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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 3 彼女は顔を上げ前を向く
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1-1.さっさと起きろっての




 不意にまぶしさが私の意識に差し込んできた。こちらとしてはまだまだ惰眠を貪りたいと思ってるんだけど、そんな私の意思など知ったこっちゃないとばかりに光は強くなってくる。

 すでに半開きだったまぶたを気だるく開ければ光は一気に意識の奥底にまでぶっ刺さってきてくれやがって、それからややあって視界に白いカーテンが見えた。


「あー……朝かぁ……」


 どうやら今日は快晴らしく、カーテン越しに差し込んでくる日光は「爽やかだろう?」と言わんばかりの強さ。もうすでにお天道様は熱心に職務を果たしてるようである。やる気があって結構。まだ六時前だけど。

 さぁてさて。起こされてしまったのなら仕方ない。昨夜も飲んだお酒のせいでとんでもなく掠れた声が出たけど気にしない。ベッドの上で一度大きく伸びをして軽くストレッチをしてから、身だしなみを整える。それからいつもどおり寝る前に準備してもらったパンをかじってミルクを飲み干した後、ガチャガチャと酒盛りの跡を適当に片付けて自分で紅茶を準備する。

 窓を開けると初夏らしい涼やかな風が吹き込んできて私の髪を優しく揺らした。同時に紅茶の芳しい香りが鼻を軽やかにくすぐる。うん、実に素晴らしい朝だ。

 だっていうのに――


「……んごっ! ぐぅ、ぐぅ……」


 それを台無しにするいびき。その発生源を見ても誰も居やしないんだけど、一週間も聞き続けてれば誰の仕業か確認するまでもない。

 こちらから無理やり魔力を送り込めば、椅子の上でいびきをかくサングラスを掛けた全身黒ずくめのおっさんの姿が現れた。

 私が召喚した精霊であるブランクである。テーブルに脚を乗せ口からよだれを垂らしてて、なんともだらしない。これで精霊だっていうのだから呆れた話だ。爽やかな朝が台無しである。


「さっさと起きろっての」


 腹いせに椅子の脚を蹴飛ばしてやるとキレイに「スコーン!」と真後ろに倒れ、頭を打ったブランクが「んごぁっ!?」と奇怪な叫び声を上げた。


「目が覚めたかしら、ネボスケの精霊サマ?」

「いっつぅ……お前なぁ、俺が精霊じゃなかったら今頃病院送りだぞ?」

「精霊だからやってるに決まってるじゃない」


 人間相手にこんなこと平気でやるほど私はサイコパスじゃない。ネザロなら笑ってやりそうだけど。てか、精霊のくせになんで居眠りしてんのよ?


「そりゃアンタが寝たらやることもないし暇だからな。酒飲んで気持ちよくなったら寝るだろ」

「このダメ精霊が」


 まったく……最初に助けてもらった時は会話もできるし凄い精霊かと思ったけど、とんでもない不良精霊である。

 でも、そんなコイツでも役には立つ。


「ほら、行くわよ」

「行くわよって――ああ、いつもの日課か」


 そ。今なら誰にも邪魔されずに思いっきり動けるしね。

 未だ寝ぼけ眼でアクビをしながら頭をかいてるブランクのお尻を蹴飛ばすと、私たちは鍛錬場へ向かったのだった。





「――シッ!」


 渾身の力を込めて訓練用の長剣を突き出す。我ながら鋭い踏み込み。だけどブランクはアクビでもしそうな気の抜けた顔のまま、あっさりと私の刺突をかわした。

 続けて斬撃。剣の重量を利用した自信のあった横薙ぎの一撃も、たった一歩後ろに退がるだけで切っ先は空を切った。悔しいけど、間合いを完全に読まれてる。


(ならっ!)


 威力を捨てて手数で攻める。長剣を捨てて腰の短剣を引き抜き、とにかく攻める。刺突、斬撃に加えてパンチやキックといった体術も織り交ぜてひたすらに攻撃。だけど、どの攻撃も後少しのところで届かなかった。

 一向に当たる気配のない状況に少しずつ焦れてくる。と、それが動きに表れてしまったのか、回し蹴りをかわされて無防備になった足元をブランクに払われた。


「しまっ……!」

「ほい、おしまいっとぉ」


 尻もちをついて頭に拳銃が押し当てられる。そしてブランクの口から「ぱぁん」とからかうような音が奏でられ、訓練終了の合図となった。


「はぁ、今日も負けか」


 普段はだらしないコイツだけど、戦いに関しては別だ。これまではひたすら一人で体を動かすことしかできなかったから訓練相手になってくれるだけで嬉しいのに、実力は私を凌駕。私の良い先生になってくれてるという、非常にありがたい状態である。


「攻め急ぐってのはシャーリーの悪い癖だな。攻撃が中々当たらない奴を相手にするんだったら、逆にどうやったら当てられるかって逆算して攻撃を組み立ててくんだ。今まで魔物相手にしか戦ってたなかったからしかたねぇけど」

「……難しいわね。今までとにかく考えるより先に動くしかなかったから」

「あの数の魔物相手ならそれで良いと思うぜ。下手に考えると逆に動きも鈍るからな。てか、別に精霊召喚して戦っても良いんだぜ?」

「地力を上げたいのよ」


 精霊の力を借りるのも精霊師たる私の力だと分かってるけど、やっぱり私自身の力も底上げしておきたい。そうすることで精霊を憑依させた時も強くなるはずだし。


「そろそろ行きましょ。もうすぐ兵士たちが来るわ」


 ただでさえ訓練を前に憂鬱な彼らが私の姿を目にすればもっと陰鬱な気分になるだろう。そうさせるのは不本意だし、私も彼らも朝っぱらから不機嫌になるのは御免被りたいところ。鉢合わせる前にとっとと撤退しましょう。

 ブランクには姿を消してもらって私も部屋に戻る。シャワーを浴びて汗を流しながら今日はどう過ごそうかと思案して、街に出ることに決めた。ブランクもまた街を案内してほしいって言ってたし。


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何卒よろしくお願いいたします。

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