2-2.お父上のことが好きなのね?
「いえ、以前は南街二番街の戸建てに住んでました」
南街といえばわりかし人気の住宅地だ。そこに住んでたということはそれなりに裕福な家庭だったはずだけど。
「実は、一年ほど前に父が借金をしていることが判明しまして」
「あー……なるほど。それでか。ちなみに額は?」
「ちょっと、よしなさいよ」
「いえ、構いません」
嫌な顔せずターナが額を教えてくれたけど、それを聞いて私は思わず噴き出した。なんだ、その額は。
「……ひょっとして、すげぇ額?」
相場が分かってないブランクが耳打ちして尋ねてくる。聞いても分かんないクセに何で聞いたのよ、とついツッコんでしまったけどとんでもない額である。女性が一生かかったって到底返せる額ではない。
「大丈夫です。家もそれなりの額で売れましたから」
それを差し引いたって、一発人生逆転的なことがあればいいけど、そうじゃなかったら生涯こんな生活を続けて何とか返せるかもって額よ。
「何だってそんな借金しちゃったのよ、お父上は……」
「よくある話です」
そう前置きしてターナが話してくれた内容によれば、父親は大蔵局の役人だったらしい。国が予算を執行する際の現金を取り扱う出納係で、娘の彼女から見ても気の弱いとも言えるくらい穏やか、かつクソがつくほど真面目な性格だったようだ。なお、「クソ真面目」と表現したのはブランクなのであしからず。
家こそそれなりに立派な物を買ったけど、それ以外は質素で派手にお金を使うこともない倹約家。そうでありながらも、ターナにはキチンと学校に通わせるし本もたくさん買い与え、親子の時間も欠かさない、立派すぎるほど立派な父親だったらしい。あるいは子煩悩というべきか。
そんな父親だったからか、ターナもまた謙虚堅実に育ち、彼女自身も役人になろうと勉強をしていたとのこと。
「女の人の役人っていんの?」
「いなくはないわ。数は少ないけど」
他国に比べればヴェルシュ王国は男性優位感が強いけど、それでも女性だからって役人になれない道理はない。キチンと試験に合格すれば問題なく雇用されるはずだ。
けれど。そんな日は唐突に終わりを迎えてしまった。
ある日、借金の取り立てがやってきて家財をあっという間に差し押さえてしまったという。顔を青ざめさせた父親に聞けば、酒に酔って博打をした挙げ句に膨大な借金を作ってしまったとのこと。ターナに心配かけまいとひっそり返済をしてきたが、利息でどんどん膨らみどうにもならなくなってしまったらしい。
そこからの転落はあっという間だったとは彼女の弁だ。家財を持っていかれた直後に、実は借金返済のために国庫にも手を出していたことも発覚。当然ながら役所は即座にクビで、その賠償のために残った家財や家なんかも取り上げられてにっちもさっちも行かなくなった。
そうした中で心労が溜まってしまったのか、父親が急に倒れてそのまま病死。後にはターナ、そして膨大な借金だけが残ってしまった。
「――というわけになります。お恥ずかしいお話です」
「いやいやいや」
確かによくある話かもしれないけどさ。まるで他人事みたいに話してるけど、とんでもない話よ? そりゃ前半はいい親子話だったかもだけど、黙ってギャンブルで借金して、犯罪行為に手を染めて仕事クビになって借金を娘に押し付けて死ぬなんて。
お父さんを恨んでないの? と思わず聞きたくなったけど聞かなかった。理由は簡単。彼女が父親のことを話してる時の表情が穏やかで、誇らしげだったから。だから結末はどうあれ、きっと良い親子関係であって――
「今もお父上のことが好きなのね?」
「ええ、もちろん」
彼女は私と同じかも。彼女は私の事情を知らないから一方的に私がシンパシーを感じてるだけだけど、もしかしたら彼女とは仲良くなれるかもしれない。
なんて、そんな事を思っていると、突然家の扉が押し開けられた。
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