1-3.誰が誰をヒィヒィ言わせるって?
「おい、こら。なに勝手に話進めてんだ? ああ?」
「俺たちはこれから忙しいんだ。とっとと消えな」
忙しいって……単にナンパしてるだけでしょうが。しかも朝っぱらから。どう考えても暇人の所業でしか無い。
ていうか。
「ナンパ? アンタたちが?」
鼻で思い切り笑ってやると、どうやら連中のお気に召さなかったらしくプルプルと体を震わせ始めた。当たり前か。
「テメェ……鼻で笑いやがったな」
「モテない俺らが必死の思いで女の子と縁を作ろうと頑張ってるってのに……」
……思ってたのと怒りの方向が違うわね。なんかこっちが「ゴメン」って謝りたくなってきた。まー、それでもよ。
「鼻で笑われるようなことするから悪いんでしょうが。
だいたいよ? 女性と一緒にお茶したいんならまずその身だしなみ! 顔がイケてないんだからせめて格好くらいビシッと紳士らしくしなさい! それから嫌がってるのを力づくなんてもってのほか! 『顔はイマイチだけど遊んだら楽しいかも?』とか思わせるくらいトーク練習してこいっての! 何よりその顔! ただでさえ揃いも揃ってブサイクなのに下心丸出しで言い寄ってきてついてく女がどこにいるってのよ! アンタらみんな顔洗って出直してきなさいっ!」
言いたかったこと言ってスッキリしてたら遠くからブランクが「お前、容赦ねぇな」みたいな顔してた。仕方ないじゃない。てか、本気で嫌がってる娘を強引に連れてこうとするような連中に人権なんて必要ないわ。
「て、て、テメェ……!」
「人の純情を踏みにじりやがって……」
「踏みにじろうとしてたのはどっちよ」
てか、純情って何よ?
「許さねぇ……! このクソアマ! こうなりゃテメェの股を強引に開かせてヒィヒィ言わせてやろうじゃねぇか!!」
とりあえず狙い通り私の煽りは相当にクリティカルヒットしてくれたらしい。
ビキビキとこめかみ中に怒りマークを貼り付けると、連中はターゲットを変えて私を組み伏せようと迫ってきた――
――わけだけど。
「で、誰が誰をヒィヒィ言わせるって?」
折り重なって尻に敷かれてる三人組に、すまし顔で私は尋ねてみせた。
いずれも息は絶え絶え。顔は原型が分からないくらいボコボコにしてやったから、こうなると元の顔がイケメンだろうがなんだろうが関係なくなってる。
何がどうなってこうなったか。つまりは、だ。復活した最初に蹴り飛ばしてやった男も含めて全員秒殺で返り討ちにしてやった挙げ句、男三人をソファにくつろいでるわけである。それにしても、人間の体ってのは座り心地が良くないわね。
「た、助け……」
「もう……もう許して……」
「別にこれ以上弱いものいじめをする気はないわ。それよりも、そこの女の人に言うべき言葉があるんじゃなくって?」
「は、はい……」
「ずびばぜんでじた……」
「よろしい。ならさっさと目の前から消えなさい」
ケツを蹴り上げてやると、男三人は肩を組んでヨロヨロと壁にぶつかりつつどこかへと消えていった。あ、つまづいてゴミ山に頭から突っ込んでる。まあ、いいか。
「お疲れさん」
「か弱いレディを一人で立ち向かわせといて何か言うことは?」
「単なる街のゴロツキに俺の助けはいらんだろ。てか、そもそもか弱いレディは大男三人を秒でのしたりしねぇ」
そりゃそうか。私としてもブランクに手を借りなきゃならなかったら自分自身に幻滅してるところだわ。
「どう? どっか痛めたりしてない?」
「あ……はい、大丈夫です。ありがとうございます」
そんな話はさておいて。女性に改めて声をかけるとしっかりした返事が戻ってきた。
やや黒みの強い髪を手ぐしでサッと整えてメガネを掛け直すともうその瞳には動揺らしい色は見えなかった。小柄で細身だけど、あの三人組相手にさほどひるんだ様子もなかったし、見た目によらず胆力はあるのかもしれないわね。
「乗りかかった船だ。彼女を家まで送ったらどうだ?」
「そうね。アイツらがまたちょっかい出して来ないとも限らないし」
「ありがとうございます。ですが……」
「こっちからお節介したわけだから無理にとは言わないけど。家は遠いの?」
「いえ、遠くはありませんが……」
女の人は少し迷った様子を見せたけど、すぐにうなずいてくれた。
「でしたら、宜しくお願い致します。助けて頂いた御礼もしたいですし」
「そんな大層な話じゃないわ。暇人が通りがかっただけよ」
「いえ。できる範囲だけでも恩は必ず返せと。そう教わって育ってきましたので」
大仰なこと。恩を売るつもりもないし、たいしたことをしたつもりもないんだけど……でも、ま、何にせよ無事に家に送り届けられるんなら何だって構わないわ。私が余計なことをしたせいで明日運河で死体が流れてた、なんてニュース聞くハメになったら一生後悔しそうだしね。
そんなわけで私たちは旧市街を脱出しようとしたのだけれど。
「送り届ける前に一つ確認しときたいことがあるんだが」
「構いませんが、何でしょうか?」
ブランクが突然そんなことを言い出した。そして徐ろにポケットから「すまほ」を取り出すと、女性に一枚の写真を見せた。
「――ウチの娘なんだけど、可愛いと思わねぇ?」
「止めんかっ!」
――初対面の彼女にも親バカっぷりを見せつけ始めたブランクを張っ倒し、首根っこをひっつかんで私たちは今度こそ旧市街を出ていったのだった。
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