第六話
美味しい料理を喫茶店で食べた後、近場のダンジョンへと向かう。ここから1番近いのは那珂川の山手にある那珂川ダンジョンだ。
しばらくダンジョンへとバイクを走らせると、那珂川ダンジョンが見えてきた。バイクを止めてちっぱいの感触は名残り惜しいが、降りることにする。
「よし。それじゃ行くか」
「はい!」
意気揚々とダンジョン入り口へ向かう。守衛が立っているのでその横にある機械へとエクスプローラーカードをかざすと、ピッという音と共にゲートが開いた。
守衛はコイツら大丈夫か?みたいな顔で俺たちを見送っている。
まぁそれはそうだろう。なんせ俺達は今日なったばかりだから装備品なんて持っていない。今日は講習を受ける予定ではあったからそのまま動きやすい服装をしたままであるが、初心者は丸出しだろう。
俺たちの後ろにちゃんとした装備品を纏った女性パーティがいるが、ああいう風な格好じゃないと普通は無理なはずだからな。
今更ながらいきなりは不味かったかと春の方を向いて声をかける。
「なぁ。装備ないからいきなりは不味かったんじゃないか?」
「え?んー。でもここの一層目はゴブリンだから大丈夫と思いますよ?」
たしかに彼女のゴブリンスレイヤーっぷりはヤバかったからな。レベルも上がってるし大丈夫か?
そんな事を思っていると後から入ってきた先程の女性パーティから声をかけられた。
「君たち初心者でしょ?装備もないのに大丈夫?」
純粋な心配から声をかけてくれたのがわかったので、丁寧に対応をすることにした。
「はい。今日は一層の様子を見るだけにしますので、大丈夫だと思います」
「そう?危なくなったらちゃんと逃げるのよ?死んだら元も子もないから」
「ありがとうございます。ちゃんと2人で逃げますので、大丈夫です」
そう。と言い女性達は去っていった。
「マジで気をつけなきゃいけないな」
「ですね。でも大丈夫ですよ。私武器は持ってるので」
そう言いながら春がズボンの裾を捲り上げ足についたホルダーから短剣を取り出す。
いやいやいや。今どこに持ってたんだよ!
「・・・。スパイみたいだな・・」
「えへへ。黙っててすみません。護身用に常に持っているんです」
可愛い顔して言ってるけど、普通は護身用にそんなところに短剣を持ち歩かないからな!
(ハルは不思議な子だね・・)
マシロもちょっと引いてるようだ。
「でもダンジョンに持ってくるくらいだから、それはダンジョン産か?」
「ですね。両親が残してくれたものの一つです」
「そうか」
他になんて言おうか迷っていると俺の胸元から光の玉が出てきて、俺の足元へと向かい、そのままマシロが現れた。
「良い両親だにゃ!」
「はい!そうですね!」
マシロも神社で大まかに説明を受けたから事情は知っているだろう。しかし俺と違い、その辺をさらっと言えてるあたり、年の功だなと思える。
「とにかく探索するか」
「ちょっと待って。その前に確認なんだけど、2人ともレベル2なんだよね?」
「あぁ」
「それでスキルはまだ取れてないってことで良いよね?」
「ですね。あっ、でも私は一応称号はありますよ?」
「へ?そうなの?」
そういえばマシロがドン引きする可能性を考慮してその辺はちゃんと説明しなかったな。
「なんの称号?」
「殺意の波動に目覚めし女神です」
「え?ホント?」
「ですね」
「それとんでもない称号だよ!その称号を持っている人は大体英雄って呼ばれるか悪魔って呼ばれるくらいの活躍をする事が多いんだよ!」
「そうなんですか?」
何かマシロがめっちゃ興奮してるな。まぁコイツ古代文明時代の事に詳しいから、言ってることは間違いないだろうけど。そしたらアレだな。春は物語でいうところの主人公格ってことだな。で、俺が脇役っと。・・言ってて悲しくなったわ。
「凄いね!春がいればダンジョン探索も捗るよ!」
「わぁ!良かった!お荷物にならなくて済むのは嬉しいです!」
「お荷物なんてとんでもないよ!寧ろボクたちがそうなるかも・・・」
「そんな事ないです!」
「そうかな?そうならないように頑張らないとね!ね?デンスケ」
「その言い方だと俺がお荷物になるみたいだな。まぁ良いけど」
「デンスケさんもそんなことないです!講習の時も鮮やかにクソゴブリンを倒してました!」
ん?今クソゴブリンって言った気がするけど・・。気にしちゃダメだな。話題変えよ。
「あー。ありがとう。てかマシロに聞かなきゃいけないことがあったんだった」
「ん?何かな?」
めっちゃ普通に答えたってことはマシロはクソゴブリンってところは気にしてないのな?
「スキルでな猫神の寵愛ってあったんだよな。それって完全にお前絡みだろ?取る前に効果を知りたいんだよ」
「それボクがいうのもなんだけどとった方がいいよ。しかも寵愛でしょ?康隆の加護よりも凄いからね」
「なんだ親父も持ってるのかよ?」
「うん!それの効果なんだけど、まず加護の方は身体能力アップとレベルアップまでの経験値緩和だね」
「加護だけでも破格の性能じゃないか!通りで親父が強いと思ったぜ」
「でしょでしょ?しかも補助魔法の効果も身体能力アップと重複するから、かなりいいよ!」
「ほえ〜。凄いスキルで羨ましいです」
「ハルは殺意の波動の称号持っているから大丈夫だよ!それにボクの言葉がわかるみたいだから、もしかしたらハルも取得出来るかもよ?」
「え!?探してみます!」
ハルはスキルボードを出すと一生懸命探し始めた。
「それで?寵愛はどうなんだ?」
「うん。加護の効果に加えて、取得スキルポイントが2倍になるのと神社の御利益の最大レベルがタダで受けれるよ」
「2倍!?完全にチートだな」
「うんうん。ボクの寵愛だからね!これが出るってことは康隆よりもデンスケの方がボクとの相性が上ってことだよ!」
「それは今度親父に自慢してやるとして、神社の御利益ってなんだ?」
「それはその機能が解放してからのお楽しみにしててね。どうせ今は無理だからさ」
気にはなるが、そう言われれば仕方がない。楽しみに取っておくとしよう。
「あ!加護ありました!」
春は嬉しそうな声と共に顔を上げ、俺たちを見る。
「じゃあ取って良いと思うよ」
「あったのですが、ポイントが100いりますね」
どうやら必要ポイントを見ていなかったようで、途端にシュンとした表情になる。
「普通はそうだよ?康隆でも10必要だったからね。それでもそれが出てるだけで凄いことだよ」
そう言って春を慰めているマシロ。
これ俺の必要ポイント言い辛くなったんだが?
「ね?デンスケも必要ポイント高いでしょ?」
「あー。うん。なんていうか・・・」
「デンスケさん。私の事は気にせずに言ってください」
「あー、わかった。必要ポイントは1だな」
「「は??」」
2人から何言ってんのと言わんばかりの顔を向けられる。
「いや、だから1だって」
「「はああああ!?」」
うるさっ!春が驚くのはわかるとして、マシロは驚くなよ!お前絡みのスキルだろうが。
「いいなぁ。デンスケさんいいなぁ」
春がちょっと口を尖らせて呟いている。可愛い。
「デンスケは想像以上に凄いね・・・。必要ポイントが1とかボクを召喚した初代以来だよ」
「そうなのか?」
「うん。彼はおそらく史上最強だったからね」
「じゃあ俺も最強に・・・?」
「いや。それは無理!」
「否定早すぎるだろ」
上げて落とされた気分だぜ。
「彼は他の加護とか寵愛も持ってたからね。ボクだけの寵愛じゃ、そこまでは無理だよ」
そんなにいっぱい持ってたのか?マジでチートを地でいってるな。そいつこそ主人公だろ。
「とにかく取るぞ?」
「うん」
「いいなぁ・・・」
春、まだ呟いてるな・・。
俺はスキルボードを操作して、猫神の寵愛を取得する。瞬間体が軽くなり、力が漲るのを感じた。
「これ、凄いな。今までの状態が嘘みたいだ」
「いいなぁ」
まだ言ってるのかよ。どれだけマシロの加護欲しいんだ?
そのマシロは得意げな顔で頷いている。
「ボクは神様だからね!その寵愛だからねそのくらいあるさ!」
「これならゴブリン程度なら余裕な気がする。よし!早速行こうか!」
「ですね!クソゴブリンを根絶やしにしちゃいましょう!」
いや、事情が事情なだけに魔物を憎む気持ちもわかるけど、いきなりキャラ変わるのやめてくれ。素直に怖いわ。
「待って。その前にスキルボードからパーティ編成しようよ」
「そういえばそうだな」
「え?そんなのがありましたっけ?」
「講習で言ってただろ?パーティを組むにはスキルボードから組めて、最大5人まで一緒に組めるって」
「えっと・・。魔物を倒す事で頭がいっぱいでした」
テヘペロと春がしているが、魔物を倒す事で頭がいっぱいってところが、そこはかとなく怖い。可愛いけどね。
「とにかく組むか」
そう言ってスキルボードを操作し、2人にパーティ招待を送る。2人ともの承諾を得て完了だ。
「じゃあ改めて行こうか」
「はい!」
「にゃ!」