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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
26/62

2-4.叩けば色々と出てくるんじゃね?



「代わりにこれを持っていきなさい。利息分くらいにはなるはずよ」


 しっかりと蓋がしまってるのを確認して、ロケットをトマーゾに手渡す。トマーゾは「へぇ……」とため息を漏らしながらマジマジとロケットと私を見比べた。


「こりゃ確かに結構な代物みたいで。本当に持ってっても宜しいので?」

「ええ。ただしあくまでカタ(・・)として渡すだけよ? 来月の支払いまで大切に保管しときなさい。蓋も開けないこと。それから――」


 これだけは言っておかなければならない。気持ちを戦闘時のそれに切り替えて、私は告げた。


「一月経たずに売ったら――消すからね。|ヴェロッキオ・ファミリー《貴方たち》ごと」


 たとえそれによって私がどうなろうとも、だ。王都にあるヴェロッキオたちの家ごと燃やし尽くしてやる。

 そう言ってやると、トマーゾたちにも私の本気度合いが伝わったらしい。顔を引きつらせながら「分かりましたよ」と言い残して、この家から出ていった。


「……良かったのか?」

「良くはないわよ。けど……今の私じゃあれくらいしかできなかったし」


 さりげなく姿を現したブランクを見上げると、少し湿った息が漏れた。手放したくなかったけど……でもお父さんも人助けなら許してくれると思う。お父さんも、誰かを助けるためなら迷わず大切な物だって投げ出してたし。


「あの……」


 解放されて安心したのか心ここにあらず状態だったターナが、我に返って声を掛けてきた。けど口ごもって、それでも言葉が見つかったのか申し訳無さそうに私を見つめた。


「ありがとうございました。それと……ごめんなさい。大切な物、でしたよね? 私なんかのために……」

「別にターナが気に病む必要はないわ。私がそうしたかったからそうしただけ」

「でも……」

「いいの」


 まだ何か言いたそうなターナをピシャリと遮る。強引だけど、そうしないとたぶんこの娘、とんでもない事言い出しそうだし。代金として私を買ってくれだとか。


「それよりも! よりにもよってヴェロッキオ・ファミリーから借金するなんて……よっぽど貸してくれるところが無かったのかしら」

「金額はさっき聞いたが、他にも借金があったりすんの?」

「いえ、お借りしてるのはヴェロッキオ・ファミリーだけです」

「そうか。他はもう返済終わってんのか。んならまだマシか」

「あ、いえ、そうではなくヴェロッキオ・ファミリーからしか借りてません」


 ターナがそう言うと、ブランクはキョトンとした。


「どうしたの?」

「あ? ああ、いや、なんでもねぇ。それならまあ一安心だな。

 さて、結構長居しちまったし、そろそろお暇すっかね、シャーリー」

「え? ええ、そうね」


 ブランクが促してくる。そうね、もうお昼も近いし、長居しすぎるのも迷惑ね。


「ごちそうさま、ターナ」

「いえ、粗末なものしか出せずすみません。それに、色々とありがとうございました」

「とんでもないわ。また遊びに来るわね」


 私が裏切りの姫というのは、さっきのやり取りでターナも気づいたはず。けれど私を見る目が大きく変わった、なんてことはなくって。そんな相手はアシュトン以来だろうか。だからこの縁は大切にしたい。

 そう思って発した言葉だったけど、ターナも同じように思ってくれたのか、少し微笑んで嬉しそうに見送ってくれた。


(ターナに会えてよかったな)


 大きな道に出て歩きながらそう思う。ロケットを借金のカタに渡してしまったせいで首元が寂しいし、それを取り戻す算段はしないといけないけど、それでも彼女をひとまず守れたのが嬉しかった。

 そんな私をよそに、大通りに出てからもブランクはずっと難しい顔をしてた。


「どうしたのよ? ロケットのこと心配してくれてるの? 大丈夫よ、お酒もタバコも我慢すれば利息分くらいは払えるから」

「いや、まあアンタのロケットもそうなんだけどな。それよりもターナの借金の仕方が気になって」

「どういうこと?」

「そうだな……シャーリー、お前がもし金借りるとしたらどこから借りる?」


 何よ、突然。でもそうね……まずは知り合いかしら。ナタリアとかアシュトンとか。関係が壊れそうだから借りたくないけど。


「普通はそうだよな。それか街の金貸しで、利率が低いところだ。そこから段々怪しい金貸しに手を出してって、マフィアから金借りるとか一番最後にたどり着くところだ」

「そっか! ターナのお父さんはそういうところに借金せずにいきなりヴェロッキオ・ファミリーからお金を借りてるんだ」


 言われてみればおかしな話だ。普通に過ごしていれば一般人がマフィアと関わることなんてまずないし、ましてターナのお父さんは官僚だった。社会的な信用には困らないし、借金ならもっとまともなところからするはずだ。


「怪しいわね……」

「ああ。こりゃ叩けば色々と出てくるんじゃねぇか?」


 であれば、やることは一つね。


「協力してくれる?」

「ご主人サマがその気なら止めねぇよ」


 なら決まり。どうせ魔物退治以外にやることなんてほとんど無いわけだし。

 ターナのことを知らなければそのままだったんだろうけど、知ってしまった以上見過ごすなんて私にはできない。

 ターナを、救い出す。そう心に決めた。

 ならば何から始めるべきか。城に帰るまでに道すがら私は思案を続けたのだった。





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