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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 1 精霊師・シャーリーは斯く戦う
3/62

1-3.裏切り者の王女


「……異形化、か」


 今の一連の変化を私はそう呼んでいる。この力が何なのか、いつから使えたのか分からないけど、今のところとても助かってる。もっとも、こんなものおおっぴらに使えるはずがないから今みたいな非常事態で、誰にも見られない状況でしか使えないわけなんだけど。

 軽く息をついて顔を上げる。そこには体の上半分を失った影の巨人がいて、ゆっくりと後ろに倒れていった。地面と激突した瞬間だけ地響きがして、でもすぐに影は影らしく薄れていって、私の異形化の痕と同じく何もかもが最初っから無かったみたいに消え失せてしまった。


「さすがにもういない……わよね?」


 これまでたくさんの戦場で戦ってきた自負があるけれど、巨人種が一度に二体も現れることがそもそもレアケースだ。それでもキョロキョロと目でも確認したうえで妖精たちにも尋ねてみるが、どうやら大型種は他にいないようだった。

 ならこれでもう後ろを気にする必要はない。

 また精霊を召喚して力を宿らせると、再生した左腕で剣を握りしめる。


「まだ終わりじゃないわよ、シャーリー……」


 むしろこれからが本番。大型種に比べれば有象無象とはいえ、膨大な数の敵を片付けなければならないのだ。

 自分に言い聞かせるように言葉を口にすると、私は燃え盛る剣を握りしめて、兵士たちに襲いかかっている魔物たちの群れへと再び飛び込んでいったのだった。






 それからどれくらいの時間が経ったんだろうか。気づけば私は小高い丘の上に座り込んでいた。

 剣は足元に突き立てていて、無意識ながらどうやらそれを支えにしてなんとか倒れるのだけは避けていたらしい。

 そこで私はようやく気づく。地面だと思っていたのは無数の魔物の死体だった。すべて私が切り刻んでやった魔物のようで、丘になるほど私に群がってきてたのかと思うと、落ち着いた今となればゾッとする話だ。だけどその分、他の兵士たちには手薄になったのであればそれも良しか。

 周囲を見回せば、もう魔物の姿は一匹たりともいなかった。孔も完全に塞がってたし新たな気配も特にない。

 戦いは終わった。そう思って自分の体を確認してみるけど、まあひどい有様だった。巨人に殴られた怪我もそうだけど、戦ってる最中に負った細かな怪我が至るところにあって、顔は血だらけ、腕からもまだ少しずつ血が流れ続けていた。だけど疲れのせいなのか、それとも戦いの高揚感のためなのか、痛みは感じなかった。


「……きれいね」


 不意に差し込んできたまぶしさに目を細めると、雲が途切れて見事な夕日が木々の上から覗いていた。それは私の語彙力じゃ美しいとしか表現できないくらいに本当にきれいで、疲れてた私の心を癒やしてくれた。


「……帰ろ」


 動くには心も体も疲れきってる。だけどいつまでもこんな魔物の山の上にいるなんてゴメンだ。できれば柔らかいベッドで、そうでなくてもせめてテントの中で横になりたかった。

 存在を維持できなくて少しずつ消えていってる魔物たちを踏みつけながら降りる。小山を降りきると、転がっている死体の種類に味方だった兵士たちも混ざり始めた。


(ごめんなさい……)


 守りきれなかった人だけじゃなくて、生き残った兵士たちもたくさん傷ついてそこらに座り込んでる。その姿を見るだけで胸の奥が鷲掴みされたみたいに苦しくて悲しくて申し訳なくて、自分勝手な謝罪が口からあふれてきそうになるけど、しょせん自己満足に過ぎないから声を無理矢理に飲み込んだ。

 彼らにかける言葉など私にはない。だから可能な限り表情を消して彼らの方を見ないようにして、戦場の後方にある医療用のテントに向かった。

 だけれど。まあ……彼らには私に言いたいことは腐るほどあるようで。

 スタスタと歩いていく私を見て怯えたり露骨に顔を歪めたり、あるいは何かを吐き捨てたりと、お世辞にもポジティブとは言えない態度ばかりだ。ヒソヒソと何かをささやきあったりだとか、あとは……あんまり嬉しくない侮蔑の言葉が私の背に投げつけられ続けていく。


「どうぞ」

「ありがとう」


 救護班の子がテントに招き入れてくれて彼らの姿は見えなくなる。けれどそれでも彼らの言葉は止まらない。たぶん私には聞こえてないつもりなんだろうけど、幸か不幸か、私は人より耳が良いから聞きたくなくっても聞こえてしまう。


「お怪我を治療します」

「ありがと」

「いえ、シャーリーが頑張ってくれてることはよく知ってますから」


 戦場でよくお世話になる救護班の彼女の言葉が心に沁みる。けど、この国で彼女の様に私に優しい言葉を掛けてくれる人は珍しい。

 今だってほら、耳を塞いでも塞がなくっても聞こえてくる。


「アイツがもっと早く来てればみんな無事だったってのに」

「そもそもなんで俺らが戦わなきゃいけねぇんだよ」

「あの女に全部やらしときゃいいんだ」

「わざとらしい疲れた顔で堂々とテントで休みやがって……」

「なんで……なんであの女が生き残ってんだ!」


 そうしてみんな最後には口を揃えて吐き捨てるのだ。


 「裏切り者の、王女」と。


 それ以外、ねぎらいも労りもない。いつだってどの戦場だって私に掛けられる言葉は決まって同じような怨嗟に満ちたものだ。最初は悔しかったし涙も流したけど、今はもうその程度のことで泣くには、もう私は擦り切れすぎている。

 でも。それでも私は戦うのだ。感情を殺し、自分を無理矢理に鼓舞して戦い続けるしか無い。だって――


「それが……私ができる、ただ一つの贖罪だもんね」


 治癒魔術をかけてもらいながら、私は罪の証でもある首のチョーカーに触れた。それから亡き父の遺影が入ったロケットを握りしめて、ただじっと目を閉じているしかできなかった。






episode1――完





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