夢の時
目を逸らすフラスコの姿に、クラーレの胸はザワつく。
「アイツとくっつけとか言う気じゃ無いでしょ?」
「悪い話じゃないだろよ……こんなトコにいるよりは」
ソファーの背もたれに手をかけ、体を起こそうとするフラスコだったが体が言うことを聞かない。
またソファに寝転がる。
呆れたようにため息をついたクラーレは、フラスコを見下ろして言う。
「私が家庭に引っ込んでるタイプに見える?無理でしょ」
今一度、フラスコが力を入れて起き上がり、クラーレを見る。
何かに縋るようなその目は__
「飯だけでも、一度でいいから食ってやってくれないか、アイツ良い奴なんだよ……」
それだけ言うとフラスコはまた眠った。
クラーレは、何とはなしに眠るフラスコの頭を撫でた。
クラーレは折れた。
そして今、テーブルを挟んで正装のゴルビーと向かい合う形で料理の到着を待っている。
クラーレはこの日の為にアリサと選んだドレスを着ている。
アリサは終始楽しそうだった。
楽しむアリサを愛でるのは良しとして気は常に重い。
ちなみにこのドレス代はフラスコの貯金から出た。
国から渡されるのは飢えない程度の金だけだ。
向かいに座るゴルビーは終始そわそわと、それでいて嬉しそうに笑みを浮かべている。
「みっともないからもっと締まった顔してよ」
「ご、ごめんね」
無理して顔を整えようと百面相するゴルビーを見て、思わず吹き出すクラーレ。
それを見たゴルビーもまた微笑む。
頬を膨らませるクラーレ。
「何」
「いやぁ、何か楽しくってさ」
照れ臭そうに頭をかくゴルビーを鼻で笑うクラーレ。
「バカ」
豪勢な料理が運ばれて机に並べられていく。
果たしてフラスコハウス何日分に値するだろうかと勘定しそうなクラーレの心には、
初めの重たい不安はもう消え去っていた。
他愛もない話をした。
家族のこと、故郷のこと、好きなもの、嫌いなもの。
ハッキリ言って大人と呼ばれる年齢の人物がするには幼稚な会話かもしれない。
だが、二人は確かに笑い合っていた。