだと思う。改めて観察してみると、表紙やページの縁はかなり黒ずんでいて、この本が相当読み込まれていることが簡単に想像できた。


(私には……できないな)


 こんな境遇になっても夢を捨てずに勉強を続けてるなんて。全部を諦めて国の犬として生きる事を選択した私には、彼女がとてもまぶしく思えて、やっぱり、なんとしても彼女を助け出したい。夢を叶えさせてあげたい。そう思った。


「美味しいお菓子、ごちそうさまでした。あの、おいくらでしょうか?」

「別に良いのよ。私が好きで買ってきたんだし」

「そうはいきません。二人で食べたのですから代金も二人で払うべきです」


 まったく、頑固なんだから。だけどもらうわけにはいかないわ。お財布を取り出したターナの手を押さえて私は首を横に振った。


「……私が貧乏だから、施してくださったのですよね?」

「その気持ちがまったく無いとは言わないわ。でもこれは私が(・・)ターナと一緒に楽しい時間を過ごしたかった、言い換えるなら、私が私のためにお金を支払って買ったお菓子よ。なのにターナがお金を払うのはおかしいと思わない?」

「ですが……」

「いいから! ターナは素直に美味しくお菓子を食べてくれればそれでいいの!」


 我ながら強引な理屈だとは思うけど、本心であることも事実だ。私が好きで首を突っ込んで、せっかくできた繋がりを絶ちたくないからこうして報告がてら勝手に遊びにきたっていうのに、お菓子代までせしめるほどケチでありたくはない。もっとも、彼女が私のことをどう思ってるのかは怖くて聞けないのだけれど。

 ともかくも私がそう強弁したらターナは鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔をしつつも、とりあえずお財布を仕舞ってくれた。良かった、理解してくれたみたい。

 ありがとうございます、と深々と頭を下げられたことについてはまだ一言言いたくなるけど、でもそこまで否定するとやり過ぎかと思って私もありがたくその御礼を受け取ることにした。



読んでみて少しでも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、画面下部の☆評価、画面上部の「ブックマークに追加」などで応援頂けると励みになります。


何卒よろしくお願いいたします。

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