第十五話
セーフゾーンを出て探索を再開する。3層から漸く魔物のドロップにも旨みが出始める。なんと肉が出るのだ。ダンジョンさんの肉は殆どが品質が高いものとなる為、高価に売れる。まぁ自分達で食べても良いのだが。
「3層からは魔物も手強くなるらしいからな、気をつけよう」
「うんうん。そうだね」
「はい!」
3層に出てくるジャイアントラビットを安全に倒せるかどうかが、この那珂川ダンジョンで初心者脱却が出来るかどうかの試練みたいなものらしい。
因みに他のダンジョンでも大体が3層から魔物の強さが変わる。協会が言うには、2層まではチュートリアルみたいなものらしい。
ジャイアントラビットは名前の通り大きい兎だ。大きいが素早く、その大きさ故に攻撃力も高い。マシロから貰った装備の防御力がどれほど高いのかはわからないが、攻撃を喰らわないに越したことはない。
3層の地図を見ながら進む。
「1体こっちにきてるね」
「了解」
3人で魔物を待ち構える。ピョンピョンと言うよりもドシドシとジャイアントラビットがウサギ飛びでやってくる。
見た目は単純に兎を大きくした感じなのだが、それにしてもデカすぎる。恐らくは4足歩行時点で1mはあるので、後ろ足立ちしたら春よりも大きくなるだろう。
鼻をひくつかせながらまんまるの目でこちらを見てくる。
・・・可愛い。これは攻撃し辛いぞ。魔物という事は分かってはいるのだが、本当にただのデカいウサギにしか見えない。
これがモン○ンのウル○クスの様な凶悪な見た目ならやる気もおきるのだが。
マシロと春を見てみると、マシロは余裕そうに欠伸をしている。しかし問題は春だ。発動している。目覚めちゃってる!!
やはり可愛い兎とはいえ、春にとっては憎き魔物・・。ってうぉーーーーい!!
考え事をしている最中に、春が短剣を構えて襲いかかった。ジャイアントラビットは春に気付き、ヤベッ!みたいな表情を浮かべたがもう遅い。すれ違いざまに耳を短剣で切り飛ばされる。
何故耳のみを春は攻撃したのかと思ったが、奴の顔にも切り傷が刻まれていた。恐らくはレベルがまだ低いためモフモフなジャイアントラビットを一撃で切り落とすのが難しかったのであろう。
ジャイアントラビットが春に対して前足を上げて威嚇する。その顔はまさにウル○クスのように醜悪だ。
漸く見た目に騙されていた俺は気を取り直して攻撃を仕掛けることにした。
因みにそんな俺をマシロが冷たい目で見ている。マシロ的には油断してた俺に対して怒っているのかもしれない。
とにかく今はそんな事を気にしてる訳にもいかないので、背中を向けているジャイアントラビットの背骨があるであろう場所に右ストレートをお見舞いした。
ゴキッ!
背骨が砕けただろう音がする。これはあれだなやっただろ。ジャイアントラビットが泡を吹きながら倒れ込んだ。そのまま光となり消滅する。
スキルポイントを4獲得しました。
レベルが4に上がりました。
お?スキルポイントがやっと1体で4を超えたな。レベルも上がったし。
「やったー!スキルポイント2ですよ!」
「うんうん。良かったね〜」
春の喜びにマシロが答える。俺だけ2倍だから4だけど、黙っておこう。忘れられている方が楽だし。
「ドロップは出なかったな」
「ですね〜。とにかく出るまで狩りましょう!」
「だね。レアドロップも出て欲しいところだしね」
因みにこいつのレアドロップはウサギの尻尾だ。なんでも装備するとお尻からウサギの尻尾が生えるらしい。鑑定スキル持ちの鑑定結果によると効果はドロップ確率5%アップだそうだ。純粋に5%アップなので仮にドロップ率が1%の場合6%になる。但し、レアドロップには影響しないし、通常ドロップでも正確な素のドロップ率はわかっていない。
「ウサギの尻尾装備したら可愛くなりそうですね!」
俺の方を見て、春が捕食者の目をする。
あれ?俺喰われるの?それは食欲的に?性的に?背筋に寒気が来るが、せめて性的でお願いします。
そこから兎狩りが始まった。意外と3層は広い様で、たまに別パが居たりするが狩場が被ることがなかったのでバリバリ狩ることができた。
ダンジョンの魔物は一定時間経つとリポップするが、魔物の数が一定以下になると、時間を待たずに定数までリポップする。これはお偉い学者さんが研究したから間違い無いだろう。
なので大氾濫を防ぐには定期的な間引きが必要であるし、かと言って狩りすぎてもある一定の定数まではすぐにリポップするから意味はない。
しかしこの方法を使って、たまに大手ギルドではダンジョンを1日貸し切り(お金の力で)、レアドロップを狙うという事もする。お金の力は偉大だ。
結果としてジャイアントラビットを20体狩ったのだが、兎肉(胸)10、魔石(1)13個で終わった。本来なら兎肉が欲しかったのだが、なぜか胸肉無双であった。
3層のセーフゾーンでスキルボードを見ながら休憩することにした。
「見事に胸肉ばっかりだったな」
「だね〜」
「胸肉はいくらくらいになるんですか?」
「確か一律1kgだったから1つあたり2000円だな」
「それなら全部売れば兎肉だけで2万円ですね!」
「でもボクはちょっとは食べたいかな〜」
「俺もそうだな。だから売るのは7つにしよう。後は俺たちで食べる形で」
「わかりました。魔石は売るんですか?」
「んー。バイクの燃料に使えるから持ち帰りかな」
「じゃあ今日は14000円ですか〜」
「ちょっと少ないよな。・・明日から4層に行くか。春のレベルはいくつになったんだ?」
「私は5ですね。スキルポイントが61なので明日には加護が取れそうです!」
「後ちょっとだね!頑張ろう!」
加護が取れたらレベルが上がってるのもあるし、5層もいけるか?明日は様子を見て5層まで行こう。称号や加護でかなりハイペースで行けてるな。
因みに俺が
高山田亮
レベル6
スキルスロット1
猫神の寵愛
拳術レベル1
スキルポイント115
マシロ
レベル6
スキルスロット0
スキルポイント80
マシロにレベルが追いついたな・・。
「マシロ。俺のレベルがお前に追いついたんだけど、このままだと追い抜いて一緒に探索できなくならないか?」
「にゃ?それは大丈夫。ボクの寵愛や加護なら経験値減少については加護持ちと変わらないよ」
そういう大事な事は先に言えな?というか俺が寵愛のスキルで必要経験値減少でも特に焦らなかったのはこういう事か。
「でもなんでスキルポイントは反映されないんだ?」
「その辺はよくわからないんだよね。初代なら知ってたかも知れないけど」
なんだそれ?そういう大事な事は聞いとけよ。・・・まさか何か隠しているのか?
「マシロ隠し事は良くないぞ」
「??なんのこと?」
カマをかけて見るもマシロに動揺はみられないな。じゃあ本当に知らないのか?・・その辺は様子見しておくしかないか。今は俺にとってマイナスな事は起きていないし、それで良いだろう。
「マシロちゃんを疑ってるのですか?」
「ねー?酷いよね?デンスケは悪い奴だよ」
「ダメですよデンスケさん!いくらデンスケさんでもマシロちゃんをいじめてはダメです!」
「いや、虐めている訳では・・」
「むー!」
春が頬を膨らませて怒っている。なんていうか可愛い。
「あー。悪かったよ。別に疑った訳ではなくて気になっただけだから」
「仕方ない。許してあげるね」
偉そうにいうマシロ。こいつ春が味方についているから、強気だな。
「それよりも俺のスキルをどうするか考えないとな!」
無理矢理に話を変える。
「何か取れそうなんですか?」
「あぁ。今のところ拳術レベル2が取れるな」
「神主系スキルは取れないの?」
「取れるけど、まず取るとしたら降神と昇神だろ?スキルスロットが足りないから厳しいな」
「????」
春には言ってなかったのでわかっていない様なので、マシロが春に説明をしている。
「へー。巫女さんにはそういうスキルがないんですか?」
「あるよ。巫女舞とかそういうのがあるね」
「どんな効果なんだ?」
マシロによると、巫女舞は舞を舞うことによってその舞の種類に応じたバフがかかるらしい。しかしながら1人舞じゃない基本的なものは2人〜4人で舞った方が効果があるらしく。揃わないなら別段取らなくても良いそうだ。それに春は前衛型だからな。
「んー。じゃあ保留ですね」
「デンスケは拳術とるの?レベルが上がれば動きのキレと攻撃の威力が上がるけど」
「そうだな・・。出来ればスロットが増えるまで貯めておきたいところだな」
「それが良いかもね。多分だけどデンスケなら早めにスロットが増えると思うんだよね」
「なんでだ?」
「初代に似てるから。顔じゃないよ?顔は初代よりもカッコ良くない」
「そうか」
何度も言われるが、どれだけ似てるんだよ?でも顔のことは言わなくて良くない?俺だって自分をイケメンとは思ってないからさ。傷つくわ。
「デンスケさん大丈夫です!私は好みです!」
「ありがとう・・」
昨日のせいもあってか、こういう事を言うのに躊躇いが無くなっているな。嬉しいけど。
「とにかく今日はこれまでにするか。腹も減ったし」
「そういえばもう3時ですね。夢中でお昼食べるの忘れてました」
「まぁ仕方ないよな。なんというか楽しいし」
「ですね!」
「時間が微妙だけど今日は教会でドロップを売って、買い物して帰るか」
俺たちは水晶に触れて1層に戻り、ダンジョンを後にした。




