第七話
那珂川ダンジョンは洞窟タイプで、一層に出てくるタイプはゴブリンのみだ、これは事前に調べていたので間違いない。
決して明るいとはいえない道をマシロを先頭に歩く。コイツは仮にも猫だからな音などに敏感なのだ。本人が言うには斥候に向いているらしい。
急にマシロが立ち止まる。
「ゴブリンが2体こちらへ向かってくるよ」
そう言われて戦闘態勢をとる。事前の打ち合わせで、まずはレベルが1番高いマシロがゴブリンを翻弄している間に俺たちが隙を見て攻撃する手筈になっている。
ゴブリン達が会話でもしているのだろうか?汚い声を出しながら歩いてきて、こちらに気付いた途端金縛りにでもあったかのように静止した。
それをチャンスと見たマシロがゴブリン達に向かって駆ける。ゴブリン達は反応ができないままマシロから猫キックを喰らい吹っ飛んでいく。
俺たちもすぐに距離を詰めようと走り始める。寵愛スキルのせいだろうか?今までに出したことのない速度でゴブリンへと接近できる。そのまま俺は向かって左の倒れているゴブリンの頭を思いっきり蹴り抜いた。なんの抵抗もなく蹴ることができ、ゴブリンの頭は胴体から千切れて飛んでいった。
ポカーンとその様子を見ていると
「いやぁ。やっぱりボクの寵愛は凄いね。ゴブリンの頭が千切れてるよ」
マシロがご機嫌な様子で近寄ってきた。
「凄すぎるだろ!?完全にオーバーキルだぞ!?」
「うんうん。これはゴブリンは相手にならないね」
そう言う事を言っているわけではないのだがな。
春の方はどうなったかと見てみると
春が倒れたゴブリンの正面に馬乗りして、講習と同じように脳天直撃セガ○ターンをしていた。
うわぁ・・・。相変わらずエグいな・・。そう思ってマシロの方を向くと
「やれやれー!」
応援していた。
おい!俺だけか?この場で俺だけがまともなのか!?それとも俺がおかしいのか!?
俺は目の前の光景を唖然として見るしかなかった。
そうこうしているうちにゴブリンが光の粒となり消えていく。マシロは春に近づいていって彼女を称賛していた。
「凄いよ!ハル凄い!魔物に怯えることなく倒せるとか凄いよ!」
いや、倒したのは凄いよ?でもツッコミどころ満載だったよね?
「えへへへ。マシロちゃんありがとうございます」
素直に称賛を受け取り、照れている春。
「あ、デンスケも凄かったよ?まぁボクの寵愛のお陰だけどね」
ふふんと胸を張りながらドヤ顔をする猫なんて見たくないわ。しかしそれを目を輝かせながら春は見ている。
「マシロちゃんの加護そんなに凄いんですね!私も早く取りたいです」
「うんうん。頑張っていっぱい倒そうね」
「はい!いっぱい殺ります!」
今絶対ヤルの字が殺るだったろ?何かもう慣れてきたわ。
「ところでスキルポイントは4貰えたけど?」
「うん。ゴブリンは1だからね。2匹いたから合わせて2になって、デンスケは寵愛の効果で倍の4だね」
「いいなぁ。私も寵愛欲しいです」
いかがわしい言葉に聞こえるけどな!これ他の探索者はマシロが猫にしか見えないから俺に言ってると勘違いされるぞ。周りにいないからいいけど。
「にゃ〜。それはボクには決めれないよ〜。ごめんね?」
「うぅ。仕方ないですね・・。私は2しか貰えませんでしたが・・」
「ボクも2だよ?」
「そうなのですか?」
「うん。自分に寵愛の効果は出ないからねー」
「マシロちゃんとお揃いだから我慢します」
「うんうん。ハルは偉いね」
そう言いながら春に抱き上げられたマシロは手(前足)をペシペシと春の頭を撫でるようにしている。
しかし、やっぱりパーティを組んだ方がいいな。スキルポイントは1以下の場合は等分されても1で固定されるらしいし、最初は絶対にパーティ組まないと効率差が歴然としている。経験値も同じ仕様らしいけど、いかんせん経験値の取得メッセージがないからわからんな。
「次に行きましょう!早くマシロちゃんの加護が欲しいです!」
「そうだそうだー。デンスケ置いていくよ?」
「ちょっと待ってくれ。今行くから」
ヤル気満々の2人に置いていかれないように隣へ並ぶ。
「しゅっぱーつ」
再びマシロを先頭に歩き始めるが、ゴブリンは余裕だろうと足取りが軽い。しばらく進むとマシロが急に走り始めた。
「おい!」
「3体いるよー!」
「言ってから走れ!」
寵愛のお陰でマシロに追いつけるほど早く走れるようになったが、春は大丈夫だろうか?
俺が振り向こうとすると横を物凄いスピードで春が追い抜いていった。
おいおい。加護なくても絶対大丈夫だろ。見た目と能力の差が激しいわ!
そのままゴブリンへと接敵する。こちらに気付いたゴブリンはギョッとした顔で固まっていた。これも春の称号のせいだと思いたいが、薄らと笑い、ハイライトの消えた目をしながら突っ込んでくる春を見てビビってるだけかもしれない。
春はそのままマシロを追い抜き、ゴブリンの首へと短剣を滑らす。それと同時に1体のゴブリンから頭がなくなった。
春に追いついたマシロがニャンコドロップキックをかまし、もう1体のゴブリンを吹っ飛ばす。それを見た春が転んだゴブリンに跳躍し、短剣を突き刺した。声を出すことも叶わずにゴブリンが絶命する。後は一緒の光景だ。馬乗りになった春がこれでもかと脳天直撃させている。
最後の1体はやられている仲間の光景を見てビビっているようだ。好機と見た俺はそのままゴブリンの頭へ拳をぶつけた。
グシャッという音と共にゴブリンの頭を腕が貫通する。
マジかよ・・。
あまりにも強化されている攻撃のせいで貫いてしまった腕から伝わる気持ち悪い感触に顔を顰める。
直ぐにヤクザキックでゴブリンを蹴りながら腕を引き抜いた。
「おー。デンスケもやるねー」
場にそぐわない声を出すマシロに目をやりながら腕を振る。
「威力が高すぎるわ!腕に直接感触が来るとかどんな拷問だよ!」
「じゃあ手甲を装備するしかないね」
「くそ!もっと準備してくればよかった!」
そんな会話の最中も春は薄らと笑いながら凶行に走っている。
いや、わかるよ!?両親の仇と思えばそうなるかもしれないけどさ!でも彼らが両親の仇かどうかはわからないでしょ!可哀想過ぎるからやめたげて!もうやだこの子!
「なぁ春・・?もうよかろう?」
「へ?あぁ消えちゃいましたね。仕方ないから次で我慢します」
俺は次のゴブリンに黙祷を捧げるのであった。
ーーーーーーー
春の目も元に戻り、とりあえず何かスキルが取れないかそれぞれ探してみる。そんな俺たちを尻目にマシロは毛繕いをしていた。
「なぁ?お前はスキル見なくていいのか?」
「うん。ボクは神社に戻ってからでいいかな。何か設置したりするにしてもその場で見たいしね」
「あ!それ私も見たいです!」
「いいよー」
「まぁ待て。春はそんな事したら帰りが遅くなるけどいいのか?」
「はい!一人暮らしなので問題ないです!」
「なら大丈夫か」
ほら。一応確認しないとさ。
自分に言い訳をしながらスキルボードに目を落とす。
「マシロ。どういうスキルがいいとかあるか?」
「んー。とりあえず戦える系とかいいと思うよ。補助魔法はまだいらないんじゃないかな?」
「なるほど。魔法はどうだ?」
「魔法は最初のうちはたくさん撃つのが難しいからね。慣れればそれなりの回数撃てるようになるけどさ。その代わり威力は高いよ」
その辺は授業や講習で聞いた内容と変わらないな。
「回数を増やすやり方はあるのか?」
「んー。いっぱい撃つ事と、後は魔力の腕輪の装備かなぁ」
撃てば撃つほど段々回数が増えるのも一緒だが、魔力の腕輪とな?
「何だそれ?」
「魔力の腕輪のこと?」
「そうだ」
「私も聞いた事ないですね」
「そうなの?昔はよく使われてたけどなー。とにかく目に見えない魔力を増幅して魔法を撃てる回数を2倍にするんだ〜」
「それヤバいな。もし見つかったとしても、多分みんな自分で使うだろうな」
「ですねー。だから見たことがないのかもですね」
今の話を聞く限りじゃ、まだまだ発見されてないアーティファクトがありそうだな。一攫千金の夢が広がるぜ。
「ところでスキルは決めたの?」
「俺は今のところ拳術を取るつもりだな。いきなり剣とか槍を使うってなっても違和感ありそうだし、ポイントが高いから向いてないのかとも思うしな」
「私はマシロちゃんの加護と殺意の波動が候補ですね」
「どっちもいいねー」
いや待て!普通に流してたけど恐ろしいスキルの名前が飛び出たぞ!
「でもマシロちゃんの加護が欲しいので先に加護をとります」
「うんうん。殺意の波動は現段階ではそんなに使うことないと思うからいいと思うよ」
「なぁ・・・。殺意の波動ってスキルはなんだ?」
「私もいまいちわかってないんですよね。でも強そうなので」
「ボクが教えてあげる。あのスキルはねボクの加護と一緒でレベルがないんだよね。殺意の波動系の持ち主しか取れないしね。効果は殺意を任意にぶつけれるようになるのと、殺意の波動に目覚めている最中の身体能力強化、高速移動、他の持っているアクティブスキルの狂化だね。狂化した場合そのスキルの威力が上がるよ」
「強すぎだろ」
「その代わり多用し過ぎると戻って来れなくなるから、その辺は要注意だね」
どこからだよ。
もう俺思ったんだけどさ、俺が寵愛スキルあってスゲーとかなってたけど、春とかもっとヤバいだろ。俺が普通に思えてくるわ。
「でも拳術を取っても蹴術ってのもあるからさ。どっちも取るってなるとスロットが2つ潰れるからどうなのかなとは思うんだよ」
「その二つは両方レベルを最大まであげたら格闘術ってスキルに合成されるよ」
「合成とかあるのか?」
「うん。格闘術含めて全武術系スキルを最大にしたら武帝スキルになったりとか、魔法を4属性最大で賢者スキルとか色々だね。ボクも全部を網羅してる訳ではないから、知らないのもあるけど」
「それは初めて知ったな」
「協会のデータベースにも載ってないのではないですか?」
「まだ知られてないんじゃないか?というか
スキルスロット足りないだろ」
「そうかもね。でもその内明るみに出たと思うよ。スキルスロットも史上最も多いのが15だったかな?」
「マジかよ。確か今わかっている人類の最大数でも7だったぞ?」
「それはまだ育ちきれてないからじゃないかな?それに史上最も多かった人もまだレベル上げれそうだったらしいし、実際の上限がいくつかはわからないんだよね」
しかしスキルスロット数が15か・・・。現在に存在してたら神の領域だっただろうな。そういう奴らが存在したからこそ昔の英雄が神格化されたのかもしれないが。
「そういえば聞きたかったんだけど猫福神社はダンジョン時代はそれなりに発展してたんだろ?何で今はあんな感じなんだ?」
「えっとねダンジョンが消えた時に、超古代文明が滅び始めるんだけど、ボクの神社も危うく滅びるところだったんだ。そこで神社をリセットしてしばらく身を隠してたんだよ。それでどうにか生き残ってね。猫福神社の場合は復活した時に周りが信仰してくれる人が少なかったからボロのままだったんだけど、伊勢とかは信仰する人間が多くて修復とかしてくれたから、今でも立派なんだよね。」
まぁその辺は立地とか色々あるんだろうな。正直昔の事すぎてよくわからんけど。
「でも康隆が色々と出来る限りの手を打ってくれて、土地も取り戻せたし、機能が最大まで強化されても大丈夫にはなったからね。今から楽しみだよ!」
「良かったですねマシロちゃん」
春がマシロの顎をヨシヨシしている。されているマシロは幸せそうだ。
しかし、新しい情報が沢山あったな。スキルの事も気になるけど、神社の機能も気になるし、これから楽しみだな