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最強王女が裏切り姫と呼ばれてる件  作者: しんとうさとる
Episode 2 精霊らしくない精霊
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2-4.ご主人サマはお人好しなことで





 さてさて。

 酒飲んでタバコ吸ってスッキリしてぐっすり眠った私は、夜が明ける前に移動を開始した。

 隣町に向かって少し進んだところで道から離れて山登り。そして今いるのは崖の上だ。朝ぼらけの中を太陽が登っていってて、そのまばゆさに目を細めつつ息を大きく吸い込むと朝特有のひんやりとして澄んだ空気が体を巡って、何とも心地良い。

 もっとも――眼下で行われてるのは朝のさわやかさとは無縁なんだけど。


「なるほどねぇ。昨夜シャーリーが言ってたのはこういうことか」


 隣のブランクが顎を撫でて私と同じように崖から見下ろした。

 崖下じゃ朝っぱらから大騒ぎだ。なにせ私を見捨ててくださりやがった連中が絶賛魔物に襲われてる最中なのである。せっかくの静寂をさっきから魔物の雄叫びやら軍側の銃声や大砲が突き破りまくって、魔術が昨日の私たちみたいに森を荒野にしてってる。

 ここから様子を窺う限り魔物の数は少ないし小型がほとんど。妖精たちの騒ぎっぷりから考えて孔はちっさいものだと分かってはいたからまあそこは予想通り。


「なんだけど――」


 軍の方は予想外。なんというか、しっちゃかめっちゃかな状況のようで、ロクに統率も取れてなければ反撃もできてなくて防戦一方。完全なパニック状態だ。


「いい気味っていえばいい気味なんだけどさ」


 たぶん寝静まってる間に襲撃されたんだろうけど、もうちょっと頑張ってほしいものだ。いくらなんでも練度低すぎでしょ。妖精たちの声を聞ける人もいないから私を見捨てた時点でこうなることも十分予測できた話だろうし、手は打ってて欲しかったけど。


「ま、あのハゲ指揮官じゃ無理か」


 昨日の戦いでも喚いてるだけでまともな指示もできてなかったし、こうなるとむしろあのハゲ貴族を謀殺するために上は指揮官に据えたんじゃないかって思えてくる。


「どうする? 俺としちゃあここで連中が魔物に喰い殺されるのを高みの見物してたっていいんだが」

「さすがにそれは、ね?」


 ハゲで太っちょな指揮官だけが喰い殺されるんならまだしも、真っ先に死ぬのはそうじゃない兵士たちだし。そいつらも結局逃げたわけで、日頃から私のことを好き勝手言ってくれてるから思うところが無いわけじゃない。けど、いくら何でも見捨てて死なせてしまうのは後味が悪すぎる。


「やれやれ。今回のご主人サマはずいぶんとお人好しなことで」

「あら、嫌ならここで待っててもいいのよ?」

「冗談言ってくれんなよ」


 私が剣を抜くと、隣のブランクもどこからともなく現れた拳銃を両手に握った。


「こう見えて俺はお人好しが嫌いじゃないんでね。せいぜい役に立ってやるさ」

「お人好しが好みなんて悪趣味ね。身を滅ぼす前に宗旨変えした方が良いわよ?」

「辛辣なこと。ま、性分なんでね。今更変わらねぇよ」


 ならしょうがない。今回も目一杯こき使わせてもらうとしようかしらね。


「さ、軽口はこれくらいにして――」


 行きましょうか。軽く息を吸い、精霊を召喚。今回はすでに乱戦になってるし、イフリルみたいな力をぶっ放すわけにはいかないから、肉体的に強い加護のある精霊の力だけを宿す。

 そしてブランクの腰を掴み、トン、と軽く地面を蹴った。

 ふわりと体が浮かんで世界から自由になる。と思いきや、崖下に向かって一気に落下していく。むき出しの岩肌とまばらに茂る木々がまたたく間に通り過ぎていって、けれど途中で急減速。精霊の力で落下速度をコントロールすると、腕の中でブランクが叫んだ。


「三時の方角へ俺をぶん投げろ! 南の方から仕留める!」

「了、解っ!」


 体をひねって、指示された方向めがけてブランクを思い切り投げる。生身じゃ無理だけど精霊の力を借りた今なら成人男性くらい余裕で、あっという間にブランクが小さくなっていった。

 反動で体勢が崩れたけどすぐに修正。頭を下にしたまま、兵士に喰らいつこうとしてた魔物たちめがけて私も突っ込んでいった。


「はあああぁぁぁぁぁっっっっ!」


 剣に風の刃をまとわせて着地と同時に振り抜く。切れ味を増した一撃が三匹まとめて真っ二つにしたのを確認。兵士の方は……どうやら怪我はしてるけど大丈夫そうね。


「な、なんっ……!?」


 状況が理解できず困惑した兵士を他所に、私は地上を走り出した。新たに現れた私を驚異とみなしたのか、近くにいた魔物が一斉に私に向かってくる。よーしよし、いい子たちだ。これで――


「周りの被害も抑えられるってな……もんよっ!」


 飛びかかってきた一匹を魔術で貫く。後ろからやってきたのを鞘で叩き潰し、手頃な場所にいたヤツを蹴り飛ばす。


「おおぉぉぉぉらああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」


 そして後は斬る。斬る、斬る、斬る、斬る。近寄ってくる奴をただ感情の赴くままに斬り飛ばし、蹴り飛ばし、吹き飛ばす。段々と私に近寄ってこない魔物が増えてきたけどそんなのはお構いなし。寄ってきてくれないなら私の方から近づいていけばいい。


「ふっ!」


 敵は殲滅するのみ。攻撃をかわしてお返しに敵を串刺しにしてやる。そいつを遠心力で剣から振り払うと次なる獲物を求めて付近の気配を探す。が、怪我や疲労で尻もちついてる兵士ばかりだった。

 と思ったら後ろで何か動く気配がした。体が反射的に動いて剣を振り抜く――


「っと、危ねぇ危ねぇ。ご主人サマは俺まで斬り殺すつもりかい?」


 ――前に腕をつかまれて、顔を上げると苦笑いしてるブランクがいた。






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