第十話
「さて、とりあえず夕方まで時間を潰さなきゃいけないな」
「何か用事があるのですか?」
そういえばまだ春には伝えてなかったな。可愛らしく首を傾げている。でもこれがダンジョンに行った途端アレだからなぁ。思い出しただけで身震いしてしまう。
「あぁ。今日は夕方から実家に帰るんだ」
「デンスケの装備を貰いに行くんだよ!」
「そうなんですね。デンスケさんのご両親はエクスプローラーなんですか?」
「まぁ一応な」
「・・・デンスケさんって苗字が高山でしたよね?」
「そうだな」
あー。これもしかしたらバレたか?親父達は有名だからな。小中高とずっとそれ関連でサインが欲しいだの、一度会いたいだの、色々あったからなぁ。
酷い時なんて俺に好意があるかと思わせたクラスメイトが実は親父のハーレムに入ろうとして画策してたこともあったしなぁ。あれはショックだったな。結局母さん達が怒ってその子は生涯俺の家に近寄れなくなったけど。
「もしかして高山家のパーティですか!?」
そのパーティ名さ、マジでダサいんだけど。いや、厨二病まっしぐらのパーティ名も痛いけど、苗字が高山だからってそのパーティ名は酷すぎるでしょ。息子の俺が1番恥ずかしいわ。
「そうだね・・」
「凄いじゃないですか!!高山家は世界でも有数のパーティですよ!?何で黙ってたんですか?」
「ほら、それを言うと親の七光りとか言われそうだから。嫌なんだよね。それに学生の時も俺よりも親父達と知り合いになりたくて近寄ってきた奴ばっかりだし」
「そうですね・・。ごめんなさい。嫌な思いをさせて」
「春は別だよ。今まで俺の親のこと知らなかっただろ?そういう邪な気持ちで俺とパーティ組んだとは思ってないからさ」
ションボリしている春をどうにか慰めようとする。効果があったのかわからないが笑顔になって春がこちらを見る。
「当たり前ですよ!!例えご両親やマシロちゃんの存在がいなくても私はデンスケさんとパーティを組んでました!」
嘘かもしれないけどめっちゃ嬉しい。自然と俺の顔も笑顔になる。
「ありがとう」
なんか恥ずかしいな・・。
「とにかく今はその時間までどうするかでしょ?」
マシロが良いタイミングで声をかけてくれた。あのままだとどうすればいいかわからないところだったわ。
「そうだな。春も家に来るか?パーティメンバーとして紹介したいし」
「いいんですか?」
「大丈夫だ。春は大切な人だからな」
「大切・・・」
そう呟いた春は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「今のはデンスケが悪いよ?」
小声で俺に文句を言うマシロ。
俺も言葉足らずだとは思ったよ?でも仕方ないだろ。まだテンパってるんだから!
「まぁアレだよ!パーティメンバーとしての大切だから深い意味はないぞ!」
「パーティメンバーとして・・」
今度はションボリし始めた。春は感情表現が豊かだなぁ。
「今のもデンスケが悪い」
うるせー!どうしろって言うんだよ!?童貞には荷が重いわ!俺は主人公キャラじゃないの!
「とにかくどうするか決めないとな!」
「そうですね・・。あ!私の防具どうしましょう?」
切り替えたのか春が普段通りに接してくれる。
「ハルも巫女装束でいいと思うよ?デンスケにも言ったけど、それなりに防御力もあるし、修復と清浄がついてるからね」
「なるほど。そしたら私は巫女装束で探索すればいいですね!」
そう言われて、少し想像してみる。
巫女服姿の春。可愛い。
ダンジョンで魔物と遭遇。殺意の波動に目覚める。怖い。
薄ら笑いを浮かべながら巫女服姿のままハイライトの消えた目で魔物に惨劇をかます。おしっこ漏れそう。
絶対ヤバいな!最後のシーンとかシュールすぎるわ!どこに需要があるんだよ!
でもその装備の方が今は良いからな・・。トラウマになりそうだけど、仕方がないか・・。
「そうだね!それじゃ探索の時はデンスケが白衣姿で、ハルは巫女装束になるね」
「わぁ。なんか良いですね!お揃いな感じで」
春が想像をしたのか楽しそうにしている。たしかにお揃い?というか、ザ・神社の人達!って感じには見えるな。
「パーティ名も考えましょうよ!」
「だねー。パーティ名があった方がいい感じだもんね」
「そうか。そしたら何にするかな・・・」
全員で考え込んでいると、春が勢いよく手を挙げた。
「はい!マシロちゃんと愉快な仲間たちがいいと思います!」
「却下」
「なんでですか!?」
「正直ダサすぎる」
「ボクもそれは嫌かなぁ」
「マシロちゃんが言うなら仕方ないですね」
お前はマシロが全ての基準なんだな?2人して仲良くなりすぎだろ。
「デンスケもボクも神社を有名にしたいわけでしょ?」
「そうだな」
俺は金を稼ぎたい、コイツは・・・何でだ?
そういえばその辺の事情を聞いてなかったな。信仰を集めたい理由があるのだろうか?
単純に自分の神社を綺麗にしたいだけなのだろうか?今度ちゃんと聞いてみるか。
「それじゃ、猫福神社で良いんじゃない?」
「まんまだけどな」
「だってボクたちが有名になれば人が神社に来るようになるでしょ?そしたらお金いっぱいだよ?」
確かに。パーティ名を広告にして俺たちがその広告塔になれば参拝客も増えて、ウッハウハだな。しかも明らかに神社関係者っぽい装備で行くしな。
「よし!それにしよう!」
「良いですね!流石マシロちゃんです!」
「そうでしょ?」
得意げな顔のマシロにまたも頬擦りをして、2人して幸せそうにしている。
只管に春はさすマシだな。流石マシロを何回も言ってる。
パーティ名はそのまんまで何の捻りもないが、分かりやすくはあるだろうな。
「そうと決まれば協会にパーティとパーティ名を申請しに行くか」
「そうですね。私もマジックバック返さないといけないです」
「申請しないとダメなの?」
「ん?しなくても良いけど、申請した方が色々便利だな。協会でパーティ用の口座とか作れるし、ドロップ品を売るときにその口座に入れれば良いしな。ソロだったら最初からエクスプローラーカードに付いている個人の口座でいいけど。それにメンバー募集する時も俺たちが今までどのダンジョンのどの階層まで潜ったとかの探索歴が見れるから、いいメンバーが見つかりやすい」
「そうなんだね?昔はボクと初代の2人だけだったから。気にしたことなかったや」
「まぁマシロがいるから、かなりメンバーを厳選しなきゃいけないのはあるけどな」
おいそれと信用できないやつをメンバーにするわけにはいかないからな。悪用されたら堪らん。
「メンバーが多くなったらギルドを作ったりもあるけどな」
パーティメンバーは5人までなので、多くなるとギルドを作り、それを運営していかなければならない。まぁ今の俺たちには縁がないけどな。
「面倒だねー。でも巫女さんも増やしたいし、神主も増やさないとだね。勿論女性神主でもいいけどさ」
「そうだな・・。その辺はもっと神社が大きくなってからだな。そもそも今の段階ではお守りもお札も無いし。・・・まさかその辺も特殊効果ありでスキルポイントから出すのか?」
「そうだよ?なんで?」
「ポイントが常にカツカツになりそうだな」
「深層に行くまではそうなると思うよ。でも最初は特殊効果無しのお守りでいいと思うけどね。それだとスキルポイントをあまり使わないからさ」
早めに引退して左団扇生活は遠そうだな。
「それで、どうします?もう協会に行きますか?」
「腹減ったから、先に飯をゆっくり食ってから協会に行って俺の家のルートでいいか?」
「私はそれで大丈夫ですよ!」
「ボクも!お腹は空かないけど食べたい!」
「じゃあそうするか。どこで食べるんだ?」
「ボクお肉がいい!」
「じゃあ焼肉に行きましょう!」
「そこマシロは入れるのかよ?」
「大丈夫だよ。顔だけデンスケのお腹から出せばバレないよ!」
またあのホラーをやるのか・・。そうするしかマシロに食べさせれないとは言え、ちょっと嫌だな。
とにかく焼肉屋に行く事にした。




