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傭兵隊長ゴルビーの執着

魔王に宣戦布告のキッスをかましたものの、フラスコには未だ何もあてはない。


今日も思案する振りをしてクラーレの買ってきた硬いパンをもそもそと齧っている。


アリサは森に散策に出ている。どんな危険な目にあったとしても素材集めを止められないのは魔法使いのサガという奴だろう。


夜には戻りますと言って出て行ったアリサにお手製サンドイッチを渡したクラーレはやる気を支配するスイッチをオフにされたのだろう。昼飯に出てきたのは反芻して摂取することが前提として作られたとしか思えないパンと瓶のそこにこびりついたジャムであった。


置くだけ置いて買い出しに出かけたクラーレが戻るのは夕方だろう。


考える時間はあっても材料が無い。

フラスコにできることはパンを咀嚼することだけであった。




クラーレの前職は娼婦だ。


ほとんどの客は一夜限りの関係を望み、彼女たちもそれに応える。

だがまれに、執着する関係も生まれる。


客が娼婦に、娼婦が客に。


金や容姿の釣り合いが取れていなければ概ね待っているのは破綻だ。

しかし中には破綻を認めない者もいる。


クラーレは今まさに、破綻を認めぬ男に追われていた。


息を切らして路地に逃げこんだクラーレは、壁に背を預けて頭を落ち着かせる。

傭兵ゴルビー。確かそんな名だった。


娼館にいたころ、週末に欠かさず現れクラーレを抱いていった男だ。

初めて来たときに彼は童貞だと言っていた気がする。


運命だとか女神だとか聞き飽きた言葉が脳裏に蘇る。


結社狩りの規模が大きくなったころ、彼は現れなくなった。

死んだか飽きたかのどっちかだと思ってすっかり忘れていたが今になって再開するとは。


気付けば買い物袋も何処かへ落としてしまった。

今持っているものと言えば……何気なくポケットに手を入れたクラーレの指が紙に触れる。




彼女の名前はクラーレ。


今でも初めての夜は覚えている。

初めては本気で好きな人と何て言っていたら皆に笑われ、強引に連れていかれたあの店。

気さくで明るい、リードしてくれた彼女。


魔王狩りも落ち着いて一休みをしようとブロンソンへ来たら彼女がいた。

これを運命と言わずして何と言おう?


血反吐を吐いて貯めた金もある。傷を重ねて得た、小部隊だが傭兵隊長の冠もある。

あんな世界からは、俺が救い出してやる。





ブロンソンの町は区画整理されたうえで作られた街とは言えない。


中心にあるペキンパー城の周囲から順に、カビが生えるように増殖していった街だ。

全ての道が通じておらず、すべての場所に通じる抜け道がある。

平たく言えばそんな街である。


クラーレもまた、この町の全容は把握していない。

抜け道を見つけて撒いたと思えば行き止まりで距離を詰められる。

何より体力が違い過ぎる。

明らかに距離が詰まってきている。


工場区の一角にクラーレは追い込まれた。

三方を高いレンガの壁に囲まれたこの場所に逃げ場はない。

声を出しても工場の機械音・衝突音にかき消されて声は届かない。


そして、ゴルビーがクラーレの行き場を立ち塞いだ。

「話を聞いてくれるね?」














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