遅れた宴
「報酬はともかく俺たちは生きてる!それじゃ乾杯!!」
城下町にある飲み屋を適当に選んだフラスコ達は、再開を祝して宴に突入したのであった。
「隊長いいんですか奢って貰っちゃって……遠慮しませんよ?」
「バカめ、いい上司ってのはな。いい部下を手中に留めとくためにはケチなことはしねーんだよ!」
結局のところ戦闘屋の喜びは、生死を賭けた戦いを超えた先にある、一瞬の快楽に集約されるのだろう。
彼らとて同じ事であった。
だが、フラスコやベール兄弟がガンガン酒を流し込んでいく中、浮かない顔が一人。
暮れていく空を心配げに眺めるジャンクだ。
裸踊りを始めたベール兄弟を囃し立てるフラスコに、そっと耳打ちするジャンク。
「隊長すみません、そろそろお暇を」
「まだ早いじゃねえかよ!もちょいもちょい……」
「ウチのが今日はご馳走用意してくれるって言ってたもんで……」
ベール兄弟が耳聡く聞きつけ、ジャンクの両脇を固める。
「さっすが!隊長もこの手の速さは見習った方が良いですよ!」
「へべえ、べオロロロ……」
「汚えな!ジョンコラ!」
裸とゲロと酔っ払いの地獄絵図を前にしたジャンクは、大声で宣言する。
「私は!愛する女性の待つ家に帰ります!」
その勢いに気圧されたフラスコ達はぽかんとしつつ、店を出ていく背中を見送るしかできなかった。
ジャンクの去った席に、さっきまでのテンションは無い。
ジョン・ゲーロが完全にダウンしていることもその要因の一つだろう。
「あいつ、幸せそうだったよな」
「ええ……俺達みたいなヤクザもんじゃないんですよ。きっと」
「もし魔王軍がまた鎌首擡げやがったら……来てくれるかな」
「さぁ、ガキでも出来てたら来ないでしょうね」
もうすっかり酔えなくなっている。潮時だろう。
「またどっかで会おうな、おい勘定!」
辺りはすっかり暗くなっている。
そういえばクラーレに土産の一つでもと思い立ったフラスコは酔った頭をフル回転させつつ、
「オリハルコン鉱脈のあったとされる村の煌びやかな石ころ」をふんだんにあしらったネックレスを片手に帰路に着いた。