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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
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3-1.どうにも腑に落ちない



「■■■■――ッッッ!!」


 黒い魔物の雄叫びが私の耳をつんざき、鋭い鉤爪が振り下ろされる。自分が黒一色なのが不満なのか私を鮮血に染めようとしてくるけど、だからといって素直に斬り裂かれてやるほど私は自殺願望がある人間じゃない。私に限らずだろうけど。


「ふっ――!」


 横にステップを踏んで鉤爪をかわす。踏み込んだ脚に体重を乗せ、手にした長剣を振り抜く。精霊の力を借りて赤く燃える剣が魔物をあっさりと両断し、炎に包まれて消え去った。

 そのまま前に加速。襲いかかってくる魔物たちをすれ違いざまに次々と私は屠り続けた。

 やがて囲まれて足を止める。左右から迫る敵を順番に斬り伏せる。いつもだったら囲みを無理矢理にでも突破するんだけど、今はそんな必要はない。

 なぜなら。


「■■■――ギャンッ!?」

「お前の相手はこっち。ご主人サマが気持ちよく斬り裂いてんだから邪魔すんじゃないっての」


 背後から飛びかかってきてた魔物をブランクの銃撃が貫く。両手に持った銃口から次々と魔術が飛び出して、あっという間に囲んでた魔物たちを一掃してくれた。魔物たちを斬り伏せながら振り返れば、ブランクが踊るようなステップで魔物の攻撃をかわしつつ、蹴り飛ばしたり撃ち抜いたりして魔物の接近を許さない。

 いや、ホントに一緒に戦ってくれる人が一人増えるだけで全然違うわね。背中を気にしすぎなくていいって実に楽だわ。だけど、ブランク? 気持ちよく斬り裂くって、まるで私が斬り裂き魔みたいに言わないでくれる?


「違ぇの?」

「違うわ……よっ!」


 背中合わせになりながら全力で否定する。確かに魔術で気分上げてるからそう見えるかもしれないけどさ、別に戦うのが好きってわけじゃないし。


「そろそろ終わりそうね」


 しばらくの間ブランクに背中を預けながら戦い続けてると、徐々に敵の数が減ってきた。このペースならそう時間も掛からずに終わりそうだ。

 今日は孔も小さかったし、出てきた魔物も中小型ばかりだったからブランクのことを差し引いても楽だったわね。もちろん気を抜いたらあっさり死ぬんだけど。

 なにより、今日は友軍が当たりの日だった。しっかりと牽制してくれたから魔物たちも私たちの方に集中しなくて対処しやすかったし、数もそれなりに減らしてくれてる。この間と比べれば雲泥の差だ。


「同じ軍でもずいぶんと違うもんなんだな」


 スペースの問題もあるから、訓練も基本的には部隊ごとにするはずだからね。練度は部隊それぞれでピンキリなんでしょ。


「さぁて、これで――ラストぉッッ!!」


 ブランクと話しながらも、私もキッチリと仕事はこなして敵の数を減らし、最後の敵めがけて大きく跳躍した。

 大上段に構え、耐え得る限りの炎を剣にまとわせる。

 そして敵の脳天めがけて思い切り振り下ろし、着地。熊をふた回りほど大きくしたような魔物を一刀両断した。

 こいつでラストだと思うけど、一応念の為精霊に問いかけて周囲の確認をしてみる。うん、どうやら大丈夫そう。取りこぼした魔物もいないみたいね。


「よしっ、なら報告して……って、どうしたの、ブランク?」


 ブランクの方を振り返ると、どこか遠くの方を見つめてた。ひょっとして、まだ残った魔物いた?


「ん? ああ、(わり)ぃ悪ぃ。ちょっち影が見えた気がしたけど、気のせいだったみてぇだ」


 そ。ならいいけど。

 それ以上気にも留めずブランクには姿を消してもらって、報告のために部隊長のところに向かっていると、ちょうどその報告相手も私の方へとやってきていた。


「ルドルフ中佐。敵の全滅を確認致しました」

「ご苦労、リシャール特務大尉。怪我はないかね?」

「はい。中佐殿の隊が奮戦してくださいましたので」

「世辞はいい。これだけの人数がいても君一人の戦果に到底及ばないのが現実だからな。せめて後始末くらいは任せてもらおう。君はゆっくり休みたまえ」

「……よろしいのでしょうか?」


 確認すると中佐殿は鷹揚にうなずいた。この中佐とは初めて一緒になるけど、良い人みたい。部隊もしっかりしてるし、他の部隊もこの人みたいだったら良いのに。

 軍にも私のことを色眼鏡で見ない人がいることに軽く感動を覚えつつ、先に私たちは王都への帰路についた。

 さぁて。軍人としての仕事はこれでお終い。


「早いとこ、何か手がかりを見つけ出さなきゃね」


 ここ数日、ターナの借金について借用書とかを思い出しながら改めて整理してみたけど、どうにも腑に落ちない。内容におかしなところはないんだけどね。ただブランクが言ったとおりいきなりマフィアに借金するなんておかしな話だし、ターナのお父さんの人となりを聞く限りだと借金とも無縁そうな気がする。

 実に怪しい。ともあれ、今は何の証拠もないのだし、ターナをヴェロッキオ・ファミリーから解放して私もロケットを取り戻すためにもまずは情報だ。

 王城に帰り着くと手早くお風呂で汚れを落として身だしなみを整え、姿を消したブランクと一緒に部屋を足早に出る。いつもどおり魔物殲滅の報告をしに行ったけど、まだ昼間だってのに今日のネザロは嗜虐心より眠気が勝ったらしく、ベッドに横になったまま報告を聞くだけであっさり私を解放した。今日は運が良さそうね。

 その足で階下の官僚たちの仕事フロアへ向かう。ターナのお父さんがいた部署である出納係の人たちから話を聞くことになっていて、正直ダメ元で打診してみたんだけど、意外にも了解が出た。

 国中から蔑まされてる姫だけど、それでも一応はお姫様として配慮してくれたのかしらね。それか、この間アトワール少佐がネザロにあっさり首を切り落とされたのが効いてるのかも。断って私の機嫌を損ねたところでネザロなら手を叩いて喜びそうなもんだけど、官僚からしてみれば彼の逆鱗がどこにあるのか分からないのかもしれないわね。


(下手にシャーリーに騒がれてネザロの耳に入るくらいなら、最初っからおとなしく話を聞いとけってことか)

「たぶんね」


 もちろん了承してくれた人は見るからにイヤイヤ度合いがマックスだったんだけどね。

 そうこうブランクと話してる間に目的の場所にたどり着いた。周囲からビシビシと「なんでお前がここに?」的な視線を感じるけど無視無視。ここまでの数日、ろくに手がかりも得られてないし、気合い入れて集中しなきゃ。





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