戦友の幸せ
「アンタ覚えてる。週一の童貞ちゃんでしょ」
クラーレは近付いてくるゴルビーから目を逸らさずに言う。
「ゴルビーだよ。忘れちゃったかな」
「忘れてたら帰ってくれる?」
「思い出させてあげる」
クラーレの前に立ったゴルビーは、じっと目を見つめる。
「クラーレさん……俺はあなたに救われたんだ、今度は俺が救ってあげる」
「救うって何から?」
「何って……あの娼館からに決まってる」
走る足音が近付いてくる。
「あぁ、アレね。ごめん」
「え?」
この場に踊り込んで来た一人の男は声を張り上げる。
「クラーレ!!」
その声にゴルビーは凍り付いた。
その隙を突いてゴルビーの側を駆け抜けたクラーレは、
声を張り上げた主、フラスコの腕に抱き着く。
「フラスコ……フリー・フラスコ!」
振りむいたゴルビーはフラスコの顔を見る。
視線に気づいたフラスコもまた声を上げる。
「ゴルビー!久しぶりじゃねえか!」
腕に抱き着いたクラーレを放したフラスコは、ゴルビーの手を握る。
男の友情を見せつけられたクラーレは、ポカンと口を開ける。
「知り合い……?」
「フラスコ様は帰られないんですか?」
「そ、女より男を選んだってわけ」
夕飯をガツガツと食らっていくクラーレを、アリサは心配そうに見る。
「何かイライラしてます?」
「別に!」
棚から酒瓶を出し取り出して栓を抜いたクラーレは、勢いそのままコップに注いで喉に即流し込んだ。
「ほどほどにしてくださいね……」
テーブルに突っ伏して酔い潰れたクラーレが目を覚ましたのは深夜だった。
既に机に皿は無い。どうやらアリサが洗ってくれたようだ。
体を起こすと、背中にかけられていた毛布がパサリと落ちる。
ソファに目をやると、フラスコが眠っていた。
落ちた毛布を拾ってフラスコにかけようと近付いたところでフラスコが目を覚ます。
「あ、起こしちゃった?」
「いや、寝惚けてただけだよ」
寝転がったまま、クラーレを見上げたフラスコはしみじみと言う。
「知らなかったけど……結構人気だったんだな」
「あぁ、あいつから聞いたんだ。どういう関係だったの?」
「昔の仕事仲間だよ。色んな戦場で鉢合わせてさ……敵の時も味方の時もあったっけ」
「敵でも、仲良くできるんだ」
「俺らは意義のある戦い何てしてこなかったからさ、お互いに商売だよ。町で会えば酒くらい飲む」
ソファの背に尻を置いたクラーレに、フラスコは言う。
「あいつは良い奴だよ。ちょっと不器用だけど、ああいう奴が幸せにならにゃ」
何かを言いたそうなフラスコの目は、クラーレを苛つかせた。
「言っとくけど私にはどーしようも無いからね」