魔女アリサ
今日はクラーレにとっても開放的な日だった。
陰気で他人を気に掛けるということを母の胎内に忘れたような主人も、今日ばかりは何となく浮かれていたように見えた。
あいつにも仲間がいたんだと微笑ましく思う反面、城に参集されるほどの人間だったことも今更ながら思い出す。
彼の仲間たちはどんな人々なのだろう?
もしや文武両道で女性との関わり方を知っているような素敵な男性とお近づきに!?
などと妄想が浮かぶが、フラスコによって現実を思い知らされたので過度な期待はよしておこう。
パンとチーズの在り処を書いたメモを残し、久しぶりにメイド服以外のワンピースに袖を通す。
フラスコが早く帰ろうが遊びまわっていようがこれで関係ない。
クラーレは意気揚々と街へ繰り出した。
……いや、繰り出しかけた。
左腕があるはずの袖が風に吹かれ、右足の代わりに松葉杖を地面に突き立て、くすんだローブに身を包んだ人間が我が家に向ってくるのである。
「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」
思わず駆け寄り顔を覗き込むと、それなりに顔には自信のあったクラーレさえもブルっちまうクール系美女であった。
「お気になさらず。もう慣れましたから」
やんわりとクラーレの手を払った美女は、クラーレの顔をじっと覗き込む。
「何?」
「フラスコ様に抱かれましたか?」
このローブ美女は初対面のワンピースお姉さんに何をほざいてるんだろう。
棚の奥から発掘されたいつの物かも分からない茶葉で煎れたお茶を優雅に飲むローブの女性はアリサと名乗った。
どうやらフラスコのチームの一員らしい。
「今日は城に行ってるけど、あなたは行かなくて良かったの?」
「私、晴れの場に出ると蕁麻疹が出るんです」
「ふーん大変ね」
「ところで……フラスコ様のお部屋はどちらに?」
「二階上がって右」
しずしずとお上品に、階段を上って右の部屋へ吸い込まれるように入ったアリサは、躊躇うことなくフラスコのベッドにダイブを決めた。
「ええ……」
世界は広い。
改めて痛感したクラーレであった。