第四話
春が短剣を構えると奥からゴブリンがやってきた。
このゴブリンは毎回同じように現れ同じようにやられているが、やはり別個体なのだろうか?
しかし別個体にしてももう少し頭がいいやつがたまには現れても良さそうだが。まぁ春が危険な目に遭うのを見たくないから今回も前回同様な感じでいいけども。
そんな事を思いながら見ていると、ゴブリンが春をターゲットにしたようだ。そのままなんの芸もないまま突進していく。
春はそれを油断なく見つめて、俺と同じように避けたかと思えば、足を突き出したままの形でいた。
それにゴブリンが突進の勢いのまま足を引っ掛けられて倒れ込む。それを見た春がやつの背中に馬乗りになり、短剣を両手で握り、思いっきり脳天に突き刺した。
その時点で死んでいると思うのだが、何度も引き抜いては刺し、引き抜いては刺しを繰り返す。
それを受ける度にゴブリンの頭が跳ね上がり、脳味噌が飛び散る。誰がどう見てみオーバーキルだった。しかも薄らと笑って目のハイライトが消えているところなんて、最早ホラーだ。
やめて!彼のHPはもうゼロよ!!
リアルに叫びたくなる。
途中ゲーっという音がした。誰かが吐いたようだ。そちらを向くと俺に絡んできた女が盛大に吐いている。
なんというかざまぁって思うんだけど、これを見たらそうなる気持ちも分かるので、素直にざまぁの気分になれない。
ドン引きした講師が恐る恐る止めに入る。
「あの57番さん?もうゴブリンは消えかけているので・・・」
「え?本当だ。夢中になってました。ごめんなさい」
さっきまでゴブリンにオーバーキルかましていたとは思えない程の笑顔で講師を見て、立ち上がる。
「すみません。これ返しますね」
通常、魔物の体液や血がついた装備は、魔物が消えると同時にそれも消えていくのだが、あまりにも脳天直撃セガサ○ーンをしまくった短剣には未だにゴブリンの脳味噌が付着している。
目を顰めながら講師が受け取ると、付着物は消えていったのだが、まだ嫌そうな顔をしている。しかしまだ後に3人控えているので、58番を呼びそれを渡す。
58番はこの世の終わりのような顔でそれを親指と人差し指2本で汚いものを触るかのように受け取った。しかも涙目だ。
あれは流石に可哀想だ。俺でもちょっと嫌だぞ。
そんな事を思っていると春が近づいてくる。
おいおい。俺の周りにいた奴らは今、全員5歩は下がったぞ。
「デンスケさん!見てました?私やってやりましたよ!」
スッゴイいい笑顔でこちらに向かってくる春を見て、少しゾッとしたのは内緒だ。
「あ、あぁ。そうね。倒せたね。凄いっす」
思わず雑魚キャラ口調になるのも致し方がないだろう。
だってあんなに可愛い系だったのにさ!やってる事はエグいんだぜ?怖すぎるわ!
「??どうかしましたか?」
相変わらずのいい笑顔だ。でも今はそれが逆に怖い。
「いやいやいや!なんでもないっす!いやー流石春パイセンっすね!もう凄かったっす!パネェっす!」
春は俺の捲し立てるように喋る舎弟言葉に首をコクリと傾げて不思議そうな顔をする。
「デンスケさん?何でそんな喋り方なんですか?」
「え?いや!アレだよ!見事なキルムーブに思わずって感じっす!そう!そうなんです!」
「あの・・普段通りに喋って欲しいかな?」
「はい!!・・いや、ごめんごめん。まぁとにかく凄かったよ」
「えへへ。これなら魔物も倒せそうです」
はい。でも魔物がちょっと可哀想です!しかも倒せそうじゃなくて実際にオーバーキルかましてました!
あれゴブリンが記憶を持ったままリポップしてたら絶対今度から春を見たら逃走するだろ。
ニッコリな春に動揺を気づかせまいと、精一杯の自然さを装う。
「そういえばスキルポイントを得ましたって言ってたから見てみませんか?」
「そうだな」
春の凶行の所為でスキルの事をすっかり忘れていたよ。
周りの奴らも、俺たちの存在などないかのようにそれぞれがスキルボードを見ながら、ワイワイしている。
心の中でスキルボードを念じると、目の前に半透明の板が出てきた。画面には
高山田亮
レベル2
スキルスロット2
と表示されており、スキルスロットの下には何も書かれていないのはまだスキルがないからであろう。他に何かないかと調べてみるとスキルの項目が出てきた。
早速スキルを見てみる。
剣術レベル1・・・・20
拳術レベル1・・・・5
火魔法レベル1・・・30
水魔法レベル1・・・30
風魔法レベル1・・・30
身体強化レベル1・・20
・・・・・・
意外と選べるスキルが多いな。これは悩むだろうな。講義で言っていたが、拳術と剣術で取得ポイントが違うのは今までの生き方で違うらしい。
しかし今現時点ではスキルポイントが足りないから殆どが取ることが出来ない。俺はスキルをスクロールしながら春に声をかける。
「何か良いのはあったか?」
「んー。欲しいスキルがあるんですけど、今は取れないのが多いですね。でも称号はありましたよ」
「称号?俺はそんなの無いけどな。どんなのだ?」
「えっと。これですね」
言われて春のスキルボードを見てみる。
山下春
レベル2
称号 殺意の波動に目覚めし女神
スキルスロット2
殺意の波動に目覚めし女神だってさ。いやぁ厨二病だなー。これはスキルボード作った奴は厨二病拗らせ系だなー。はっはっは。
一瞬で現実逃避をしてしまった。
なんだよ殺意の波動に目覚めし女神って!?いや!確かにね、女神はわかるよ!女神はね!この子可愛いしね!でもさ!殺意の波動ってさ!殺伐としすぎだろ!!怖いわ!しかも、もうアレじゃん!人間もやられそうじゃん!
「あの・・。デンスケさん?」
「あぁ。・・これってさ称号の内容がわからないよね?説明見れないのかなぁ?」
どうにか平静を装いつつも誤魔化す。
「えっと称号をタップすると効果とか書いてありますよ?」
「え?効果が付随するのか?」
「はい。ちょっと待って下さいね」
そう言いながら細い手を伸ばし、称号をタップしようとする春。手が伸びたことで春の匂いがフワッと香る。とても良い匂いだ。どこか安らぎを与えるかのような・・。
でもさっきゴブリンを滅殺してたけどね!!
称号がタップされると説明書きが浮かんだ。
殺意の波動に目覚めし女神
魔物を初討伐する際に息絶えた魔物に対して執拗に攻撃をし、魔物の魂に恐怖を植え付けし女性に与えられる称号。
効果:レベル差に関係なく魔物に恐怖感を与えることができる。また自身よりレベルの低い魔物が恐怖で竦み上がる。
あ。やっぱりゴブリンさんも恐怖の淵を彷徨いながら逝かれたんですね。そりゃあんな事されればね!魂に刻み込まれますわ!!
とんでもなく便利スキル付きの称号だが、これは喜んで良いのだろうか?もれなく異常者のレッテルを貼られそうだ。
チラリと春を見てみると、嬉しそうな顔でこちらを見ている。
これ全然気にしてないな。ここでドン引きしたら(もうしている)春にヤラレる可能性大だ。
「おー!すすすす凄いね!お、俺も称号とか欲しいなぁ」
「えへへへ。デンスケさんも取れますよ!」
「うんうん。ボク頑張るね」
恐怖のあまり自分をボクと呼んでしまったが、気付いていないようだ。それはそれとして自分のスキルを見ようとする。
スクロールだと永遠続きそうだな・・・。ソートとかあれば良いのに。
ソートしますか?
スキルボードに表示された。
出るのかよ!最初から出せ!
そう思いながらもソートをタップして、とりあえず1でも取れそうなものを見てみるために、必要ポイントが低い順で検索する。
投げるレベル1・・・・1
指パッチンレベル1・・1
口笛レベル1・・・・・1
撫でるレベル1・・・・1
・・・・・・
いらねー。マジでいらね。何だよクソスキルばっかりじゃねーか。
しかも撫でるとかこんなのうちが犬飼ってたからそれで必要ポイント少ない感じだろ。
口笛も吹けるやつは絶対ほぼ1だろ。こんなクソスキルで貴重なスキルスロット潰したくないわ。
取得ポイントが2まで見てみようともう少しスクロールしていると
猫神の寵愛・・・1
なんだこれ?レベル表記も無いから最初からレベルMAXって事だろうな・・。しかも絶対マシロに関係するやつだろ。これは後でアイツに要確認だな。
「えー。それでは皆さんの実習が終わりましたので、会議室に戻ります。ではついてきて下さい」
講師から声がかかったため、スキルボードを消し、ついて行く。
来た道を戻りながらもそれぞれ話をしながら歩いていた。あちこちでパーティを組もうだのそう言った声が聞こえる。
意外と俺に絡んできた女は人気のようで、男が群がっていた。俺がそちらを見ているのに気付いたのか、フフンと鼻で笑うように嘲笑してくる。
最初の雰囲気はどこいったよ?こいつ猫被ってたな。でも猫は可愛いから、アレだ、ゴブリン被ってたでいいや。しかしまぁこっちは殺意の波動に目覚めた春がいるから誰も近寄っては来ないわな。
そんな事を全く気にする事なく、隣を春が歩いている。俺もどうせマシロと一緒だからおいそれとパーティは組めないから気にして無いけど。
ーーーーーー
会議室に戻るまえに写真を撮られた。おそらくエクスプローラーカードに載せる顔写真だろう。
そのまま流れで会議室に戻り、今度は誓約書を書く。
ダンジョンで死んでも協会を訴えませんとかそういう内容の書類も含まれていた。
「はい。それでは講習は以上です。後はアナウンスで番号を呼び出しますので、カードを受け取ったらそのまま解散で結構ですので。お疲れ様でした」
時計を見ると、まだ午後1時になったばかりであった。体感では1日講習を受けたような気がしたが、そのくらい濃い時間だったという事だろう。
まぁ何にせよこれで俺もエクスプローラーの一員だ。マシロと一緒に金を稼ぎまくるぜ!そして早期引退をして左団扇で余生を過ごしてやる!
そんな欲に塗れた思いを抱いていると隣から声がかかった。
「可哀想だからアンタも私のパーティに入れてあげよっか?」
「いや。結構です」
「なんでよ!?」
「面倒臭いので」
「くっ!覚えてなさい!」
「断る」
ギャーギャー言っている女を同じメンバーになったであろう男達が連れて行く。あれ既に逆ハーレム出来てるやん。顔だけでアイツら判断したな。
「あの・・。デンスケさんはパーティは組まないんですか?」
クソ女がいなくなった事で、女神が声をかけてきた。女神って言っても殺意の波動に目覚めてるけどね。
「あぁ。相方が既にいるんだが、そいつが訳ありでな。基本的にはそいつと2人だと思う」
「そうなんですね・・・」
めっちゃ悲しそう!流石にこれはクルものがあるな。俺の女神(違います)が悲しそうだ。これは何とかせないかん!
「でもあれだ!相方に聞いてみるよ!」
「本当ですか!?・・良かった〜。誰も声をかけてくれないしソロじゃ無いとダメかなって思ってました」
そりゃ、あの惨劇を見たらね・・。ダンジョン探索が常にスプラッタホラーになるからな。
ピンポンパンポン。
「56番から60番までの方〜。受付までいらして下さい〜」
ピンポンパンポン。
「よし。とりあえず取りに行こうか」
「ですね」
そう言って席から立ち上がり、連れ立って会議室を出る。
しかし絶対今のアナウンスの人、朝の間延びした受付嬢だろ。ずっと聞いてると寝るんじゃ無いか?
受付について、カードと資料を貰う。春も貰ってこっちに来たので先程の話の続きをする事にした。
「さっきの話の前に連絡先交換しとくか」
「はい!」
そう言ってスマホを取り出し、お互いの連絡先を交換する。
「さて、飯でも食べながらって言いたいところだが、相方が待ってると思うんだよな」
「そうなんですか?じゃあ連絡してきます?」
「いや。そいつスマホ持ってないから一旦俺の家に帰らなきゃいけない。ところで家はどこだ?」
「私は那珂川市に住んでますね」
「ん?じゃあ車できたのか?」
「いえ、バスです」
「そっか。そしたらどうする?今日は一回家に帰るか?」
「あの・・。出来たらその相方さんにお会いしたいのですけど」
なるほど。このままフェードアウトして、結局パーティに入れないかもしれないから不安なんだろうな。
「わかった。そしたら俺はバイクだから。後ろに乗ってもらうけどいいか?」
「大丈夫です!」
「そしたら行きますか」
「はい!」
俺達は協会を出て、バイク置き場に向かった。