第十三話
あの後ご飯を食べる為にリビングへと向かった。中に入ると既にテーブルの上には所狭しと様々な料理が並べられている。
俺達が来たことで、全員が席についた。因みに春は俺の隣で、その間のテーブルの上にマシロがちょこんと座っている。
「さて、全員席についたな?今日は田亮がパーティを組んで、その初メンバーを連れてきた。田亮が信頼しているパーティメンバーは俺たちにとっても家族のようなものだ。と言うわけで、新しい家族に乾杯!」
「かんぱーい」×7
親父の発声と共に乾杯をする。
家族と言われた春は嬉しそうに皆んなと乾杯していた。
「春ちゃん!嫌いなものとかはあるかい?」
「特にないです!」
「そうか!未来と奏の飯は美味いから沢山食べな!」
「はい!」
早速文香母さんに絡まれ始める春は意外と嬉しそうだ。
昼に焼肉を結構食べたのだが、レベルが上がったせいか食べる量も増え始めている。おそらく使うエネルギー量が増えたからであろう。
当然親父達もかなりの量を食べるのでこれだけの料理が並んでいるのだ。
「今日はデンスケちゃんがご飯食べに来るって言ってたから好きなものいっぱい作ったからね」
そう言って未来母さんが取り皿に料理を取り分けてくれる。
「ありがとう。でもまだ2日しか経ってないからさ」
「2日でも私達はしばらく帰ってこないと思ってたんだからいいじゃない」
奏母さんがまた別の料理を取り皿に入れて渡してくる。
「そう。だから素直に受け取るべき」
今度は夏菜母さんだ。
「一気にそんなに持ってこられても困るわ!」
照れ隠しにそう言う俺をマシロが笑いながら見ている。
「ところで春ちゃんはマシロの声が聞こえるんだって?」
「あ、はい!聞こえてます」
「いいなぁ。ワタシ達も加護はあるけど喋れないのよね〜」
「え?加護が出れば喋れるんじゃ?」
「にゃ。彼女達は康隆と契りを交わしたから加護を得てるんだよ」
おい!マシロ!約束はどうしたんだよ!言ってるじゃないか!!
俺がマシロを睨むと、しまった!みたいな顔をした後に笑って誤魔化し始めた。
「え?え??契り?」
「春。この料理うまいぞ?遠慮せずに食え」
俺はどうにか誤魔化そうと料理を春に進める。
「そう。加護を持っている康隆と契りを交わした後出た」
「おい!飯中だぞ!変な話題ヤメロ!」
「そうよ?流石にご飯中はどうかと思うわ」
奏母さんが俺に追従する形で諌める。
「はっはっは。そうだな生々しい話は今はいいだろ?それよりも2人は講習の後、一度くらいダンジョンに潜ったか?」
「おう。昨日講習が終わってすぐにな」
「すぐに行ったなら、装備はそのままだったのか?」
文香母さんが心配そうにこっちを見る。
「あぁ。一層の様子を見る程度にして潜ることになったんだ」
「も〜。ちゃんと装備を整えてからじゃないと危ないよ?」
「マシロもいるし、その辺は大丈夫だろ?」
「たしかに。マシロはレベル3くらいはあったはずだからな」
親父が助け舟を出してくれる。しかし俺はコイツに聞くことがあったんだよな。
「親父。なんで俺とマシロを引き合わせたんだ?」
「そりゃアレだ。お前が1番俺に似ているからだよ」
なんだそりゃ?顔とか全然似てないけどな。
「言っとくが顔じゃないぞ?顔は断然俺の方がカッコいい。男らしさも俺が上」
「ウザ」
「うざいって言うな!ったくそれ以外の才能というか雰囲気か?その辺は俺に似ているらしい」
らしいって何だよ?誰情報だっての。俺の疑惑が篭る視線を受けて、親父が母さん達に視線で助けを求める。
「デンスケ。1番似てる。」
「だよね〜」
「だな」
奏母さん以外がそう言って頷いている。
「なんだよ?皆んなそんなこと思ってたのか?」
「まぁそうね。子供達の中では1番似てるわね」
結局奏母さんも認め始めた。
「最悪だな」
「おいー!お父さんと似てるのにそんなこと言うな!」
「キモい」
「クゥーっ!息子にいじめられてるよ!」
親父がいじけたフリをすると、母さん達が慰め始めた。それを横目に春の方を伺ってみる。
「春は楽しそうだな?」
「え?そう・・ですね。久しぶりに家族の団欒を見て、良いなぁって」
そうだったな。春に思い出させてしまったが大丈夫だろうか?
「む?大丈夫だ春ちゃん!春ちゃんは家族だ!デンスケと結婚すればそれこそ本当の家族だぞ!」
「そうそう。デンスケも加護を持っているんでしょ?そしたら結婚すれば春ちゃんも加護持ちだぞ?」
親父と文香母さんが春と俺をくっつけようと画策しているな。
「春に迷惑をかけないでくれよ」
「迷惑じゃないですよ?」
春がこちらを真っ直ぐ見ながらそんな事を言う。
勘違いしちゃうから!童貞だからそういうのはやめて!それで失敗したら俺立ち直れない!
「うんうん。でもデンスケは寵愛持ちだから結婚したら春も寵愛のスキル出るね」
マシロおおおおお!お前はすぐにボロを出しすぎだから!!!
「え?もしかして契りってそういう?」
ナニを想像したのか春が顔を赤らめて下を向く。
「あら?春ちゃんウブだねぇ」
文香母さんが揶揄っている。しかしこれはまずいぞ。春が俺の事を好きでもないのに求められかねん。まぁそう言うことは無いと思うが。
とにかくマシロの後ろ首を掴んで未来母さんの元へ届ける。未来母さんは目を輝かせて嬉しそうにマシロを抱いて頬擦りし始めた。
「にゃー!悪かったよ!助けて!」
「断る」
その後マシロの叫び声を聞きつつ、春が母さん達に囲まれて弄られているのを見ながら料理を食べた。
ーーーーーー
「本当に帰っちゃうの?」
未来母さんが悲しげにこちらを見ている。こちらと言ってもほぼほぼマシロに視線を向けているのだが。
「あぁ。明日から本格的に探索をしたいんだ」
「それなら仕方ないね」
他の母さん達も名残惜しそうだが、理解してくれているようだ。
「それじゃ気をつけてな。手甲だがちゃんと手入れはしろよ?」
食事に後にすぐ親父が手甲をくれた。魔石を粉末にしてそれを鉄に混ぜて硬さを上げて作られた装備だ。有名な鍛冶屋が作ったものであるらしく、強度は申し分ない。
「ああ」
親父にぶっきらぼうに答えながらバイクに乗る。春も後ろに乗ってきた。
「それじゃあまたなー」
文香母さんの声と同時にバイクを発進させる。ちらっとサイドミラーを見るとみんなが手を振りながら見送っていた。
しばらくバイクを走らせて神社へと着く。今回は食事中母さん達に揶揄われたからか、春が少し遠慮気味に体をくってけていたのでちっぱいの感触があまり感じられなかった。
俺の数少ない癒しが無くなった瞬間だ。
2人して降りる。マシロがそのタイミングで俺から出てきた。
「ご飯美味しかったね〜」
「ですね!それに楽しかったです!」
「満足して貰えたなら良かったよ。てか結局親父に鳥居の件聞かなかったな」
「まぁ寵愛スキルや殺意の波動の称号でそれどころじゃなくなったよね」
寵愛スキルが出てきたことで、春が顔を赤くして下を向いてしまった。
マシロに冷たい目を送り、春に声をかける。
「なぁ?春は加護が出ているんだからそれで良いんじゃ無いか?」
「そう・・ですね。それはそうなんですけど・・・」
「どうした?」
「いえ、家が違うとは言え、お隣だし、誰もいないから・・・その・・」
「大丈夫だ。俺は同意なく女の子を襲ったりしないぞ?」
「あ、はい・・・」
今度はマシロが俺を冷たい目で見てきた。
何だよ?別におかしな事は言ってないだろ?
マシロはふぅとため息をついて本殿へと帰っていった。
2人残されるとギクシャクしてしまいどうすれば良いかわからない。
「あの・・」
「ん?え?どした?」
「私寵愛が欲しいからデンスケさんと結婚するとか、そういう打算で何かする事はないです」
「あ、あぁ。疑ってしまって悪かったな・・」
「ただ!デンスケさんとはまだ出会って2日ですけど、・・好きです。だから結婚とか言われてちょっと嬉しくて・・」
「え?はぁ??でも会ったばっかりだぞ!?」
「デンスケさんは一目惚れした事ないのですか?」
「いや、そりゃあるけど」
「じゃあおかしくないですよね!?」
「あ、はい。おかしくないです」
やばい。勢いに飲まれて、つい言ってしまった。そりゃ一目惚れもあるだろうけどさ!それでも俺なんかにそうなるなんて思わないし・・。
「それじゃあハッキリ言います!最初見た時から私のタイプで良いなぁって思ってました!一緒にダンジョン潜って私がおかしい事をしてしまってもデンスケさんだけは隣にいてくれてもっと好きになりました!そんな好きになった人と隣に住めるってなって嬉しかったです。お義母さん達に結婚しなよって言われて更に嬉しかったです。」
「あぁ。急に言われるとなんというか・・・」
「分かっています。でももうパーティメンバーですからね!私はデンスケさんに宣戦布告しちゃいます!絶対に私の事好きにさせるので覚悟しておいて下さい!それじゃおやすみなさい!」
そう言うと足早に春は家へと入っていった。置いていかれた俺は春の言葉をもう一度考えて・・・。
ってマジかよ!?一目惚れ?いや、二目惚れ?よくわからんが俺のこと好き!?どこ?マジでどこが良いかわからん。タイプって?マジかよ!童貞じゃなきゃ対応できたかもしれんのに!!くっそ!親父の主人公力が俺にもあれば!!
そんな事を考えながら1人悶えている。しばらくすると徐々に冷静になってきた。
・・・なんか俺カッコ悪りぃ。もうアレだな!開き直って春が俺の事が好きと言うのは受け止めよう!明日から恥ずかしいけど、俺もちゃんと春の事を考えよう。それから答えを出そう。とにかく明日から本格的にダンジョン探索だから寝る!!
自分の小屋へと帰る。結局悶々として、あまり寝れなかった。




