5人の暗殺隊
素振りにもいい加減飽きたフラスコはキッチンを漁るが、食い物らしいものは何一つ無い。
それどころか料理をやろうとして飽きたのか、ゴミ入れには腐敗した野菜のようなものが入っている。
頭を掻きながら部屋のベッドに飛び込んだフラスコは、窓からペキンパー城を眺める。
華美な装飾を排した堅牢な城塞であるペキンパー城を中心に発展したレオーネ国は、ヘンリー大陸の東端に位置するフォード半島に築かれた小国である。大陸側の隣国、マカリニ国との国境には長大なモニュメント山脈があり、外敵の侵入を防いできた。
しかし、敵は内からも現れる。魔王軍は突如として南端の村を制圧して旗を揚げた。
軍といってもその正体は過激な魔法結社とマカリニ国から逃亡した反政府集団が手を組んだ小規模なものだったが、ホールデン砦の守備隊を返り討ちにするどころか吸収。
村から始まった魔王軍は一つの市を手中に収めた。
そんな中、マカリニ国から魔王軍討伐の遊撃隊……通称勇者隊が国内に潜入したとの報告がもたらされた。
もしマカリニの勇者に魔王を討たれては、食い込まれる借りを作ることになる。
焦ったレオーネ国の王、コルブリッチ王は魔王軍撃滅を全軍に命じる。
一昼夜続けられた魔・砲合同による一斉攻撃を受けてホールデン砦は文字通り更地と化した。
しかし、勝利に沸く国民とは裏腹に瓦礫の下から発見されたのは魔王の軍門に下った農民や兵士ばかりだったため、秘密裏に魔王・幹部クラスの掃討隊が組織されることとなる。
何十という部隊がそれぞれ『秘密』の看板を背負って『密命』を果たしに向かった。
そのうちの一つが、ハリー・フラスコ隊長以下4名からなる隊である。
その頃のフラスコは、西部の町バレルに駐屯する部隊に所属していた。
鉱山での採掘を主な資金源とするバレルでは、落盤の恐怖と日々戦って精神を摺り減らした炭鉱夫たちが、日銭を博打や酒、女で散らすことが日常となっていた。
金と快楽で釣れるこの町の荒くれどもは、資金を持った結社にとっては兵隊を揃える絶好の場所である。
さらに、無秩序な採掘で掘られた洞窟は魔法や剣術、弓術の練習場としても最適だった。
そのため、バレルで鍛えられた結社が城下で暴れることが増えて行った。
駐屯する部隊ににも結社との戦闘を避ける風潮が生まれ、いつしか結社狩りを発令する司令官が闇討ちを受けるようにまでなっていた。
そんな中、フラスコのチームは我関せずと地道に結社狩りを続けており、司令官の推薦の元に実力十分と判断され、ペキンパー城へ召喚されるのであった。