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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
25/62

2-3.働いて返してもらいましょうか






「グラヴィスさん、おっ邪魔しますよ~っと」


 調子っぱずれの節が付いた挨拶をしながら、家主であるターナの許可もなく勝手に男が入り込んできた。ずいぶんと高そうなジャケットを着た割には雰囲気に品がなくて、いわゆる「カタギ」の人間じゃないことは誰だって分かる。

 男は興味もないくせに周囲を見回すとターナ、そして私の顔を順々に覗き込んでくる。ちなみにブランクは男が入り込んできた瞬間に姿を消した。たぶん、顔を見られない方が良いという判断だろう。私もそう思うし、良い判断ね。


「おやおや、来客でしたか。そりゃ失礼しました……って、誰かと思やぁ裏切りの姫じゃあねぇですか」


 ……ちっ、私を知ってたか。でもわざわざ蔑称で呼ぶことないじゃない。

 男をにらみつけて、それから横目でターナの様子を窺ってみる。表情は固いけれど男の方ばかり見てて私のことは気になってないらしい。そのことに何故かホッとしてると、男の後ろから「裏切りの姫?」なんて声がして、もう一人別の男が顔を覗かせた。そして私と目が合った瞬間、素っ頓狂な声を上げた。


「ああっ! て、テメェはっ!」

「あら、貴方。そ、なるほど、ね」

「なんだなんだ、二人はお知り合いですかい?」

「ええ、ついさっき。彼女にコナかけてフラレて、その腹いせに私に襲いかかってきたから返り討ちにしてやった間柄ね」


 男の後ろにいたのはさっきぶっ飛ばしてやった三人組の一人だった。我ながらだいぶ話を端折ってて因果がおかしなことになってる気がするけど、まあ気にしない。


「なんだ、セビリオ。よりにもよって裏切りの姫に言い寄ったのかよ」

「い、いえ、トマーゾの兄貴、そういうわけではねぇんですけど……」

「アプローチがあんまりにも品が無いと思ってたら、ヴェロッキオ・ファミリーの一員だったのね。それなら納得だわ」

「ひでぇ言い草じゃねぇですか。俺ら他のファミリーまでひと括りにするの止めてもらえませんかね? 少なくとも俺ぁもうちっと品はあるつもりですぜ」

「なら私にその呼び方するのも止めなさい。言われても仕方ないとは理解してるけど、面と向かってそう呼ばれるのは不愉快極まりないわ」


 ジロリと睨んでやったが、正面の男――トマーゾは軽く肩を竦めただけで受け流されてしまった。


(ヴェロッキオ・ファミリー?)

「……王国で有名なマフィアよ」


 ブランクに小声で答える。アントニオ・ヴェロッキオを頂点とするマフィアで、拠点は南部の田舎町にあるとは言われてるけど単なる田舎マフィアじゃなくって、王国中にネットワークを持って国の中枢にも顔が利くとも噂されてる一大マフィアだ。

 薬物に娼館、暴力となんでもありなのは連中の常なんだけど、当然ながら金貸しも生業としてるはず。で、そのヤクザな奴がここに来たってことは――


「さて、グラヴィスさん。返済期限を過ぎてもまだお金を頂いてなかったんでね。返済をお願いしに来ましたよ、ってわけですわ」


 ――つまり、ターナの父親は連中から金を借りてたってわけね。しかし厄介なところから借りたものだわ。借入先を選べなかったのかもしれないけど、もうちょっとマシなところもあったでしょうに。今更な話だと分かってはいるが、舌打ちを禁じえない。


「……今月分の支払いであれば先日行ったはずですが」

「ええ、ええ。確かに頂きましたとも。ですがね、アレは先月の利息だけで今月分は今月分で返済頂かなならんわけですよ」


 トマーゾがそう言うとターナは下唇を噛んでうつむいてしまった。たぶん彼女も半ばそう言われるのを分かってたのかもしれない。


「……もうしばらく待って頂けないでしょうか? 必ずお支払いはしますので」

「グラヴィスさんはウチの顧客の中でもキチンと返済頂いてる方なんでね。個人的には待ってやりたいところなんですが、最近上が回収に関してうるさいんですわ」

「そこをなんとか……なんとかなりませんか?」

「なんとかならんのですわ。ま、払えないんならしかたないですな。店、紹介しますんで働いて返してもらいましょうか」


 ターナの顔色がいっそう悪くなる。働いて返すとは――まあそういうことだと思う。ヴェロッキオ・ファミリーなら合法・非合法問わずそういう店をいくつも持ってるだろうし。

 でも返せないからって、目の前で知り合いがそういう世界に堕ちていくのを見るのはゴメンだ。たとえそれが、ついさっき知り合ったばかりであっても。


「待ちなさいよ」


 私の声にトマーゾは露骨に面倒くさそうな顔をしたが、気にせず話を続ける。


「なんですかね? 失礼かもしれないですがね、姫さんにはできるだけすっこんどいてほしいんですが」

「私はお節介な性分なのよ。それで、貸した金を返せってのは当然でしょうけど、それは貸し方が真っ当な時に通る理屈よね? 借用書を見せてもらってもいいかしら?」

「へえへえ、どうぞどうぞ。ウチはいつでもニコニコ割安金利。お上に顔向けできないような違法な商売はしてませんからね」

「よく言うわ」


 トマーゾがいけしゃあしゃあと言いながら証書を手渡してきた。どう考えてもヴェロッキオ・ファミリーが真っ当な商売をしているとは思えないんだけど、とりあえず渡された証書を読んでみる。


「……どう思う?」

(ここの常識は知らねぇけど、おかしな事は書いてなさそうだな。金利はちょっちばかし高ぇけど)


 私の認識もブランクと同じだ。金利は高めだけど法で定めてる範囲内ではあるみたいだし、元本の額もターナに確認するけど間違いはなさそう。マフィアがまともな金貸しをしてる道理はないからどっかおかしなところはあるんだろうけど……

 チラと視線を向けると、トマーゾがガムをクッチャクッチャと音させて噛みながらニヤついてた。さらに視線を少しずらすと、後ろに隠れたまんまのセビリオも私に勝ち誇った顔を向けやがった。決めた。あいつは今度会ったらシメる。


「ご満足頂けまして?」

「……」

「んじゃ彼女を連れてきますよ。これからどうやって返済してもらうか決めなきゃならんのでね」


 言い返せないでいるとトマーゾがターナの腕を掴んで連れて行こうとしていた。彼女も観念したみたいに一度目を閉じて、それから写真の方を一瞥していた。


(どうする、どうする……?)


 このまま行かせればターナがどうなるか。いくつかパターンは考えられるけどどの道に進んだってロクな結果にはならないのは想像に難くない。みすみすそんなところに彼女を進ませるなんて……自分が許せない。

 彼女はすでに背負わなくてもいい苦労を背負ってる。まだ出会って間もないけど彼女は真面目で努力家で、であれば報われるべきだ。でもここで連れて行かれたら報われるための、その芽さえ摘まれてしまう。

 なにより、ターナは私が守るべき人たちの一人だ。魔物が相手じゃなくっても、私には可能な限り守ろうとする責務がある。

 でも私は無力。しょせん私は「裏切りの姫」でしかなく、借金の一部を肩代わりしてあげるだけのお金もない。私に金を貸してくれる人もいないし、どうすれば――


(……いや、一つだけあるかも)


 現金はない。けど代わりはある。とはいえ、渡したくないのだけれど……


(しかたない、か)


 胸元で揺れているロケットをギュッと握りしめる。「お父さん、ゴメン」とつぶやいて、そしてターナを連れて行こうとしていたトマーゾに待ったをかけた。





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