第一話
世界は今進化の時を迎えていた。停滞していた化学は進歩し、人々は数十年前と比べると格段に裕福になった。
それもこれもダンジョンが出来たからである。
ゲームをしている者や物語を読む事が好きな者なら、聞き及ぶことも多々あるだろう。
ダンジョンからはその中にいる魔物を倒す事でお馴染みの魔石がドロップし、また魔石以外に装備品、魔道具、野菜、果物、肉類もドロップが確認され、魔石は科学との融合、ダンジョン産の食材は食べた時の効能、魔道具、装備品は仕組みなどが研究された。その研究の成果が今の世の中だ。
ダンジョン発生より数十年後、エクスプローラーと呼ばれる職業が確立され、人類の中で最も人気で最も人数の多い職業となった時代。1人の男の物語が始まる。
ーーーーーー
高校を卒業した次の日、俺は親父が管理していると言う福岡県の田舎の方にある神社に連れて来られた。連れてこられたと言っても実家から車で30分ほどの場所なのでそこまで遠くはない。
「お前も高校を卒業して一人前かはわからんが大人の仲間入りをした。今日からこの神社はお前に託す」
「一言余計な言葉があったけどな」
「なんだ?お前はもう一人前なのか?童貞なのに?」
「ど、童貞ちゃうわ!」
「嘘乙」
「嘘じゃねーし!」
今この場で俺(高山田亮)と不毛な言い争いをしている高身長に黒髪短髪、イケメンの男は、親父である高山康隆だ。
「はいはい。それは良いとして、お前も卒業してニートしてる訳にもいかんだろ?だからここの神社をやるから自分でどうにかしろ。ここは氏子も総代もいないし、責任役員は父さんと父さんの友達だから、好きにして良いぞ。神社本庁はそもそも所属してないし」
そう言われて改めてその神社を見る。もう何百年経っているかわからないほど古い建物で、朱塗が剥げかけている鳥居、苔のびっしり生えた手水舎、賽銭箱は設置すらされていない。
「廃墟じゃねーか!」
「ん?失礼な!廃墟じゃないぞ!これでも父さんが頑張ってここまで綺麗にしたんだからな!」
「どこに綺麗って言える要素があるんだよ!!どっからどう見ても廃墟じゃないか!しかもさっきの話じゃ、完全に俺1人でやらなきゃいけないって事だろ!?」
「まぁ一応父さん達が責任役員だからな。どうしようも無くなったら手伝ってやる。あとあそこのプレハブ小屋だがな、あそこがお前の住居だから。今日からあそこに住めな」
「はあ!?家はどうするんだよ!?俺の部屋は??」
「あん?お前がいなくなったお陰であそこは父さんと母さん達の愛の巣になるんだよ。もう来んなよ」
「どこに生まれ育った家にもう来るなって言う親がいるんだよ!?」
「ここ」
「アホか!」
先程母さん達と言った通り、親父は重婚をしている。一昔前はダメだったらしいが、今はokになっている。
ダンジョンが出来た当初はそれはもうかなりの数の人類が死んでしまい、それに及び腰になった国がダンジョンを出禁にしたところダンジョンから魔物が溢れ出す大氾濫が起き、更に人類の数を減らした。
今はエクスプローラーがダンジョンの魔物を間引く事により、大氾濫を抑制し、少しずつ人口が戻ってきているところだ。
しかし、エクスプローラーは死と隣り合わせであるし、その危険な仕事に就く女性は未だに男よりも少ない。
その為重婚が認められたままである。勿論女性1人に対して、男が複数も大丈夫だ。所謂逆ハーレムだな。
「母さん達はなんて言ってんだよ?」
「めっっっっっっちゃ賛成してた!」
「マジかよ!?なんでだよ!」
「そりゃ、父さん達は仲良しだからな。残ったお前が自立してくれればラブラブし放題よ」
「バカップルどもめ!」
「照れるな」
「うぜぇわ!」
ダンジョン産の食べ物により、人類の平均寿命は長くなり、またエクスプローラーはダンジョンに潜る事でレベルを上げ、若さを保てるようになった。
因みに父さん達もエクスプローラーだ。しかも世界的に見てもかなり上位の方らしい。
だからかどうかはわからないが、外見はぶっちゃけ30代になってるかどうかくらいにしか見えない。
「そう言う訳だから後は頑張れ」
「おい!いきなり放り出されても何もわからねーよ!」
「大丈夫だ。後は神社の中に入ればわかる」
「中にか??」
「あぁ。・・・。田亮」
「なんだよ?」
「後は任せた・・・」
「おい。急にどうしたんだよ・・。今生の別れでもあるまいし・・」
「父さんはな・・。母さん達とイチャラブしてくるわ!!じゃーな!」
「くそがあああああ!」
そのままとんでもない速度で走り去る親父に精一杯の罵声を浴びせる。
「はぁ。仕方ない、とりあえず神社に入るか」
俺は廃墟にしか見えない神社へと歩く。
これは流石に靴のままじゃなきゃ嫌だな。んー。靴のままだとバチ当たりになるけど、今回は仕方ないだろう。
そのまま土足で上がろうとすると。
(たわけが!!)
「なんだ!?」
(靴くらい脱がぬか!!)
「は?え?誰だ!?」
(ボ、われはこの神社の主よ)
「神社の主??と言うことは神様なのか?」
(そうだ!)
「あ、あぁ。それは悪かった。靴は脱ぐよ」
(うむ。よかろう)
「それじゃあ中に入っても良いか?」
(うむ。許可する)
神社の主に許可をもらい、恐る恐る中へと入る。
(む?お主康隆の縁者かの?)
「え?康隆は俺の親父だけど」
(匂いが同じであるものなぁ。しかし康隆め、漸くやる気になったか)
「どういうことだ?」
(ふむ。康隆の子どもというからには、話を聞いているものかと思うたが違うのか?)
「いや、なんも知らん。俺はここに放り出されただけだ。後は中に入ればわかるとだけ言われた」
(そうかそうか。ところでお主は康隆と違い驚かぬのな)
「まぁ俺が生まれる前から魔物がいるからな。神様がいてもおかしくない」
(ふむ。そういえばそうよな)
なんかこいつ神様っぽくないんだよなぁ。でも当てずっぽうで言ったら自分で認めてたし・・・。
親父は中に入ればわかると言っていたが、正直中に入ったら余計にわからなくなってきた。
「なあ?」
(なんだ?)
「結局親父が中に入ればわかるとか言ってたのはお前のことなのか?」
(そうであろう)
「じゃあこの状況を説明してほしいんだが」
(わかった。それはだな・・)
「あー、待った。その前に話し難いから出て来れるなら出てきてくれ」
(あい、わかった。・・・驚くなよ?)
「おう」
そう言うと、目の前に光が集まり始める。段々と眩しくなり、目を開けていられないほどの光量となる。しばらく目を瞑っていると
「おい」
声がかかる。
やたらと低い位置から聞こえた気がするが、とにかく目を開けてみる事にする。
「ん?どこだ?」
「おい!ここだ!」
下の方から声が聞こえるのでそちらを向くと、可愛い真っ白な猫がいた。
「猫?」
「猫ではない!われが神よ!猫神よ!」
「・・・。いや、猫じゃん」
「違うと言うておろう!」
怒ったのか爪で俺の顔を引っ掻こうとする。しかしその手(足?)を取り、引っ掻けないようにする。頑張って俺の手から逃れようとするが、引っ掻かれるのが嫌な俺が離すわけがない。
「にゃ!?離せ!ボクの手を離せ!」
あ、やっぱ手なんだ?と場違いな事を思いながら離すと
「全く!!何て乱暴なやつなんだ!ボクはこれでも一応神様なんだからね!」
「おぉ。悪い。てかそれが素か?」
「へ?・・・もー!!せっかく威厳たっぷりに出来てたのに!」
「いや、悪いけど、途中からかなり怪しかったぞ?」
そう言われて明らかにションボリとする猫。なんかかわいそうだからフォローしておく。
「いや、あれだ。俺の勘が良すぎただけで、普通の人は絶対わからなかったぞ?」
「ホント?」
「ホントホント」
「それなら良いか」
そう言い笑顔(多分)で頷いている。チョロいやつだ。
「ボクはここ猫福神社の神様の猫神さ。名前はマシロだよ。ここは昔は沢山の信仰を集めていたんだけど、周りの人達がどんどんいなくなってね。それでこうやって荒れ果てたのさ」
昔は町と言えるくらいのところだって本当かよ?めっちゃ周りに何もないぞ?てかマシロってまんまだな。
「それで代々この神社に宮司をしていた君の家人達の中でもとびきりの才能を持ってた康隆に神社の再建を頼んでいたんだけど・・」
「そんな話聞いた事ないけどな」
「まぁそれも仕方ないよ。彼はエクスプローラーの才能も飛び抜けていたから、政府から頼まれたとかで、なかなかこっちのことまで余裕がなかったと思うんだよね。それに神社を中心としたこの辺一帯の土地を買ってもらう事を優先したしね」
本当にそうか?あの親父の事だからここを再建する暇が有れば母さん達とイチャつくとか言いそうだけどな。
「それで今回俺にお鉢が回ってきたと言うことか?」
「多分ね。康隆に直接会ったわけではないから真意はわからないけど。でも君も素晴らしい才能を持っているよ。なんせボクと会話ができたのは現代では君が2人目だから。他の人には猫が鳴いてるように聞こえるらしいしね」
「そうなのか?てか自己紹介がまだだったな俺は田亮って言うんだ」
「デンスケね。わかった」
「ところでここは本庁にも属してないし、氏子もいない崇敬会もないわってことだよな?」
「まぁそうなるね・・」
「これもう無職みたいなもんじゃん!」
「ちちち違うよ!!ちゃんと神主だよ!康隆が宗教法人化したから職業欄に神職って書けるよ!」
「書けても収入ないだろうが!無職と変わらんだろ!底辺神主だろ!」
「こ、これからだよ!これからデンスケとボクでこの神社を盛り上げていこうよ!」
「出来るか!?俺は帰る!」
そう言って歩き出す俺をみるとアワアワと焦り始める猫。
「待ってよ!ねぇ!待って!」
「んだよ?」
「もう少し話を聞いて!お金も稼げるようになるから!!」
「本当に稼げるようになるのかよ?」
「大丈夫!絶対なれるよ!だから最後まで話を聞いてよ!」
「・・・・わかった。話の途中でも稼げないと思ったら帰るからな。俺は無職だけは嫌だ」
「大丈夫大丈夫!」
めちゃくちゃ焦る白猫を少し可哀想に思った俺は仕方なく話を聞く事にした。
それに今帰ったところで俺の家はあそこのプレハブ小屋だしな。
「じゃ、じゃあいいかな?」
「早くしてくれ」
「わかったよぅ。あのね、この神社を再建するにはまずエクスプローラーになるしかないんだ」
「何でまた?」
「それは、そもそもダンジョンは数千年前にも存在していてね。この神社もその当時の文明の力で建てられたのさ」
「そんなに昔からあるのか?そりゃボロいわけだ」
「ボロって言わないでよ!」
「悪い悪い。それで?」
「もう!それで建てられたのはいいけど、急にダンジョンが無くなっていって。その当時の文明は殆どが姿を消したんだ」
んー。これは所謂オーパーツとかもそれの名残りだったってことか?しかし何でダンジョンは消えたのだろうか?
「ダンジョンが消えた理由はボクにもわからない。でも今回ダンジョンが復活した事でこの神社を再建させる手立てが出来たのさ」
「ふむ。それでどうやって再建させるんだ?」
「それはね。ボクと一緒にダンジョンに潜ってSP、所謂スキルポイントを稼ぐんだよ!」
「SPでどうにかなるのか?」
「うん!ボクはこの神社と繋がっているからね。SPを使って色々な機能をつける事が出来るんだよ!」
「それこそ親父とすればいいだろ?アイツはエクスプローラーの中でもかなり上位だぞ?」
「それが・・。康隆とレベル差がありすぎてSPが全然たまらなくてね・・・」
授業で聞いたことあるな。SPは魔物を倒すことによって人体に蓄積され、SPを1でもいいから獲得すると現れるスキルボードを使い、スキルを覚える。それにスキルは個人個人のスキルスロットの数だけしか付けれない。レベルが上がると個人差はあれどもスキルスロットが増える。あと、レベルの概念があり、それがその存在の位階を表すと。その差が大きい人物達が一緒に魔物を倒してもSPやレベルを上げるための経験値は獲得できない。勿論自分より格段に弱い魔物を倒してもダメ。
「お前のレベルは?」
「え?」
「いや、だからマシロのレベルいくつ?」
「・・・3」
「プッ!」
「笑ったなぁ!仕方ないでしょ!康隆と一緒に潜れるようになった時は彼はもう20あったんだよ!」
「神様なのに親父よりレベル低いとか・・。笑えるw」
「むーっ!もういいもん!他の人に頼むもん!」
「ん〜?俺と親父しか会話できないのにどうするんだよ?」
「どうにかするもん!」
駄々っ子のような言葉でヘソを曲げるマシロを見て、悪いことしたかなと思い、声をかける。
「ったく。悪かったよ。笑いすぎた」
「シャーっ!」
「猫かよ」
「猫神だよ!」
「そうだったな。まぁとにかく俺がエクスプローラーになってお前と一緒にダンジョンに潜ればいいんだな?」
「・・・潜ってくれるの?」
「いいよ。その代わり金が稼げないと嫌だぞ」
「大丈夫だよ!エクスプローラー自体お金稼げるでしょ?それに神社が軌道に乗れば引退してからもずっとお金が入るよ!」
「引退してからもずっと・・・?よし!それなら直ぐにでもなろう!」
「うんうん!それがいいよ!早速ダンジョンいく?」
「いや、まずは協会にいって軽い講習を受けて、資格取らないといかんだろ」
「そうなの?」
「あぁ。と言っても1日かからないから大丈夫だろ」
「そうなんだ?じゃあここのダンジョンも入れないのかな?」
今なんて言った?ここにダンジョンがあるのか?おいおい。それはヤバいだろ。そもそもここは私有地だから誰もダンジョンに入ってないだろ。ということは大氾濫がおきるんじゃ??
「ここにダンジョンは本当にあるのか?」
「あるよ?ボクが作ったダンジョンがあるんだ」
「お前が?どうやって作ったんだよ?」
「さっき言ったSPで作ったんだよ。ボクは人間と違ってSPでスキルを取るんじゃなくて、神社の周りを整備したり、設備を作ったりが出来るんだ。その代わり便利なスキルは習得できないけどね」
何だそれ?町を発展させたりするゲームみたいで楽しそうだな。それはいいけどダンジョンがあるならそこに潜るのもありか?ここは私有地だしここにダンジョンがある事を親父が報告してるわけないしな。面倒臭がりだし。だから守衛とかもいないだろう。
「行ってもいいけど大氾濫とかは大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だよ!この前康隆がかなり減らしてくれたから」
「そっか。それなら安心だな。それじゃちょっと潜ってみるか」
「うん!行こ行こ」
「それでどこにあるんだ?」
「本殿の裏だよ」
「じゃあ行くか!」
ウキウキ気分で俺たちはダンジョンへと向かった。