庇護
ベッドに倒れこんだアリサは、さっき見た光景を消そうと毛布に顔を埋める。
クラーレさんが、フラスコ様を部屋に連れ込んだ……
二人はそういう関係ではないことは分かっている。
確かめたいが、もしも万に一つ彼らがその手の関係になっていたとしたら。
悶える彼女の腹に潜む魔王は、事の顛末を楽しみにほくそ笑むのだった。
夕飯時になり、アリサは一階へ降りてきた。
テーブルの上に並ぶ料理は日に日に質と量が向上しているように思える。
これも、フラスコ様のため……?
「さっ、ご飯しよ?」
楽しげにあれやこれやと料理の説明を始めるクラーレの声が遠くなる。
「大丈夫?食欲なかった?」
俯いたアリサの顔を心配そうに覗き込むクラーレと目が合うと、
途端に申し訳なさがアリサの思考を支配する。
「そんなことありません!とっても美味しそう……」
食べ進めるアリサを見つめるクラーレの顔は、それはもう穏やかなものであったが、
当のアリサにとってはそれはもう胃と脳へ微弱なダメージを与えるものであった。
クラーレに勧められるままに結構な量を食べたアリサだったが、思いのほか身体への負担は無い。
もしや大食い体質になっていたのかと驚愕するアリサだったが、何のことは無い。
魔王が黒雲に食わせているためであるが、アリサがそれを知る由は無い。
アリサが部屋に戻った音を聞いたフラスコは、抜き足差し足クラーレの部屋から出てくる。
どうにもクラーレの匂いがするベッドで眠り続けるほどの根性は無かったようだ。
1階に下りると、丁度クラーレが食事をしているところだった。
「何だ、一緒に食わなかったんだ」
「食べてるの見てたらもうお腹いっぱいなっちゃって」
そう言うクラーレの笑顔は、初めて会ったときには想像もできないようなものだ。
二人きりでずっと暮らしていたと思うとゾッとする。
破綻しても国の目がある限り住み続けなければならない。
それこそが服従の証であり平穏の理由だ。
アリサのお蔭で苦には感じない。
「そうだな、好い子だアリサは」
「ね?……そだ、今のうちに洗って着替えちゃいな」
クラーレに促されるままに服を脱がされ水浴びをするフラスコは腹を括る。
俺たちの大切な仲間アリサ。そして彼女を姉のように母のように包み込むクラーレ。
この世界はどれほど血反吐をまき散らしても守らねば。