1-2.強引な手段なら黙っておく必要はない
「というわけで」
適当に着替えてブランクとともに街へ繰り出す。この間は東街を案内したから今日は西側へ行くことにし、適当に気分が赴くまま道を右に曲がったり左に曲がったりしながら街を紹介していく。ブランクも興味深そうにアレコレと質問してきて、気づけば会話もずいぶんと弾んでた。
こうやって誰かと会話を楽しむなんていったいいつ以来だろう、だなんて思う。アシュトンとは仲良いけどゆっくり会話を楽しむほど一緒に過ごす機会もそうないし、敢えて挙げるならナタリアかしら。けど、彼女相手だとどうしても気を遣っちゃうのよね。
ナタリア自身は凄いフランクに接してきてくれるんだけど……どうしても私の方が身構えちゃう。そう考えると、戦闘面以外でもブランクは役に立ってるのかも。精霊の活躍どころが雑談ってのもどうかとは思うけど。
とかつらつらと考えてると、ブランクが私の方を見てるのに気づいた。
「なによ?」
「いや、仮にも王女だってのに街を勝手にぶらつけるんだなーって思ってさ」
「ああ、そういうこと」
王女と言っても私の場合形だけだしね。公務に引っ張り出されることも無くはないけど、それは本当に極たまにあるだけ。王都から出なければ別に外出を制限されてるわけじゃないし、お金も……まあ、王女のお小遣いにしては涙が出るほど少ないけど、街で食べ歩いたりちょっと高めの酒やタバコを買うくらいなら困らない。ファッションとかも興味ないし。
「魔物が出た時はどうすんだ?」
「その時は――コイツに連絡が来るのよ」
そう言って私は首元のチョーカーを撫でた。私の魔力そのものを制限してるチョーカーで戦闘では外せないことにイライラすることも多いんだけど、異世界との孔が生じそうな時にはこいつが振動して知らせてくる。さすがに会話はできないんだけどね。
「ポケベルみたいなもんか」
「ぽけべる」が何なのかは分かんないけどブランクは元人間だって言うし、彼の生きてた場所にも似たようなのがあったのかもしれないわね。
そんな会話をしながら歩いてて、ふと気づけば入り組んだ路地に入りこんでた。
「ここは?」
「旧市街ね」
建国初期に作られた街で、そのせいか古くて木造の建物が多いし、計画性もあったもんじゃないから道はめちゃくちゃに入り組んでてちょっとした迷路になってる。王都に住んでても初めてここに来たら、迷子になること受け合いだ。
「出ましょうか。ここは特にめぼしいものもないし」
ひょっとしたら隠れ家的な名店があるのかもしれないしあったら面白そうだけど、あるかわからないものをわざわざ歩き回って探すほど興味もない。
次はどっちに行こうかしら、と旧市街に背を向けた時だ。
「きゃっ!」
路地の奥の方から、微かにそんな悲鳴が聞こえた。ブランクを見上げれば彼も私の方を見てうなずいた。どうやら私の聞き間違いじゃないらしい。
誰かが助けを必要としていて、守り助けるのは私の存在意義でもある。たとえそれが魔物からじゃなかろうと。ならためらう理由はない。
ブランクにうなずき返し、私たちは旧市街の奥へと急ぎ走っていったのだった。
旧市街はさっきも言ったとおり無計画な構造になってて、日当たりだとかその辺りを一切合切無視してるせいで年中ジメッとして石畳は苔むしてる。その上を強く踏みしめ、私たちは奥へと奥へと向かった。
声の様子からして距離は遠くないはず。実際、角を二つほど曲がったところで私たちは声の主を見つけることができた――んだけど。
「すみません、離れてくれませんか?」
「まぁそう言うなって」
「そーそー。ちょっとお茶しようぜって誘ってるだけじゃん」
「お姉さん美人だし、一緒に楽しもうぜ。な?」
私の視線の先ではいかつい顔プラス頭の悪そうな、いかにももてなさそうな三人組がこぞってメガネを掛けた小柄な女性に言い寄ってる姿があった。なんだ。ただのナンパか。
「どうすんだ?」
「そうねぇ……」
悲鳴が聞こえたから急ぎ駆けつけたわけだけど、どうやら事件とかじゃなさそうだし。単なるナンパで終わったり、相手もイヤイヤ言いながらもまんざらじゃなさそうってんなら間違いなく見なかったフリしてさようならってとこなんだけど――
「イヤイヤ言ったって昼間っからぶらついてるあたり、どうせお姉さんだって暇なんだろ? ならとっとと……な?」
「っ……!? 離してくださいっ!」
下品な顔した男が女性の手を掴んだのが見えた。
強引な手段に出ようってんなら黙っておく必要はない。女の人の表情からも嫌悪感が伝わってきてるし。
てなわけで。
息を一度軽く吐き出すと、連中目指して走り出す。イイ感じに加速し、最高速になったところで私は地面を蹴った。
体の軸を地面に水平にして足を抱え込む。キレイな放物線を描いて宙を舞い、体の高さが最高点に達したところで――男の顔面めがけて思い切り脚を伸ばしてやった。
「ふんっ!!」
「ふげぶふぅっっ!?」
ブーツの底に感じる男のひしゃげた顔。真横になった視界で見下ろせば、ポカンと呆気に取られた女性の顔も見えた。そりゃそうだ。
「――ナイスドロップキック」
ブランクのそんな声を聞きながら着地。すっ飛んでいった男がゴミ箱に突っ込んで「ガッシャーンッ!」なんて音が響くが気にする必要も理由もない。
「大丈夫?」
「え? え、ええ、はい、私は大丈夫ですが……」
「そ。なら良かった。ひょっとして、お邪魔だったかしら?」
そう尋ねると女性はプルプルと細かく首を横に振った。どうやらとんでもないお節介だったわけじゃなくて安心した。無いとは思ったけど強引さを求める人もいないではないらしいし。
「なら行きましょ。こんなとこ、女の人が一人で来る場所じゃない――」
「――ちょぉぉぉぉっと待てやぁぁぁ!」
女性の手を引いて立ち去ろうとしたら残った二人組に肩を掴まれた。
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