第十四話
・・デン・・さん。起き・・ださい!
誰かが呼ぶ声がする。昨日あんまり寝れなかったからほっといてくれ。今日は寝て過ごす。
ガリッ!!!
「痛ー!!!」
急に顔が痛くなり、勢いよく起き上がる。そのまま相変わらずの目つきの悪さを更に悪くして痛みを与えたものを睨む。
「マシロ!!急に引っ掻くんじゃない!!」
俺のベットの上にちょこんと鎮座する神に文句を言う。
「いつまでも起きないからさ」
「だからって引っ掻く事無いだろ!」
「起きないから悪い。ほら春も何か言ってやりなよ」
春?え?春がいるの?
俺はまさかの人物が自分の部屋にいると思わなかったため、マヌケな顔で周りを見渡すと、真横にいた。
「おはようございます。デンスケさん♪」
俺の顔を覗き込みながら挨拶をしてくる春。
何だか昨日の一件以来めちゃくちゃ距離が近くなったな。やっぱり好き宣言したから開き直ったりしてるのか?春は可愛いから嬉しいけど。しかも顔だけじゃなくて全てが可愛い。あれ?これ俺も春が好き?
寝起きで混乱している頭でアホみたいな事を考える。
「朝ごはん作っているので、うちで食べませんか?」
「え?あー。食べる」
「はい!じゃあ待ってますね!」
そう言ってご機嫌な様子で俺の小屋を出て行く春を見送り、これはどういうことかとマシロを見つめた。
「昨日色々あったんでしょ?だからだと思うな」
マシロがかたをすくめながら言ってくる。
お前猫のくせに器用だな。
そんな事を思いながらベットから起き上がる。
「マシロは聞いているのか?」
「春がデンスケに好きって言った事?正直バリバリ聞こえてたよ」
うわぁ。何か人(猫)に聞かれてたと思うと恥ずかしいな。
「そしてデンスケが右往左往してるのも見てたよ。ダサかったね」
「うるせー。ダサいのは自分でもわかってる。でもいきなりだったんだから仕方ないだろ?」
「まぁそういう女性に免疫が無くて慌てているのも初代っぽくてボクは好きだけどね」
「猫に好かれてもあんまり喜べないな」
「喜んでよ?ボクの好感度上がれば称号出るよ?」
そういえばそんな事も言っていたな。好感度を上げるね・・。猫を攻略するギャルゲーか?いや、猫ゲーか。・・・スマホのアプリでありそうだな。
「俺が好感度上げるために擦り寄ってきてもキモいだけだろ?」
「そだね」
そこは自分で言っておいてなんだが、キモいは否定して欲しかったな。
「とにかく春が待ってるから行くとするか。顔を洗っていくから先に行っておいてくれ」
「はいはい」
俺は洗面所にマシロは隣へとそれぞれ動き始める。
はぁ。普段通りにするのを心掛けないといけないけど、如何せんこういう状況が初めてだからどうすれば良いかわからなくなるな。とにかく顔を洗って気分を切り替えるか。
顔を洗い歯を磨いて隣へと向かう。
因みに俺は起きて歯を磨いて、飯食ってまた磨く派だ。虫歯が怖いんでな。
隣のドアをノックすると、どうぞ〜という声が聞こえたので中に入る。
もう既に女の子の部屋みたいな感じで模様替えでもしてあるかと思ったが、リビングに関しては最初見た時のままであった。春個人の部屋に関してはどうかわからないが。
それはそうとリビングにある食卓テーブルに洋風の朝食が並んでいる。ベーコンにスクランブルエッグ、サラダなど、ザ洋風朝食って感じだ。
「どうぞ席について下さい♪」
嬉しそうに席へと進める春。俺は玄関に近い方の椅子に座った。テーブルが広いので近くに座る必要はないと思うのだが、お盆の上にパンの入った皿を乗せて横の座ってくる。
「それじゃあ食べましょうか」
「あぁ」
「いただきます」
春に合わせていただきますをし、料理を食べていく。
「どうですか?」
「うまいよ。春は料理うまいね」
「ありがとうございます。でもほとんど焼いただけみたいなものですけどね」
まぁそれはそうだが、俺からすればスクランブルエッグは難しい。どうしてもボソボソとした食感になってしまう。一度夏菜母さんに炒り卵と間違われたことがある。アレはちょっとショックだった・・。
マシロも用意されたものをガツガツと食べている。流石に箸は持てないので、普通に猫食いだ。
平穏無事に食事が終わった。まぁ無事じゃ無い食事とか嫌だが。
「さて、それじゃあ今日は地図を協会で買って、二層以降を探索するか」
ダンジョンは中の道が変化することはないため、地図が売っている。
「ですね。とりあえず加護を取りたいです」
「ボクもいっぱいポイント貯めないと、お金稼げないよ」
「そしたら準備して30分後くらいに出発でいいか?」
「大丈夫です」
「ボクはいつでも良いよ」
「ならそれで」
その後春は俺が食器洗いをする事を頑なに断ってきたが、結局2人で一緒にすることとなった。
それが終わり準備として装備関連をリュックに詰め込み、歯を磨いたりして外に出る。
既にマシロも春も準備が終わっていた。
「お待たせ。じゃあ行くか」
バイクに乗り、地図を買いに那珂川協会に向かう。基本的に大きめのダンジョンの横には大なり小なり協会が隣接されているのでドロップ品の買取は近くの教会に持ち込むことが殆どだ。まぁ那珂川協会はやや小さめであるが。
ーーーーーー
那珂川協会で地図を買い、協会の更衣室で着替えて鍵を受付に預けてダンジョンへと向かう。正直装備が目立つので視線が痛い。春は巫女姿だが、俺に関しては白衣白袴で腕にゴツい手甲をつけている上にリュックを背負っているので余計に目立つ。
「かなり目立っているな」
「ですね」
(作戦通りだよ。これで後はボク達が活躍すればウッハウハだよ)
(いや、そもそもまだ御利益を受けれる態勢が整ってないからな)
(賽銭箱は500だからすぐだよ)
(だといいけどな)
「?マシロちゃんと会話中ですか?」
「あぁ。春には聞こえないんだったな。ダンジョンに入れば出てくるからそれまで待ってくれ」
「はい。・・でも私はデンスケさんとも会話したいんですけどね」
小さい声で何か言っていたみたいだが、殆ど聞こえなかったな。
ダンジョンに着くとマシロが俺から出てくる。この俺から出てくるって感じが正直違和感バリバリだが、そういうより他がない。
「それじゃあすぐに2層へ行こうよ」
「そうだな」
「2層楽しみです」
ピクニック気分で1層を歩いて、途中出会ったゴブリンを春が滅殺していく。ぶっちゃけ俺とマシロは歩いているだけだ。しばらく歩くと2層への階段が見えたのでそれを降りる。
「早速いきましょう!」
「ちょっと待ってくれ。先に2層へ来たから転送装置に触れていた方がいいだろ」
「あ!そうでしたね!」
ダンジョンに入ってすぐ近くに転送部屋と呼ばれるものがある。ここは2層以降の降りたところの近くにセーフゾーンという広場があり、そこの水晶を触り登録すると1層にある転送部屋へパーティ単位で転送されるシステムだ。
「じゃあちょっと行くか」
すぐ近くのセーフゾーンへと進む。中に入ると1パーティ3人組が休んでいた。会釈をして中央にある水晶を触り、2層の登録を済ます。
俺に続いて春とマシロが触りセーフゾーンから出る。出る時に何かコソコソ話し声が聞こえたがなんだったのだろう?
「さっきの人達ボク達の装備を見て、驚いていたね」
「そうなのか?俺には聞こえなかったが」
「うん。なんかね、「あれって神社の人?」とか「巫女さん可愛い」って言ってたよ」
「可愛いだなんて・・・」
恥ずかしそうにしている春。
「やっぱ、春が可愛いから印象は良いのかもな」
「可愛いですか!?ホントですかデンスケさん!?」
春がめっちゃ食いついてくる。
「あ、ああ。その可愛いと思ってるけど」
「嬉しいです!そう言ってくれるなら神社でもこの格好でいようかな」
寧ろ神社でする格好ですけどね。まぁ可愛いからいいけど。
ちらっとマシロを見ると、うんうん。と頷いている。
「まぁとりあえず進もう」
照れ隠しにそう言って2層の地図を見ながら進み始める。
マシロを先頭に歩いていると
「前から3体来るね」
臨戦態勢に入る。2層はゴブリンソルジャーとコボルトが出てくる。段々と近寄る音が聞こえ見てみると、コボルトが2体とゴブリンソルジャーが1体来た。
「ボクが突っ込むね」
マシロが敵に襲いかかる。こちらに気付いたコボルト達は構えようとするが、春の存在を認識した途端一瞬体が固まる。俺たちはマシロに続き駆け出す。マシロがコボルトに猫ドロップキックをかます。後はいつも通り吹っ飛んだコボルトに春が追い討ちをかける。
そちらは大丈夫と判断した俺は、ゴブリンソルジャーに襲いかかるが、既に硬直が解けていたゴブリンソルジャーが持っている剣を袈裟懸けに振るってきた。
すぐに手甲を装備した右拳で剣を殴りつけ、手甲が剣に当たった瞬間ゴブリンソルジャーの剣が折れる。すぐさまワンツーの要領で左拳をゴブリンソルジャーの頭に叩きつけた。
グシャッという音を出しながら、相変わらずゴブリンソルジャーの頭を貫通させた。
すぐ春達の様子を伺う。既に2体目も細切れにされており、元の原型をとどめていない肉塊が地面に広がっていた。
やがて光となり消滅していき、小さな魔石を3つドロップした。
「よし危なげなく行けたな」
「そうだねー。楽勝だし3層目指して良いかもね」
「ですね。結局スキルポイントも3でしたし」
「そうだな。3層を目指そう。というか初ドロップだな。魔石(1)だから一個100円くらいか」
「やっとエクスプローラーっぽい感じになりましたね」
「だな。この調子で行こう」
俺たちは早々と3層に向かった。3層までに何体か魔物を倒して、順調にドロップ品も増えてホクホクだ。金的にはそうでも無いが昨日は0円だった事を考えると良いことだろう。
3層に着きセーフゾーンの水晶に触れ、登録をすまし、ついでに休憩している他のエクスプローラーから奇異の目で見られて探索を再開した。




