3-7.まるで昔のお父さんみたいで
「そっか……嫌な思い出も話させて悪かったな」
「……別に。貴方の言うとおり、私も話ができてスッキリしたし」
「そりゃ良かった。そろそろ寝るか? かなり眠そうだぜ」
うん、正直かなり眠いし、ここから動きたくない。テーブルに突っ伏すとそのひんやり感が火照った頬に気持ちよくて、ああ、気持ちよく寝れてしまいそう。
すぐにうとうとし始めて、そこに大きな手が伸びて私の髪を梳くようにしながら撫でていく。ダメだ、もう動けない。
「そうだ。最後に聞きたいことがあんだけど、いいか?」
「なによ……」
「もし、自由になれたら何をしてみたいとかあるか?」
「そんなの……考えたこともないわ」
だけどもし。もしもそんなことが許されるなら――
「いろんな国や街を……見てみたいかも……」
「そう、か……分かった。おやすみ、シャーリー。いい夢見ろよ」
ブランクの声が響いて、それがまるで昔のお父さんみたいで。
ああ、クソ。お父さんとブランクは違うって分かってるのに、本当に今晩はいい夢を見られそうで。
いつしか私は、目元を濡らしながら深い眠りに入っていったのだった。
――lookie-loo
「――寝たか……」
ブランクは眠りに落ちたシャーリーを抱えるとそのままベッドへと寝かせてシーツを掛けてやった。起きている時と違ってあどけなさも残るその寝顔。目元に光る涙を指先でそっと拭うと、彼は優しく頭を撫でた。
「この軽い体に、どんだけ重荷を背負ってるのやら」
首に巻かれた黒いチョーカーに触れると、ビリっとしびれるような感覚があった。第三者が外せないような仕掛けが施されてるのだろう。
父親の罪と、置かれた境遇。これまでよく壊れずに生きてきたものだと感心するしかない。
「強いっちゃ強いんだろうが……」
その彼女の強さが果たして良いことなのか、ブランクには判断がつかないしつけるべきではないだろう。しょせん自分は彼女に呼ばれただけの存在であるし、彼女が道を選んだのなら、ブランクとしては支えるだけだ。彼女の幸せを自分の尺度で決めつけるなど、傲慢なことはしたくない。
「とはいえ、だ。なぁんか――怪しいんだよなぁ」
旅から帰ってきた後の、悩んでたようなシャーリーの父の様子。そして英雄と評されてた父親の評価の急変。父親とシャーリーの主張はほとんど認められず一方的に処刑されたような話だったし、その罪を娘であるシャーリーに背負わせてるのも妙な話だ。
「それがこの世界の常識だってんならしょうがねぇけどよ……」
それでも一方的に処刑されたことを、そして今のような境遇におかれてなおシャーリーがそれらを当たり前のものとして受け入れてるのも違和感があった。到底普通とは言えない環境に陥る原因となった父親、それか主張を無視して処刑した国王、処刑を望んだ国民。それらのどれかくらいは恨んでても無理はないはずなのに、そんな様子も見られなかった。
加えて。
「なんかノイズがかかってるような感覚があるんだよな」
シャーリーとブランクは魔術的な回路で繋がっている。その供給にノイズが入り混じってるような感覚が召喚されてからずっと抜けない。こんなことは初めてだった。
「召喚の時に何かイレギュラーがあったのか、それとも繋がりを阻害するようなものがあんのか……何にせよ、ちょっちばかし調べてみるかね」
養子であっても、シャーリーは王女で王城に住んでいる。調査材料には事欠か無さそうだな。そう独りごちると彼はシャーリーの髪をもう一度優しく撫でて姿を消した。
穏やかなシャーリーの寝息だけが一定のリズムを刻み続けたのだった。
BreakUp――
episode2――完
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